「いまや家族同然」日系人ホームレスの画家を描くドキュメンタリー『ミリキタニの猫』

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『ミリキタニの猫』リンダ・ハッテンドーフ監督 photo:Fumio Ando
  • 『ミリキタニの猫』リンダ・ハッテンドーフ監督 photo:Fumio Ando
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  • 『ミリキタニの猫』 -(C) lucid dreaming inc.
N.Y.の路上で、猫の絵を売る80歳の日系人ホームレス。彼の名前はジミー・ミリキタニ、そして“偉大な画家”。彼の絵を買った彼女に、彼は自分の写真を撮って欲しいとねだる。軽い気持ちでビデオカメラを抱えて撮影を始めた彼女は、やがて9.11事件の日、煙の中で独り絵を描き続ける老人を見かね、自分の家へと招き入れた。偶然の出会いによって起きる奇跡と平和への願い。それらを暖かいユーモアで描いたこのドキュメンタリー『ミリキタニの猫』は、監督たちのホームタウンであるトライベッカ映画祭での観客賞、東京国際映画祭での日本映画・ある視点部門最優秀作品賞をはじめ、各国で賞賛を受けている。本作のプロモーションのために来日したリンダ・ハッテンドーフ監督に、話を聞いた。

「私は実は、自分を映画の中に出すなんて一切思っていなかったの。とてもシャイな人間だし。はじめは彼の路上での生活についてのドキュメンタリーを作るつもりだった。路上の芸術家の四季、みたいな感じでね。でも9.11事件が起こって、カメラを抱えて外に出て、ものすごい煙の中で咳をしているジミーを見たら、ただ何もせず写真を撮ることだけなんて出来なかったわ。だからカメラを構えるのを止めて、『建物の中に入らなきゃ駄目よ、うちに来て』って言ったのは、本当に自然に起きたことだった。数日後には朝目覚めてから『あ、私ったら何やってるのかしら!?』なんて思ったけれど(笑)。とにかく、予想外の出来事が起きてしまって彼は自分の家にいるし、その後の撮影をどうしようかなんて、本当にわからなくなってしまった。でもある朝、お茶を飲みながらお互い顔を見合わせてたら、ジミーが言ったの。『ああ、今日は良い光が入るね、写真を撮ったらどうだ?』って。それで、私はカメラを取り出して再び撮影を始めたというわけなの。(自分自身も撮影対象であるということに関しては)私自身、ジミーの物語の中での自分の役割は重要だと思ったし、映像作家は自分の撮影対象を気にかけているからこそ、それについての映画を作るのよね。私の場合も同じ。私は語り手で、これが私の遭遇した物語です、というわけ」。

アメリカで生を受けたにもかかわらず、戦争中に抑留され市民権を失ってしまったというミリキタニ氏。そのためにパスポートも無く福祉も受けられず、20年近くにわたる路上生活を余儀なくされてきた。映画ではその苦難に満ちた生涯を描きながらも、魅力的かつエキセントリックなミリキタニ氏のキャラクターもあり、全編を通じて優しさと明るいユーモアに満ちている。

「ユーモアってとても大切なものだと思うの。人が笑うとき、その人の心は開くわ。心が開かれると、悲しいことはより深く悲しく感じることができる。この作品で、私は観客に彼の歴史を感じてほしかった。戦争によって引き起こされた、ある一人の男性が通ってきた、ありとあらゆる苦難を。もちろん頭で色々考えることもできるけれど、でも心で感じてくれれば、もしかしてさらに深く理解してもらえるかもしれない、と思ったの」。

作品中では、声高に戦争反対が叫ばれるわけではない。それでも監督の語るように、笑いによって開かれた心の中には、市井の人間たちが翻弄され涙する戦争というものの愚かさと、平和への意志というメッセージが染み入ってくる。今後も作品で平和への願いを表現していく、と笑顔で語ったハッテンドーフ監督。今年は広島での原爆慰霊祭に、本作の主役であるジミー・ミリキタニ氏と出席したという。いまでは家族同然となったミリキタニ氏を通し、日本という国と不思議な縁で結ばれた監督。彼女の優しい視点を通して描かれるこのドラマを、ぜひ体験してほしい。



【VAGANCE】
“希望を抱く人”が描く日系アメリカ人の物語『ミリキタニの猫』
http://www.extravagance.jp/guardo/200709/05.html
《text:Akira Kuroda / photo:Fumio Ando》

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