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吉瀬美智子×成島出監督、『風の谷のナウシカ』のモデルの地で「心が軽くなった」

昨年、国内の映画賞を総なめにした『八日目の蝉』の成島出監督の待望の新作『草原の椅子』がついに公開を迎える。日本映画で初となる“世界最後の桃源郷”と呼ばれる…

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『草原の椅子』吉瀬美智子&成島出監督
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昨年、国内の映画賞を総なめにした『八日目の蝉』の成島出監督の待望の新作『草原の椅子』がついに公開を迎える。日本映画で初となる“世界最後の桃源郷”と呼ばれるパキスタン・フンザでのロケが敢行されたが、どんな思いで撮影に臨んだのか? 成島監督と吉瀬美智子に話を聞いた。

物語は、佐藤浩市演じるカメラ・メーカーに勤める50歳の遠間と、西村雅彦扮する取引先の社長・富樫との間に友情が芽生え、互いに本音を語り合う中で、2人はこれからの人生をどう歩んでいくかを模索するようになる。人生の岐路に立った遠間は、ひょんなことから預かることになった圭輔、さらにとある骨董屋で出会い淡い恋心を寄せる女店主・貴志子らと共に“世界最後の桃源郷”を目指すことに――。

吉瀬さんが演じたのは、つらい過去を抱えた女性・貴志子。しかし、彼女の役柄はそれだけではない。遠間や富樫といるときはマドンナのように、そこに圭輔が加わると母親のようにフレームに映し出された人々が変わるたびに、彼女の役どころは変わってゆく。
「遠間さんや富樫さんとお酒を飲むシーンがあるんですけど、外に出ることのあまりない貴志子は本当に楽しんでいて。いままで閉じこもっていたところから開放されたんでしょうね。反対に圭輔とのシーンでは母性を見せなきゃいけなくて、私姿勢が良い方なので強く見えてしまうから、監督からはちょっと丸くというか、優しい人でという演出がありました」(吉瀬さん)。

この話を聞いていた成島監督は、そんな貴志子を見事に演じた吉瀬さんを始め、佐藤さんや西村さんをキャスティングした理由を語ってくれた。
「この3人とも僕、仕事するの初めてで、お仕事をご一緒したいなと思っていたんです。でも、どんなものが出来上がるのか想像がつかなかったんですよ。それがすごく面白いなって。この方がいいっていう、直感! 吉瀬さんに関しても未知数だったので、それがまたいいんじゃないかなって。実際この3人は、物語の中でも全く知らないところから出会っていくわけですから、今回は圭輔を含めて“出会い”の話なので、だから圭輔役も出来上がっている子役の子ではなくて、本当に素人の子を使ってみたんです」(成島監督)。

そうやって映画を通して出会った大人たちは、十年来の親友のような気安さで冗談を交わし合う。しかし、実際に50歳を超えて親友ができるかというのは、少々難しそうに思えるが…。成島監督自身も、「そこがロマンチックで、ファンタジーでしょ(笑)」と笑う。

吉瀬さんも、実際に遠間と富樫の関係を眺めながらこんなことを思ったのだとか。
「50歳になって親友ができるってあるのかな? って正直思いました(笑)。ある程度年齢を重ねると友達ってできにくいじゃないですか。親友って呼べる人って数少なかったり、それを親友ってなかなか言えないと思うし、自分でも羨ましいなって思いました」(吉瀬さん)。

その言葉に大きく頷きながら成島監督はこう続ける。
「どんどん人間の繋がりが薄くなってくるご時世だからね。80歳になって一人ぼっちで老人ホームに入るときに富樫みたいな爺さんがいて、『よし、今日から親友になろうぜ!』っていうようなヤツがいたらいいなって。独居老人、孤独死を迎えるような1年間と、親友が80歳になってできた1年間はどっちが幸福だろうって、それはそういう意味でのファンタジーになればいいなって、最初にシナリオを書いたときからこの難しい原作を脚色していく上でそういう風な大人の寓話になってくれないかなってすごく思いました。なかなか現実だと、大変なハードルを超えなければいけないんだけど、だからこそ映画なんじゃないかなって思います」(成島監督)。

この特別なファンタジーの感覚は、吉瀬さんを始めとする佐藤さんや西村さんの大人たちの関係性だけではない。“世界最後の桃源郷”と呼ばれるパキスタン・フンザという地がさらにこの物語を、現代の厳しい社会で懸命に生きる人々を描きながら寓話のような雰囲気に仕上げているのだ。吉瀬さんは、「まず、どこ? って感じで…」と現地撮影を敢行すると聞かされた当時をふり返る。
「聞いたこともなかったのでネットで場所を調べたら、『風の谷のナウシカ』のモデルになった場所だって書かれていて、すごい綺麗なところだなと思って、とにかく“行ってみたい!”って思いました」。

確かに本作に登場するフンザは美しく、その大自然は筆舌に尽くしがたい。しかし、一方でその近隣を頻繁にテロが起こる国々に囲まれる危険な地域でもある。しかし、成島監督にはこんな思いがあったのだとか。
「『風の谷のナウシカ』のモデルになったくらいだから、寓話の里みたいな匂いがするんですよ。だから観てもらった人も一緒にそういう気持ちになってもらったらいいなって。彼らと一緒に旅をするみたいな。僕は若い頃そういうのがすごい好きだった。でも、お金がないから海外なんて行けないじゃない(笑)? ただ映画だと行けるから、登場人物と旅をすることは日本映画に限らず好きだったんです。だから、フンザも滅多に行けないところだからお客さまもそういう風に一緒に彼らと旅して何か同じようなことを感じてくれればいいなって」(成島監督)。

そんなフンザで撮影されたシーンは、物語のクライマックスとなる部分。会社に頭を下げ、時代に流されてきた遠間や富樫、さらに過去のトラウマで心を閉ざしてしまった貴志子、そして親に見離された幼子・圭輔が、それぞれに思いを抱えてフンザの砂漠を歩くというもの。実際に歩いてみた感想はどんなものだったのだろうか?
「いろんな悩み事が小さいことなんだって思いました。プライベートや仕事の悩みなんて、簡単に捨て去れるくらいのスケールでした。だから貴志子もそこで捨ててきたと思うんです。劇中で『砂漠で私も捨てて来ました』っていうセリフがあるくらいなので、やっぱりちっぽけに見えたんでしょうね。あの広大な砂漠に立つと」。

続けて「心が軽くなった」と言う吉瀬さんも、そして彼らの姿を見守り続けた成島監督も、撮影当時をふり返るたびに軽やかに微笑む。彼らと共にスクリーンを通して旅をしてみたい、そう思わせる笑顔だった。
《シネマカフェ編集部》

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