【MOVIEブログ】フランス映画祭(下)

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『アナタの子供』 -(C) Soazig Petit-les films Pelléas
  • 『アナタの子供』 -(C) Soazig Petit-les films Pelléas
フランス映画祭、後半日記。またまた長文です。

【22日(土)】
7時起床、コーヒー入れて、即座に東京国際映画祭の仕事のDVDを自宅で鑑賞開始。18時まで連続で5本半観て、慌ててシャワーを浴びて、外へ。

今日はフランス映画祭の司会業務はなく、フランス大使館でのレセプションに出席するのが唯一の用事。フランス映画と縁の深い業界の方々と少しお話ししたり、ともに今年のカンヌ映画祭で競った是枝監督とオゾン監督がふたりで談笑している場面に立ち会えたことに喜んだり、素敵な一夜でありました。

23時頃にお開きとなり、家の隣の超お世話になっている居酒屋さんで少しだけ食べさせてもらって、1時就寝。

【23日(日)】
7時起床、即DVDスタート。3本半観て、バタバタと飯田橋へ。

目的は、フランス映画祭での来日に合わせて行われているナタリー・バイ特集。今日は、アンスティテュ・フランセ(旧日仏学院)でトリュフォーの『緑色の部屋』、ユーロスペースで『ゴダールの探偵』が上映されることになっていて、それぞれにナタリー・バイのトークがあるのだけれど、ポイントは、移動時間を考えると両上映のハシゴは出来ないということ! つまり、ゴダールを選ぶかトリュフォーを選ぶか、究極の選択を迫られることになってしまうのだ!

トリュフォーの方がスケジュールが合うので、僕は14時からの『緑色の部屋』を選択。10数年振りに見る本作は、とても美しい一方でやはりとても「ヘンな」映画だという印象は昔から変わらず。でも死者とともに生きることを決めるトリュフォーの覚悟が、かつてよりも鋭く胸に突き刺さる…。って、トリュフォーが『緑色の部屋』を撮ったのは今の僕の年齢ではないか! くそっ。

トリュフォーは『緑色の部屋』で死者との共生を描き、その6年後に実際に死者の側に行ってしまう。自分に残された時間なんて、誰にも分からない。今を必死に生きねば。

そんなことを考えながら見終わると、上映後にナタリー・バイが登場。素晴らしい。シリアスな内容である『緑色の部屋』の現場は、逆に笑いの絶えないものだった、というエピソードなどを披露して、あっという間に予定の時間が終了。こんな大女優が来場してくれていることに感動し、僕はひとりでスタンディング・オベーション。みんなも立てばいいのになあ。

その後職場に行って、少しパソコン仕事をしてから、フランス映画祭の会場へ。

20時から、オゾンに続く今回の司会業の緊張物件その2となる、ジャック・ドワイヨン監督とルー・ドワイヨンのQ&Aで、作品は『Un enfant de toi(映画祭タイトル:アナタの子供)』(写真)。

実は、大物相手にまたビビり案件であったのだけれども、昨夜のフランス大使館のレセプションで会話を交わしてみたら、とても話しやすくて良い人だった! ラフな装いで、ユーモアと優しさとタフさを携え、反抗的で知的で鋭いオーラを発してくるという、まあ簡単に言えば男の憧れのような男であり、誰もがこんな大人になりたいと願う大人、それがジャック・ドワイヨンでした。

そして、Q&Aが、本当にとてもよかった。映画の中身よりも、映画作りや演出に関わる話の方が多く、しかしドワイヨンの映画を見に来る観客はそっちの話をより望んでいるであろうとも思われ、その空気に呼応したかのような濃密な映画の時間が朝日ホールに流れた…!

乱暴を承知で言えば、オゾンが編集で映画を組み立て直すと語っていたのに対し、ドワイヨンは徹底して現場で映画を作り込む人なのでしょう。最近は2台のキャメラで撮影しているということ(とその理由)、そして納得のいく演技が出てくるまで何度でもテイクを繰りかえすことを語り、動きの制約のある中でとことんまで追い込まれた俳優が格闘した跡がまさに『アナタの子供』には刻印されていたことを観客は思い出し、映画のインパクトが倍増していく。こんなに有意義なQ&Aはなかなか無いほどだ!

僕は監督の語りにうっとりしながらも、刻々と迫る閉館時間が気になり(監督はとても饒舌だし)、最後は少し急かせる感じになってしまったのが無念なところ。もっと話を聞いていたかった! 結果的に課せられた終了時間をオーバーしてしまい、司会者としては失格。ごめんなさい。それでも、至福の時間でありました。

時間が空いたので、ドワイヨン親子のサイン会が行われているレストランの隅っこでサラダなどを注文して夕食とし、22時50分から『黒いスーツの男』のQ&A。

監督のカトリーヌ・コルシニ、僕は『La Nouvelle Eve』('99)あたりから結構好きで、機会があればなるべく見るようにする監督のひとりです。女性を主人公にすることが多いコルシニ監督としては珍しく、今回は男性を主役に据えたシリアスな人間ドラマ。

映画館のロビーで監督にご挨拶。コルシニ監督、座ったまま、にこりともしない。こわい。ドワイヨンがとてもいい人だったことに油断していたのがいけなかった。こんなところに落とし穴があったとは!

が、タフに映画業界を生き抜いている女性監督、ということなのでしょう。まさにタフでハードな人間ドラマを多く手掛けてきた監督という、本人が作る映画から受けるイメージそのものの人物であり、逆にこうじゃなくっちゃね。

そして、やはり注目すべきは、本作の主役、ラファエル・ペルソナーズ氏(君、じゃないな)ですな。『黒いスーツの男』では影のある男を演じているため、ルックスというよりも存在感全体で際立っているのだけれども、実物は、見とれるくらいの「イケメン」。いやあ、ハンサムだ。そして、めちゃめちゃ愛想が良くて性格がいいではないか! 渋面監督との対比が面白い! じゃなくて、素晴らしい!

日曜日の23時であるにも関わらず、会場は満席。銀座の日曜の夜なんて、普段は閑散としているのに。やはりイケメンの力はすごい。映画の反応もよくて、人間の心理と社会問題とを上手くミックスさせながら、スリラーの側面も備えたソリッドで秀逸な出来。男性スターの誕生が望まれて久しいフランス映画。ラファエル君に期待大だ!

【24日(月)】
朝から東京国際映画祭の職場に出勤し、18時まで通常業務。あまり集中は出来ず…。

18時30分くらいに気持ちをフランスモードに切り替えて、朝日ホールに移動。19時から『タイピスト!』(原題『Populaire』)のQ&A司会で、登壇ゲストはレジス・ロワンサル監督と主演女優のデボラ・フランソワ嬢。

昨日はマジメな雰囲気が続いたのに対し、今日はコメディーなので、僕も明るくしていかなきゃなあという心配は、デボラさんを目の前にしたらふっとんだ! 何と素敵で明るくて性格の良い女優さんだろう! 監督もとてもきさくなナイスガイ。

僕が気持ちの準備をする必要もなく、Q&Aはとても素敵な盛り上がりで、よかったなあ。英語で質問を始めたオジサンには焦ったけど(外国の方かなと思ったら日本人だった)、まあこういうことも映画祭ならではだし、そもそも質問の内容は良かったので(「タイプのシーンは吹き替え? それとも女優本人?」)、結果オーライでした。

『タイピスト!』は、タイプライターの早打ち大会に青春と愛を賭ける女性のコメディードラマで、『ロッキー』的スポ根ものとしても(『ロッキー』は監督が引き合いに出していた)、ヒロインの成長を見守る青春ドラマとしても面白いし、50年代の街並みやファッションをビビッドに再現した美術も美しく、どこをとっても楽しい仕上がり。会場がとても暖かい空気に包まれたのが実感できて、とても気持ちいい。

で、さらに言えば、色々な映画へのオマージュも散りばめられていて、僕は本当はもっとそこを質問したかったのだけど、壇上で司会者があまりシネフィルな質問にこだわるのも野暮なので(特に本作のような娯楽作の場合は)、控えてしまった。もっとも、突っ込んだ方がいい場合もあるので、そこが難しいところなのだけど。

とにかく、ヒッチコックの『めまい』の名場面がそのまま再現されているし、ジャック・ドゥミ的テイストもあれば、ダグラス・サークを彷彿とさせることもあって、コアな映画ファンもニヤニヤしながら楽しめるはず。ということで、『タイピスト!』、8月公開なので、乞うご期待!

さて、フランス映画祭最後のお仕事は、『恋のときめき乱気流』(ナイス邦題! 原題は『Amour et Turbulence』)のQ&Aで、お相手はリュドヴィーヌ・サニエちゃん!(どうでもいいけど、ついみんな「サニエちゃん」って呼びがちだけど、これって「田中ちゃん」とか「矢田部ちゃん」ということなので昔の業界人みたい)。

月曜日の23時からのQ&A、満席のまま、お客さんがひとりも帰らない! これは圧巻。さすが銀座。東京国際映画祭の六本木会場のQ&Aで23時台になると、どうしても帰らざるを得ない人がいるけど、やはり銀座という地の利と、サニエちゃんという素敵な女優さんの存在は大きいのだなあ。いや、本当にパンパンの満席状態でQ&Aが出来るのはとても嬉しい。

そして、サニエちゃん、いやあ、もう、素晴らしくチャーミングですね。僕にとっては最後のご褒美みたいなもので、そしてサニエちゃんが僕の名前を覚えているもんだからもう、舞い上がってダメっす。

ただ、名だたる監督たちと仕事してきていることから分かるように、リュドヴィーヌ嬢がカワイイだけの女優でないことは明らかで、発言もとてもクレバーで鋭い。人前でもカワイイ女優を演じているのだろうけど、それがイヤ味にならないのは、まさに人徳。そもそも、7年くらい前に少し会っただけの僕の名前を覚えているという驚くべき才能が、仕事面でいかに大きな武器になっているかは想像するまでもないでしょう。

意外にも彼女の初めての「100%ラブコメ」出演である『恋のときめき乱気流』は、飛行機で偶然隣の席になってしまった元カップルが、いかにして別れたかのいきさつを思い出しながら、ヨリをもどしていく(かどうか?)を描く物語で、まさに王道でストレートなラブコメ。で、これがなかなか出来がよいのだ!

サニエちゃんは往年のメグ・ライアンに迫る素敵さだし、相手のキザな彼氏も最初の悪いイメージからだんだんといい奴に見えてくる演出も上手いし、お約束の展開も安心できる楽しさにきちんと昇華されているし、これは文句ないのではないか? 劇場公開は未定と聞いているけれど、映画祭がつけた邦題もナイスだし(恋のときめき乱気流、って口にした響きも楽しい)、鉄板デートムービーとして是非どこかで上映してもらいたいなあ。

サニエちゃんのコメディーへの取り組み方とか、映画の裏話エピソード、そしてファッションの話など、硬軟取り混ぜたQ&Aは大充実。23時半になっても誰も席を立たず、とても楽しい時間でみんなハッピーになれたのではないかな。僕が一番ハッピーになっていたとしたら、本当に申し訳ないのだけど! 「リュディヴィーヌさん、最後に一言お願いします」と言ったら、「マタネ!」だって!

ということで、短い中に凝縮された興奮が満ちた僕のフランス映画祭もこれにて終了。本当に今年は作品が充実しましたね。僕が全く立ち会えなかった作品でも、グザヴィエ・ドラン監督の大傑作『わたしはロランス』はお客さんに大好評と聞いて嬉しいし、去年観てとても感動した『母の身終い』にも多くのお客さんが詰めかけたそうだし、そして『椿姫ができるまで』が必見であると力説する人に何人も会いました。

銀座に会場を移して3年、ようやくフランス映画祭も銀座に根付いてきて、作品の充実が盛り上がりを後押しするという、良い循環ができてきたみたい。この調子で、フランス映画の一層の復権を願うばかり!

【25日(火)】
フランス映画祭のことを頭から消去し、東京国際映画祭業務に邁進(を誓う)。
《text:Yoshihiko Yatabe》

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