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【シネマモード】恐怖と美、嫌悪と陶酔の世界! 『イノセント・ガーデン』

映画に国境はないといいますが、正直言って、日本の映画人が世界規模で活躍すれば嬉しいもの。というわけで、今回はその反対に、かなり悔しい思いをしました。立て続けに、韓国の映画監督の実力をまざまざと…

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『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved. 『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • 『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • ニコール・キッドマン/『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • 『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • 『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • 『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • ニコール・キッドマン/『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
  • 『イノセント・ガーデン』 -(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
映画に国境はないといいますが、正直言って、日本の映画人が世界規模で活躍すれば嬉しいもの。というわけで、今回はその反対に、かなり悔しい思いをしました。立て続けに、韓国の映画監督の実力をまざまざと見せつけられ、呆然としつつ、我に返ったときにかなり羨望したのです。「ああ、これは凄いぞ、やられたな」と。そりゃ、すでに分かってはいたのです。パク・チャヌクやキム・ギドク、ホン・サンスが大した監督だということは。

同じアジアの仲間だと思えば嬉しいものですが、永遠の(良き)ライバルだと思えば、やっぱりモヤモヤする気持ちは止められません。悔しいほどに、凄いから衝撃を受ける。その興奮も冷めやらぬままに、韓国の名匠たちの作品を、今月はご紹介したいと思います。

初回は、『イノセント・ガーデン』でハリウッド・デビューを見事に飾ったパク・チャヌク監督の話題です。作品に関する情報が届いたときには、かなり驚きました。全米デビューにしてキャストは、ミア・ワシコウスカにニコール・キッドマン。いったい、これほどまでに個性のある二人の女優を配して、どうチャヌクらしさを残しているのかが気になって仕方がありませんでした。チェン・カイコーの『キリング・ミー・ソフトリー』のようにはなってはいまいかと。でも、始まって数秒で、その心配は吹き飛びました。むしろ腕を上げている、と確信できたのです。彼は、どこで、だれと、どんな文化背景の物語を撮っても、自分らしい作品を創ることのできる人だったのだと。

ヒロインは、鋭すぎる感覚を持つ少女・インディ。美しい母はいるものの、良き理解者であった父を事故で亡くし、ますます自分だけの世界に閉じこもっていこうとするのです。そんな彼女が18歳の誕生日を迎えたとき、不思議な「鍵」が贈り物として届きます。それとタイミングを同じくして、今まで存在すら知らなかった父の弟、叔父が突然現れて…。インディの世界はますますバランスを崩していくのです。

こんな不思議な物語を前に、どんどんいけない深みにはまっていくかのような感覚をおぼえた私。展開する世界は、息もとまるほどに美しいのに、漂っているのはただならぬ緊張感。次々に起きる不気味な出来事も、「鍵」が開けてしまうのが禁断の何かを覆った扉だということを観客に、あくまでも感覚的に訴えかけてくるのです。作品は、終演に向かって全容が明らかになってくタイプの物語で、まさにチャヌク監督向き。冒頭から中盤までは物語の断片しか見せてくれず、観客はパズルのピースをひとつひとつ拾っていくかのように作品を観ていきます。意味の分からぬまま、提示されるさまざまなエピソードに、初めはとまどうかもしれませんが、それでも、映し出される映像があまりに魅力的なので、決して飽きることがありませんでした。

今回、ほとんど前情報を入れずに試写に臨みましたが、終演後、本当にそれで良かったとつくづく感じましたから、これ以上は物語に触れないことにいたしましょう。でも、「これじゃ何がなんだか分からないじゃないか!」という方のために、もう少しお話しするならば…。

本作を観た後、私はしばらくこの作品の世界観から抜け出せませんでした。でも、もしもう一度観たいかと言われれば、「いいえ」と言うかもしれません。それは、同監督の『オールド・ボーイ』の際にも感じたこと。この作品も同様に、恐怖と美、嫌悪と陶酔が同居する世界を描き、その世界にたった一度触れただけで、十二分に私は圧倒されてしまったのです。誤解を恐れずに言うならば、決して快い作品ではないと言えるでしょう。でも、感動にも似た衝撃を覚える本作は、映画が好きな方にはぜひおすすめしたい1作。自分が知りえない、自分が理解しえない世界を覗かせてくれるというのが、映画が持つ昔ながらの特性のひとつならば、本作はそのお手本とも言うべき作品です。ここに登場する人々に、共感はできないかもしれませんが、こういう風に生きていく人がいるということを知る戦慄と驚愕を受け入れることも、人間のさだめなのかもしれませんから。
《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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