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映画業界と女性たち…『私ときどきレッサーパンダ』制作陣やキャスティングのドキュメンタリーから迫る

3月の女性史月間に合わせ、映画業界の裏側で働く知られざる女性スタッフたちの存在にドキュメンタリー作品から迫る

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『私ときどきレッサーパンダ』(C) 2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
『私ときどきレッサーパンダ』(C) 2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
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  • 『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』 (c)Casting By 2012
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現状の女性差別や搾取に目を向け、女性のエンパワメントについてともに考える映画やドラマを紹介してきた3月の女性史月間。では、映画業界の裏側で働く女性スタッフたちはどうだろう? 4月2日(土)より日本公開される『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』や大人気アクションシリーズを支える『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』といったドキュメンタリー映画から迫りつつ、ディズニー&ピクサーの最新アニメーションでディズニープラスの新作映画歴代No.1(配信後3日間の世界総視聴時間)を記録した『私ときどきレッサーパンダ』の女性監督や女性スタッフたちにも注目。

いずれも、知られざる存在ながら私たちが親しむ映画の世界を支え、未来を担う、まさしくヒーローのような女性たちだ。


ドキュメンタリー作品から見る映画と女性たち


『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(Amazonプライム・ビデオほかにて配信中)は『ワイルド・スピード』シリーズで知られるミシェル・ロドリゲスらが歴代のスタントウーマンたちに敬意を捧げ、彼女たちに正当な評価を与え、称えるために製作したドキュメンタリー映画。いままで確実に存在してきたはずなのに、“見えないようにされてきた”重要な女性たちが次から次へと登場する。

『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』

まず、1910年代のハリウッド創成期で多くのスタントをこなしていたのは女性だったことが明かされ、映画が一大産業として成立していくにつれて、女性たちが脇に追いやられていったことが語られる。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ではブラッド・ピットがレオナルド・ディカプリオ演じるTVスターのスタントダブルを演じていたが、本作ではその後の70年代、ウーマンリヴ運動の流れの中で誕生したTVシリーズ版「ワンダーウーマン」や「チャーリーズ・エンジェル」「フォクシー・ブラウン」などで活躍したスタントウーマンの先駆者ジーニー・エッパー、ジュリー・アン・ジョンソン、ジェイディー・デビッドらが登場。現在マーベル映画やDC映画で引っ張りだこの世代がインタビューする構図に胸が熱くなる。

黒人女性であるジェイディーは“スタントマン”協会には入れてもらえなかったと話し、黒人スタント協会は創立時から男女の隔てがなかったと打ち明ける。ジュリーらによってスタントウーマン協会が設立されるが、やがてジーニーが会長になると大手スタジオから干されるようになったと語り、TV界初の女性アクション監督となったジュリーが命がけの撮影現場でドラッグの蔓延を指摘すると不当に解雇された(裁判にもなった)ことも語られる。

『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』

彼女たちは女性であるがゆえに、求められる能力や実力を確実に示して結果を残すために、真摯に日々トレーニングに打ち込み、実際の撮影現場では繰り返すことのできないシュミレーションを何度も繰り返し、成功をイメージしている。常に命と隣り合わせゆえだ。撮影現場の安全性は最優先事項であり、あまりに危険な場合には「ノー」と言える関係づくり、つまり相互間のリスペクトや信頼関係の構築が重要であることが示唆される。そこにバイアスが働いてしまったら、安全性は担保されない。2017年『デッドプール2』撮影中に亡くなったジョイ・SJ・ハリスさんや、2021年公開『ブラック・ウィドウ』に登場した多くの“ウィドウたち”などにも思いを馳せたくなる1作だ。

“男性中心の業界団体”から猛烈な反発を受けながら、地位向上のために闘ってきたのはキャスティング(配役)・ディレクターも同じ。2012年にアメリカ公開された『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』(原題:Casting By/4月2日より公開)では、グレン・クローズベット・ミドラーから、アル・パチーノロバート・デ・ニーロ、ロバート・レッドフォードメル・ギブソンらを見出し、ハリウッドで長年活躍したキャスティングの先駆者マリオン・ドハティを中心にキャスティング・ディレクターの仕事に迫る。

『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

映画業界で最も重要な仕事の1つでありながら、最も知られていない仕事といえるキャスティングを支えてきたのは、数多くの女性たちだったという事実。メインキャスト、監督・脚本・製作・撮影・編集…といったスタッフに続いて「Casting By…」とクレジットされるまでにどれほどの旅路があったのか、マリオンたちに抜擢されてスターになった名優たちの顔ぶれとともに注目してほしい。ちなみに2019年、米アカデミー賞に先んじて英国アカデミー賞がキャスティング部門を新設、本年度は『ウエスト・サイド・ストーリー』が選ばれている。

『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

また、『ようこそ映画音響の世界へ』(U-NEXT、Amazonプライム・ビデオほかにて配信中)では映画の陰の立役者といえる音響に携わる人々、効果音を作成する人やミキサーなどについても迫っている。

90年代に『デイズ・オブ・サンダー』『アルマゲドン』『クリムゾン・タイド』といったアクション大作に携わり、現在は南カリフォルニア大学(USC)映画芸術学校でも教鞭を振う女性監督ミッジ・コスティンは、本格トーキー映画『ジャズシンガー』(27)から『キングコング』(33)、『市民ケーン』(41)、『鳥(63)、『ゴッドファーザー』(72)、『スター誕生』(76)、『スター・ウォーズ』(77)、『地獄の黙示録』(79)といったエポックメイキングとなった名作から音響を紐解いていく。『ブラックパンサー』の監督であり、本作にも出演しているライアン・クーグラーは彼女の教え子の1人だという。

『ようこそ映画音響の世界へ』

そして現在に近づく後半になるにつれ、映画音響の分野で史上初めて女性でアカデミー賞を受賞したケイ・ローズ、『トップガン』で迫力のジェット機音を作りだし、アカデミー賞候補になったセシリア・ホールや、『ラ・ラ・ランド』『ファーストマン』などを手がけ、同候補になったアジア出身の効果音編集者アイ=リン・リーといった女性たちが現れてくる。「夢みたいな、好きな仕事についている」「性別は問題ではなく、実際に必要なのは指先の動きだけ」と語る、“映画の音”を支える重要人物たちは実に生き生きとした表情をしている。


知っているか否かで、映画の見方が変わる!?


『ハリウッドを斬る!~映画あるある大集合~』Netflixにて配信中

Netflixでは興味深いドキュメンタリーが配信されている。ハリウッド映画でお決まりとなっている“お約束”や“あるある”シーンの数々を紹介する『ハリウッドを斬る!~映画あるある大集合~』は、子役から活躍して80年代の青春映画や「ザ・ホワイトハウス」「9-1-1:LONE STAR」などに出演、ハリウッドを知り尽くす俳優ロブ・ロウがナビゲート、映画関係者や俳優たちがインタビューに応じている。ロブはシスジェンダーの白人男性である自分がこれを語るのは画期的だと冗談めかしながらも、人種差別や、LGBTQに対する差別、そして女性差別や性的搾取などに辛辣なユーモアを交えて斬り込んでいく。

例えば「ハイヒール・アクション」の項では、なぜ、『ジュラシック・ワールド』でクレア(ブライス・ダラス・ハワード)はティラノに追われる大ピンチの際にもハイヒールを履いているのか。なぜ、パメラ・アンダーソンはアクション映画『バーブ・ワイヤー/ブロンド美女戦記』で動きにくそうなハイヒールやレザースーツ姿なのかを問う。「ブラをつけたセックスとハイヒールの戦闘だけは断る」とフローレンス・ピューがキッパリ言い切ってくれるのが痛快だ。

『ハリウッドを斬る!~映画あるある大集合~』Netflixにて配信中

『アベンジャーズ』から『トイ・ストーリー』まで、男性的集団の中に女性が1人という「紅一点」(スマーフェット)が存在する意味や、“内向的な主人公を、明るく奔放な言動で翻弄しながら鼓舞する女の子”という男性の幻想を具現化したようなキャラクター「MPDG(MANIC PIXIE DREAM GIRL)」にも言及し、男性は女性から与えられるばかりで何かを女性に与えることはないのだと説明される。

さらに、同性愛者が亡くなる伝記映画はアカデミー賞を受賞しやすいことにも触れられ、同賞候補になったLGBTQの登場人物は約40%が劇中で亡くなるといった指摘もある。加えて、とりわけトランスジェンダーの女性がハリウッドの映像作品でどのように搾取、差別されてきたのかを、「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のラヴァーン・コックスら当事者の俳優たちやクリエイターらが語るドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』も必見だろう。


女性制作陣のパーソナルな物語を反映


『私ときどきレッサーパンダ』

ピクサーの気鋭女性スタッフが中心となって作りあげた傑作『私ときどきレッサーパンダ』のメイキング・ドキュメンタリー『レッサーパンダを抱きしめて』(ディズニープラスにて配信中)は、1つの希望というべきか、業界の明るい展望の可能性を示唆する。監督は中国生まれ、カナダ・トロント育ちのドミー・シー。“肉まん”を子どもになぞらせた短編『Bao』で第91回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞、ピクサーで初の女性監督として、また初のアジア人女性としてオスカーを手にしている。

ドミー監督にとって『私ときどきレッサーパンダ』は初めての長編映画。母親の前ではいつも“マジメで頑張り屋”、でも友達といるときはハメを外して遊んだり、ボーイズグループ「4★TOWN(フォー・タウン)」の推し活に忙しい10代の主人公メイは彼女自身を投影したキャラクターであり、自身の母親との関係が基になっているという。母親が教育熱心で娘もそれに応えようとするのは、アジア系の移民女性として生き抜くためには必須なこと。同作はこうした極めてパーソナルな面を持ちながらも、普遍的な母娘の関係や友情、アイドルへの憧れと、ある意味“最悪な年ごろ”で“自分自身を大嫌い”になりかける思春期特有の心身の変化も誠実に描き、共感を集めている。

『私ときどきレッサーパンダ』

そのドミー監督と、『Bao』でもタッグを組んだプロダクション・デザイナーのロナ・リウ、プロデューサーのリンジー・コリンズ(『ファインディング・ドリー』『ウォーリー』)、視覚効果監修のダニエル・ファインバーグ(『ウォーリー』)の4人を、プライベートも交えながら追ったのが『レッサーパンダを抱きしめて』。各部署の責任者が女性ばかりだったのはドミー監督も初めての体験だったそうで、「空気感が全然違った」と作中で語っている(実は上記で紹介した過去のドキュメンタリー映画の中には、セクハラや性加害で告発された“映画界の第一人者”が何人もいる…)。

『私ときどきレッサーパンダ』

監督が『私ときどきレッサーパンダ』について「リアルで、奇妙で、具体的。だから人は惹きつけられる」と語ったように、彼女たちのパーソナルな部分にも踏み込んだメイキングもまたリアルで、具体的。ロックダウン下で余儀なくされたリモートでの制作という、奇妙な状況も功を奏したことが示されている。女性たちがこんなにもキラキラとしながら作りあげた映画なのだから、最高に決まっているのだ。

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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