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【MOVIEブログ】28日/ロッテルダム

28日、月曜日。晴れ。気温高め。いつもより少し寝坊してしまい、7時起床で本日はスタート。

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『Fat shaker』
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28日、月曜日。晴れ。気温高め。いつもより少し寝坊してしまい、7時起床で本日はスタート。

10時から、去年のヴェネチア映画祭で審査員特別賞を受賞しているウルリッヒ・サイデル監督の『Paradise: Faith』へ。サイデル監督は「パラダイス3部作」と名付けられた作品を立て続けに3本作っていて、最初の『Paradise: Love』が去年のカンヌ、2本目がこの『Paradise: Faith』で、前述の通りヴェネチア。そして3作目が『Paradise: Hope』と題されて、来月始まるベルリン映画祭で上映されることが決まっています。

それにしても、3部作を一気に仕上げて、1年以内にそれぞれがカンヌ、ヴェネチア、ベルリン、で上映されるなんて、過去にも例が無いと思うのだけど、どうだろう。今やハネケに次いでオーストリアを代表する存在のサイデル監督だけれど、日本で紹介されたのは『ドッグ・デイズ』くらいかな?この3部作、もし日本の配給が付かないようなら、東京国際映画祭(以下TIFF)でまとめて特集上映してみたい…。

というわけで『Paradise: Faith』、ようやく見られるぜ、っと喜び勇んで10時の一般上映の回に行ってみると、ああ、やってしまった。英語字幕が無い…!ドイツ語映画に、オランダ語字幕。お手上げ。

ロッテルダムは、たまに気を抜くとこういうことがあるのですよね。映画祭の公用語が英語で、ほとんどの映画は英語字幕のみで上映されるので、つい油断してしまう。でも、ごくたまに、一般上映の中にオランダ語字幕のみで上映される回がある…。ああ、知っていたはずなのに、油断していた!

が、まあ、サイデルは会話劇ではないだろうから、ある程度は大丈夫かな、と思ってそのまま見ることにしてみたら、もちろん細かい会話は分からないとしても、映画のおおよその部分は理解できたかな。

キリスト教にのめり込んでいる中年女性の物語。度を越した信仰がもたらす災いを、サイデルならではのブラックなユーモアに包み、端正な画面の中にショッキングな要素を盛り込んで(ハネケから引き継ぐ伝統だ)、痛々しい現実を叩きつけてくる。さすがの出来。

続けて13時15分から、コンペ部門で『Fat Shaker』(写真)というイランの作品。これは、目下、コンペ部門最大の珍品というか、ロッテルダム映画祭の本領発揮とも言えるような、大胆な実験的作品であった!

巨大な肉の塊である肥満の中年男性と、彼の息子と思しき青年、そして妻と思しき女性、の3人のスケッチ。分かるのはそのくらいで、シーンとシーンの間に脈略はほとんどなく、何が起きているのかは、全く分からない。劇映画のように撮られているので、それぞれが一見「映画のワンシーン」のようだけれど、各シーンが繋がらないので、全体としてはリニアな物語を持つ劇映画にはならない、という不思議さ。

いやむしろ、各シーンが「映画的に」撮られているので、例え話が繋がっていなくても、全体としては「映画」として見ることができてしまう、ということかな。ひたすら訳が分からないのだけれど、目は画面に引きこまれる。

シュールとも、不条理とも違う。繋がっていなさそうで緩やかに繋がってもいるシーンの連続が、観客の深読みを誘う。例えば、醜い脂肪の塊の男は現在のイランの象徴で、彼に振り回される無垢な青年は、未来のイランの希望かもしれない。全然違うかもしれないけれど。

昨日見たチリ映画では、当然伝えるべき背景を省いていることに腹を立てたけれど、このイラン映画は、観客の(解釈の)参加を映画の一部に最初から織り込んでいる点で、性質が全く異なる。批評性を持った現代アート作品、と呼んだらいいかもしれない(もっとも、批評性のない現代アートなんてあるのかということだけど)。実にロッテルダム的で、実に面白い。

時間が1時間ほど空いたので、ちょっとホテルに戻ってメールをチェック。

続いて16時半から、本日3本目は、またコンペ部門で『36』というタイの作品。これは去年のブサン映画祭で上映されて、賞を取っていますね。なるほど納得。とても繊細で、程よいセンチメンタリズムが胸をくすぐる作品。なかなかロッテルダムでこんな気持ちになることは少ないので、嬉しい。

写真に込められた記憶と、出会いと別れ。36のショットからなる断章が語る、「振り返ってみれば恋だったかもしれない」邂逅の物語。いいなあ。とてもセンスがいい。胸がせつなく、同時に暖かくなる。

僕は写真を見るのは大好きだけれども、自分で撮る習慣がなくて、あまり執着もない。旅行に行くときも特にカメラを持参することはないので、過去の旅行の記録はほぼ何もない。携帯時代になり、Facebook等のために多少は撮るようになったけれど、そういう要請でもなければ、携帯のカメラ機能を使うこともまずない。

『36』のヒロインは、仕事用に撮り溜めた写真のデータが入ったハードディスクが破損し、自分の過去の一部が失われたかのような気分になってしまう。写真には、確かに人にそう思わせるような、人生の断片を代弁しているような重さがあって、僕はそれを無意識に避けているのかもしれない…。『36』を見ながらそんなことをつらつらと考えて、気分は少しおセンチモード。

続いて18時半から、「Spectrum」部門でベルギー・フランス合作の『La tendresse』という作品。昨日がワールドプレミアだったとのことで、本日が2回目の上映。僕は監督の名前を知らなかったけれど、主演がマリリン・カントとオリヴィエ・グルメ、共演にセルジ・ロペスとなれば、やはりどうしても見たくなってしまう。

マリリン・カントは僕が大好きな女優のひとりで、10年以上前、横浜のフランス映画祭に来日した際に僕はアテンドを拝命し、彼女が原宿で財布を無くして一緒に交番に行ったのもいい思い出です。

さて、本作にはカントさんの素敵な魅力が溢れていて、それだけで良しとしたいところだけれど、全体の出来としてはテレビ映画をつまらなくしたようなシロモノで、ロッテルダムの極めて野心的な作品群と並んで見ると、まるで別世界に来たみたい。これは残念。

本日最後は、21時から「Bright Future」部門で、『Northwest』というデンマーク映画のワールドプレミア。監督はマイケル・ノウアーという人で、彼は前作『R』をトビアス・リンホルムと共同監督していて、『R』は2年前のロッテルダムで受賞をしています。ちなみに、トビアス・リンホルムは去年のTIFFのコンペで大好評を博した『シージャック』の監督で、同作で来日したプロデューサーのトマス・ラドアーさんは、この『Northwest』のプロデューサーでもあります。

ところで、ロッテルダム映画祭では、1作目がコンペに選ばれてしまうと、2作目はコンペの資格がなくなってしまうため(だけではないと思うけど)、今年から新しい「Big Screen Award」という賞が設けられたようです。オランダでの配給が決まっていないことが条件であるようで、10本がノミネートされています。『Northwest』はその1本で、ちなみに日本から参加の『おだやかな日常』もノミネート作品。なので、この賞の行方も楽しみ。

さて、『Northwest』。空き巣で小銭を稼いでいた青年が、裏社会の大物に気に入られ、より大きな犯罪に手を染めるようになり、やがて弟ともどものっぴきならない状況に追い込まれていく様を描くもので、内容自体にそれほど新鮮味はない。だけれど、96分の尺に込められたエネルギーと緊張感の量がすさまじく、ドラマをぐいぐいと引っ張る監督の演出力は並みではない。なんという力強さ。

TIFFで『シージャック』を見た人ならば、あの映画が有していた緊張感をまだ覚えているはず。『シージャック』のトビアス・リンホルム、この『Northwest』のマイケル・ノウアー、さらには『ジャミル』(08年にTIFFで上映)のオマー・シャガウィー、そして『ドライブ』のニコラス・ウィンディング・レフンなど、デンマークの若手・中堅層の充実振りは本当にめざましいものがあります。

ラース・フォン・トリアーやトーマス・ヴィンターベアらが牽引した90年代の「ドグマ」以来、改めて新しい波がデンマークから来ていることは間違いなさそう。またしばらくはデンマークに注目ですな。

興奮して宿に帰り、興奮しながらブログを書いたら、こんなに長くなってしまった。それにしても、今日は実にバラエティーに富んで充実した!明日もこの調子で行きたいものだ!

追記:同僚からもらったメールで、昨日のブログが誤解を招きかねないことに気づいた:僕はホラー映画が「苦手」なのではないです。ひたすら怖がっているけれど、ホラーも好きでたくさん見ます!
《text:Yoshihiko Yatabe》

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