【シネマモード】アートを映画で嗜む、夏

最新ニュース

『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』
  • 『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』
  • 『セラフィーヌの庭』 -(C) TS Productions/France 3 Cinéma/Climax Films/RTBF 2008
  • 『セラフィーヌの庭』 -(C) TS Productions/France 3 Cinéma/Climax Films/RTBF 2008
  • 『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』
芸術を嗜むのに最適な季節といえば、秋…ですが、暑い夏の過ごし方として、涼しく美術館や劇場を巡るというのも、いいものです。夏休みには、多くのアートイベントも開催されますし、興味深い企画も盛りだくさん。さらに、最近では美術館などに素敵なカフェもあったりして。そう、快適空間での夏のひとときを過ごすのは、かなり良いアイディアなのです。そんなわけで今回は、この夏おすすめのアート関連映画を2本ご紹介します。

まずは、『セラフィーヌの庭』から。セラフィーヌとは、アンリ・ルソーに代表される素朴(ナイーブ)派の女流画家、セラフィーヌ・ルイのこと。独学で絵を描いてきた彼女は、もともと家政婦として働いていました。貧しく、孤独に過ごしながらも、草木に話しかけ、自然と対話し、神を敬う女性だったのです。41歳のとき、守護天使からの啓示がきっかけで絵を描くように。とはいえ、貧しい生活の中で、芸術を生み出し続けるのは大変なこと。例えば、画家ならば、感性だけでなく、それをヴィジュアル化するためのキャンバス、絵の具、筆などが必要になります。セラフィーヌは、家賃を滞納し、石炭を買うのを控えながらも、洗濯や掃除で得た僅かな収入を画材へと投入。絵の具は、動物の血や草木などから手作り(材料は人には秘密)。でも、それが独自の色彩へと繋がっているのですから、アートとは何とも良いものです。そんな彼女が描くのは、花や草、果物など。そんな作品に偶然出会ったのが、ピカソ、ブラック、アンリ・ルソーを発掘したドイツ人の画商ヴィルヘルム・ウーデ。そこから、彼女の人生に変化が訪れ始めます。

それが結果的に彼女にとって良いものだったかどうかは分かりません。アーティストが世に出るには、支援者(彼女の場合はウーデ)が必要だといいますが、そもそも彼女は自分の作品が世に出ることを望んでいたのかどうかも分からないからです。彼女は心のままに絵を描き、それが彼女にとっては呼吸することと同様生きることに直結していただけ。名誉も地位もなかったとしても、彼女は満たされていたことでしょう。

とはいえ、ウーデのおかげで、いま私たちは彼女の才能に感謝し、楽しむことができるのですが。ウーデが熱心に見出した素朴派(ウーデ自身はモダン・プリミティブ派と呼んだそう)は、はじめこそ、その名の通りタッチの“素朴”さゆえ、単純、幼稚、遠近感がないなどと評価されなかったそうですが、やがて、画家たちの表現する美しい色、素直で純粋なタッチの中に価値を見出すように。いまでは、多くの人々に温か味を感じさせる人気のジャンルになっています。

日本では、ルソーをはじめとする素朴派画家の作品所蔵に関しては、世田谷美術館が有名。9月5日(日)まで開催されている収蔵品展「建畠覚造—アトリエの時間」の第二部でセラフィーヌの作品「枝」も展示されています。セラフィーヌの作品が気になった方は、ぜひ足を運んでみてください。

次にご紹介する『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』は、私にとっては敗者復活戦的作品。あれはそう、ちょうど4年前のこと。サッカーのワールドカップ、ドイツ大会に赴いた私は、アムステルダムを経由。その際、限られた時間内で美術館に向かったところ、長蛇の列を目の前にして、入館を断念した苦い思い出、レンブラントの「夜警」やフェルメールの「牛乳を注ぐ女」をすんでのところで見逃したという断腸の思いがあるのです。その代わり、アムステルダムのアルティス動物園というほのぼのとした施設で遊ぶことができたわけですが、それはそれ、これはこれ。やっぱり悔しい。

というわけで、今回、やっと待望の館内を覗き見ることができたわけです。でも、覗いた“内部”はかなりモメていました。内部というのは、そこで働く人々や、国立美術館を愛する市民たちのこと。実は、アムステルダム国立美術館は2004年から大規模な改装工事が始まったのですが、美術館関係者と地元民の間で計画にまつわる対立が勃発。順調にいけば2008年リニューアルオープンの予定でしたが、大もめにもめ、その後もトラブルが続出。2010年のいまも工事は中断していて、予定では2013年には再オープンというかなりの大騒動に発展しているのです。現在も、本館は閉鎖状態。思えば、私が訪れた際も、展示は本館でなく隣接する棟で行われていましたっけ。こんな大きな美術館なのに、なんで入り口がこんなに小さくて横っちょにあるのだろうと思った記憶があります。

そんなことを思い出しながら観た本作。そもそも、国立美術館の改装が、日本ではここまで大問題になるのだろうかというところも興味深い話です。

そんな騒動だけでなく、この作品では美術館の内部でどんなことが行われているかも、教えてくれます。美術館改革についての会議の様子、学芸員による展示構成の議論、美術品収集の様子、所蔵品の数々、そして力仕事を担う作業員たちや警備員たちの思い、修復家たちの仕事ぶりなどです。なかでも、私が一番興味を持ったのは、美術品の修復。これまでも、様々なメディアで修復場面が紹介されるたびに、「この仕事に私は適しているはず」と思ってきました。こちょこちょとした細かい手作業、何かをはがす、削るという作業が好きな私。その果てに、人類の遺産とも言える名作たちの復活が待っているなら、こんな喜びはないはずです。案の定、今回も彼らの作業にうっとり見入ってしまいました。今度生まれ変わるなら、断然、美術品修復の勉強をしたい。そう強く思ったのでした。

社会派ドキュメンタリー監督が4年以上の歳月をかけ、400人にも及ぶ関係者への取材を経て実現したこの作品。当初予想していた単なる美術館案内とは全く違い、いわばバックステージ・ツアー的な性格も持った面白い作品です。優雅な美術品を展示するお高い場所だと思いがちですが、そこには妙に人間くさい面白ドラマが充満していました。

“過去”が集まる場所だと思っていた美術館でしたが、実は“今”を生きていました。映画を見続けていくうちに、もはや、知らない人とは思えないほど親しみを感じた関係者たちに、「何があっても負けるな!」とエールを送りたい気分。一日も早い、リニューアルオープンをお祈りしています!

と、こんな面白すぎる美術界の裏話も、涼しい美術館に行く前に知っておくといいですよ。『セラフィーヌの庭』『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』、暑い夏におすすめです。



「世田谷美術館」公式サイト
http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection.html
《text:June Makiguchi》
今、あなたにオススメ
Recommended by

特集

page top