【インタビュー】井上雄彦が描くガウディ<後篇> 完成と未完成の間――濃密な時間が紡ぎ出す魂

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井上雄彦「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」/Photo:Naoki Kurozu
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  • 「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」内覧会
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――墨を磨る(する)こと。

インタビュー前に行われた会見の場で、井上雄彦は今回の創作を通じて手に入れたものとして、巨大な手漉き和紙に筆で絵を描くという経験に触れ、そこで使うための墨を磨るという行為、その時間の重要性について口にした。

「現代の時間の流れから言って、墨を磨るってめんどうくさいし、ひたすら磨ってちょっとしかできなかったりする。これまでその時間を大切だと思えなかったんですけど今回、絵を描くという“実践”と“実践”の間にある時間がものすごく大事だと分かった。墨を磨っている時間に心に気づくことがあり、自分と向き合う時間になる。単純作業の中で余計なことが落ちていくんです。実践の前後の時間も含めて、仕事であるし、そういう時間を大切にしていると、実践が特別なものじゃなくなり、ずっと繋がってくるんです」。

ガウディと井上さんの間に横たわる時間の差、それぞれの創作において時間が持つ概念や意味。ガウディと井上雄彦を語る上で、「時間」は避けて通ることが出来ないテーマである。

「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」の開催に合わせて行なったロングインタビュー後篇!

展覧会では、先述の巨大和紙による作品に加え、幼少期のガウディや、建築家・ガウディを後押ししたパトロンたち、そしてサグラダ・ファミリアに向き合うガウディの心情を描いた作品など井上さんの手による約40点の描き下ろし作品が展示されている。

インタビューを行なった開幕前日の朝まで、作品展示が終わった会場で、手を動かしていたという井上さん。この取材の直前に短時間ながらも初めて、最初から終わりまで全体を見て回った。感想を問うと「いいかなと思います(笑)。でも何か所か、どうにかしたいところも見つかりました。どうするかは…迷い中ですね」と明かしてくれた。では井上さんにとっての完成とは?

「難しいですね(笑)。今回、特に思ったんですが、結構きついスケジュールで完成したら普通は『やったー!』となるじゃないですか? そういう気持ちがまるでしないんです。完成した気がしない。まだ動き続ける気がしています。また、それを決して悪いとは思っていないし、そういう在り方も面白いなと自分で感じているんです。(毎日が)『今日の展示』という感じで(笑)、ひとつのプロセスなのかもしれません。漫画の場合、雑誌の発売でまずは出して(笑)、単行本になる時に連載時に見えてなかったものを描き加えたりしてフィニッシュとなるんですが…。今回は(地方への)巡回もあるので、そうすると容れ物が変わることで見え方も変わるし、ハコ(=会場)による制約もあって変わってくるかもしれない。まだ動き続けるかもしれません」。

それはまさに、1882年の着工から100年以上を経てもいまなお未完であり、完成に向けて職人たちが鎚やノミをふるい続けるサグラダ・ファミリアと重なる。設計者の死後も残された者たちが完成に向けて動き続ける。井上さんはサグラダ・ファミリアに流れる“時間”にどのような思いを抱いたのだろう? 

「冗談でね『バガボンド』の連載がなかなか進まないから、僕が生きてる間に終わるんですか? って言われるんですよ(笑)」。

そう言って井上さんは笑う。時間とは完成までにかかる時間のことだけではない。井上さんの漫画作品の中で流れる時間も非常にゆっくりだ。「SLAM DUNK」は6年におよぶ連載の中で、桜木花道らが過ごす時間は、わずか半年ほどである。

「(インタビュアーの)みなさんも〆切があるので体験したことがあると思いますが、時間というのは、わりと密度が違ってグニャグニャしているものじゃないですか。状況によって、時間の目盛りがすごく細かくなることもあれば、すごく大雑把な目盛りしかない時間もある。そういう意味で時間というのはなんとでもなる。だから『SLAM DUNK』で言うと、数か月ですが、その短い時間の中にもものすごく細かい目盛りがあって、特に10代のあの頃って、時間の流れがすごく細かく、密度が濃いでしょ。それを描きたかったんです。一方でゆったりと流れる時間の良さもあるし、すごく面白いテーマであり、いろんな描き方を楽しんで作品にしていますね」。

だからこそ、ガウディに共感を覚える部分も…。「ありますよ。(サグラダ・ファミリアが)完成しなくてもいいんじゃないかという思いも」と語る。

「あの時点(1926年)でガウディが亡くなったことも意味があるんじゃないか? と思えるし、その後、みんなが作り続けているというのも本当にすごいことだと思います。そこでガウディの命は終わっても、生きる――永遠とは言わないまでも長い間、命が続くということですよね」。

そして最後の最後を飾る、10.7m×3.3mの手漉き和紙に墨で描いた作品について。個々の作品の意味やそこに込めた意図を決して多くの言葉でもって説明しようとはしない井上さんだが、それでもこれから展示に足を運ぶ人たちに向け、こんな言葉を残してくれた。

「ガウディというのは、普通に考えれば偉人であり、天才であり、“向こう側”にいる人ですよね。でも、いまを生きる僕たちと日本人と同じ根っこを感じたんです。あの、彼独特の…独特に見えるものが、その奥を探ると僕らにも見える普遍性を共有しているんじゃないか? それを伝える作品になっていればと思っています」。

インタビューの中で、もうひとつ、もしかしたらこの作品、展示を理解する上で大きなヒントとなるかもしれない言葉を、井上さんは発した。それは、漫画であれ絵であれ、常に井上さんの作品は、見る者をポジティブな方向へと動かすエネルギーを内包しているという指摘に対して。「質問の答えとして正しいかは分かりませんが…」と前置きしつつ、井上さんは慎重に言葉を選びつつ、答えを紡いだ。

「人間や生きているということを常に肯定したいと思っているし、その視点はどんな人物を描くときでも入っていると思います。『読んで元気が出た』と言っていただけるのは、そういうところなのかなと思ってます。いろんなエピソード、人物において当然、“負”の部分も描きます。やはりそれでも、最後には肯定したくなる気持ちが常にある。『こいつはもうダメだ』と思うことはないですね。もちろんそれは、自分が生んだキャラクターであるからかもしれませんが」。

バルセロナの空の下だけではなく、壁に飾られた絵の中でも、ガウディは息づいている。それを直接、感じてほしい。

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■「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」

9月7日(日)まで森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ)にて開催中。

金沢21世紀美術館:10月4日~11月5日
長崎県美術館:12月20日~3月8日
兵庫県立美術館:3月21日~5月24日
《photo / text:Naoki Kurozu》

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