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【シネマモード】クールビューティが魅せる、最上の美に惚れる『ミラノ、愛に生きる』

“女が憧れる女”っていますよね。仲良くなりたいとか、あんな風になりたいとか、そんな単純な話ではなく、とにかく惚れ惚れするほどカッコイイ女。私にとって、ティルダ・スウィントンもその一人。クールビューティの代表格で、ちょっと怖そう。男に対しても、女に対してもまったく媚がない。面白くなければ笑わない。でも、その様子はエ○カ様みたいに不躾な感じでは決してなく、極めてエレガントです。もちろん仕事についても、役選びの渋さといったら映画好きにはたまりません。『カラヴァッジオ』『エドワードII』『オルランド』『BLUE』『ザ・ビーチ』『アダプテーション』『サムサッカー』『ブロークン・フラワーズ』『フィクサー』、そして『ナルニア国物語』シリーズ。いずれも作家性の際立つ作品ばかり。役柄を思い出しても、実に癖のあるものばかり。そのおかげで、登場するだけで場面が引き締まり、緊張感があふれ出す。

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『ミラノ、愛に生きる』 -(C) 2009 First Sun & Mikado Film.  All Rights Reserved
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“女が憧れる女”っていますよね。仲良くなりたいとか、あんな風になりたいとか、そんな単純な話ではなく、とにかく惚れ惚れするほどカッコイイ女。私にとって、ティルダ・スウィントンもその一人。クールビューティの代表格で、ちょっと怖そう。男に対しても、女に対してもまったく媚がない。面白くなければ笑わない。でも、その様子はエ○カ様みたいに不躾な感じでは決してなく、極めてエレガントです。もちろん仕事についても、役選びの渋さといったら映画好きにはたまりません。『カラヴァッジオ』『エドワードII』『オルランド』『BLUE』『ザ・ビーチ』『アダプテーション』『サムサッカー』『ブロークン・フラワーズ』『フィクサー』、そして『ナルニア国物語』シリーズ。いずれも作家性の際立つ作品ばかり。役柄を思い出しても、実に癖のあるものばかり。そのおかげで、登場するだけで場面が引き締まり、緊張感があふれ出す。

アンジェリー・ジョリーのクールさとはひと味違い、彼女にはノーブル&インテリの香りが漂います。それもそのはず、スコットランドの名家出身で、ケンブリッジ大学卒業後はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで演技を学んだサラブレッド。51歳とは思えない隙のない美貌は、“高嶺の花”のような近づきがたさもあります。公私ともに極めてクールな印象ですが、そんな彼女が、ふっと笑うと、「あ、笑った…」と意味もなくこちらまで嬉しくなってしまう。いい女って、そんなものなのでしょうか。

そんな彼女がいつにも増して、ぴたりとはまっていたのが新作『ミラノ、愛に生きる』。友人のルカ・グァダニーノと製作に11年をかけて練り上げた作品で、社会という場で作られた考えからの超越がテーマになっています。ティルダが演じるのは、ミラノの富豪・レッキ家の後継者候補に見初められ、イタリアに渡ったロシア人のエンマ。彼女が息子の友人(料理人)と出会い、恋に落ちたことをきっかけに本当の自分へと戻っていくまでを描いています。

冒頭のエンマは裕福に暮らし、二人の子供に囲まれ一見恵まれているようではあるものの、表情が乏しいのが気になるところ。そんなエンマのワードローブは、ラフ・シモンズがデザインするジル・サンダー。来日したティルダ曰く「ヒッチコックやルキノ・ヴィスコンティ、パゾリーニといった作家が作り上げたような、エモーショナルで官能的な作品を目指しました。そこで重要になったのが、ジル・サンダーでした」とのこと。本質的で、シンプル。それなのに表情豊か。エンマに寄り添いながらも、彼女の抑えた感情を補足するかのような美しいシルエット、カラフルな色合いの洋服は、役柄と相まって、それは魅力的にエンマという女性を縁取っていました。ジル・サンダーの服と合わせているのは、パールのネックレス(ブラックパールのロングネックレスは特にかっこいい!)や、大ぶりで質のよさそうなダミアーニのジュエリー、そしてエルメスのバッグ。バーキン、ケリー、マサイなどが、あくまでもカジュアルでエレガントな日常使いのバッグとして登場。貴族を筆頭とする特権階級の人々だけに許された金銭的、精神的余裕を感じさせる使い方を見るにつけ、これが正しいエルメス使いというものか…と感心してしまいました。当然、ティルダは素のままでお似合い。物も使い手を選ぶものなのですね。

さて、服の話に戻りましょう。ティルダが言っていたように、ジル・サンダーの服は本作で重要な役割を担っていますが、実は、エンマがそれを脱ぎ捨ててからも印象的です。上流階級というしがらみを上質な服を脱ぐように捨て去り、年下の恋人のシャツをまとって別人のような姿を見せるエンマ。その時の美しさは、神々しいほど。きれいに整えられていたロングヘアは無造作なショートカットになり、化粧も施さず、木々に囲まれた場所で愛を交わす。自分に戻ることの心地よさを知り、本当に愛おしい人に巡り合った喜びを知ったことで、生き生きとした官能的な素顔を見せ始めるのです。固い表情ばかりだった顔にはバラ色の赤みがさし、表情は柔らかく優しくなっていくエンマ。思えば、年下の恋人と絡むシーンでは、恋仲になる以前から、ほかでは見せないキュートな笑顔を見せていました。特に、彼の作った料理を口にしたときの官能の表情も素敵! クールビューティがふと笑った時にこちらがつい感じてしまう幸福感を、ここでも味わうことができるのです。

つまり、彼女が本物の愛を知って身に着けたのは、何も補う必要のないほどの最上の美。もはや上質なアイテムは必要なし。究極のシンプルから究極の洗練を生むと評判のジル・サンダーも、こうなるともはや手は出せません。ジル・サンダーに身を包み、エルメスを普段使いするクールビューティのエンマをかっこいいと思いながらも、やはり、すっぴんでノーブランドのシャツを嬉しそうに身に着けているナチュラルビューティのエンマの方が素敵だと思ってしまった私。物質的には決して補えない幸せがこの世にあり、それを手にした者は無敵なのだと改めて教えられる作品です。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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