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【インタビュー】井上雄彦 が描くガウディ<前篇> バルセロナの街に身を浸して見えてきたもの

ガウディとの距離と時間――。それを埋めるため、いや、本人の言葉を借りるなら「自分自身をドボンとその環境に入れてしまう」ため、井上雄彦はバルセロナへと旅立った。

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井上雄彦「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」/Photo:Naoki Kurozu
井上雄彦「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」/Photo:Naoki Kurozu
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  • 「特別展 ガウディ×井上雄彦 ‐シンクロする創造の源泉‐」 (C) I.T.Planning
  • 「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」内覧会
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ガウディとの距離と時間――。それを埋めるため、いや、本人の言葉を借りるなら「自分自身をドボンとその環境に入れてしまう」ため、井上雄彦はバルセロナへと旅立った。

ガウディが半生を捧げ、いまも完成に向けて工事が進められているサグラダ・ファミリアを真正面に望むアパートで起居し、同じくガウディの代表作であるカサ・ミラの一室をアトリエに借りた。だが、およそ1か月の滞在期間の中で、井上さんは1枚たりとも絵を描き上げることはなかった。ただ街を歩き、ガウディ建築を巡り、ガウディが死んでから、およそ90年後の世界に生きる人々の姿、彼らの上に降り注ぐカタルーニャの太陽の光を見つめた。

そして帰国後、10.7m×3.3mという世界最大級の手漉き和紙に墨で描いた絵を含む、約40点の作品で建築家アントニ・ガウディの人物像とその物語を描き下ろした。これらの作品をガウディの貴重な自筆の図面や資料と共に展示した「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」が先月より「森アーツセンターギャラリー」(東京・六本木ヒルズ)にて始まり、秋以降、金沢、長崎、兵庫、仙台を巡る。

ガウディがいまなお息づくバルセロナの街角で、カサ・ミラというガウディ建築の“胎内”で、井上さんは何を見つめ、何を感じたのか? 冒頭に挙げた「距離」と「時間」をキーワードに、その創作を読み解いていくインタビュー前篇!


「縁ですね」――。筆を執り描くべき題材との出合いは常にその一語に集約される。

「SLAM DUNK」、「バガボンド」といった人気漫画の存在は言うに及ばず、浄土真宗の祖・親鸞聖人の七百五十回御遠忌に際し手がけた屏風絵、伊勢神宮の式年遷宮に合わせて奉納した墨絵「承」などジャンルを超えた活躍を見せる井上さん。最初にガウディと真剣に向き合ったのは数年前のことだった。

ある編集者に薦められ、ガウディ建築および、ガウディの歩みをたどり、その過程をイラストと共にまとめた「PEPITA 井上雄彦MEETSガウディ」(日経BP社刊)を2011年末に刊行した。それから約2年半を経ての今回の展示。改めて、なぜガウディなのか? なぜ題材としてのガウディにそこまで惹かれたのか? と問いをぶつけたが、返ってきたのは熱い思いというよりは、拍子抜けするほどシンプルな答えだった。

「実はガウディだからそこまで惹かれた、というのは正直ないんです。他の題材――宮本武蔵(『バガボンド』)や親鸞とどう違うのか? と言われたら、そこまで違わないと思います」。

まさに「縁」。描くべき題材を「自分から(探し求めて)獲りにいくということはしない」と自らのスタンスを明かすが、それは一方的な「受け身」ではなく「巡り合わせ」。己の直感への自信、出合うべきものには必ず出合うという確信があるからなのではないか。

「なぜかはわからないけど『縁があるな』と感じるもの、(直感的に)バッとくるもの――例えば、いままでの自分の仕事において、一番の中心にあると思っているのは『バガボンド』なんですが、『バガボンド』を描いているのと同じ流れの中にあるなと思えるものや、そこでご縁を感じたものに関して、とてつもなく大変な仕事だけど『えい、やっちゃえっ!』という感じで引き受けてます」。

長年の創作の中で、変わらないスタンスもあれば、確実に変わった部分もある。それが題材との間にある“距離”の埋め方。先述の通り、結果的に井上さんが1か月のバルセロナ滞在中に、1枚たりとも絵を完成させることはなかったが、それでも、あの街に行かなくてはいけなかった。

「親鸞や武蔵も遠いですが、それでも同じ日本人ですからね。そこと比べるとガウディとは距離がありました。そこでやはり現地に滞在すること、ガウディが生まれた場所や暮らした場所で、彼には世の中が、人や光がどのように見えていたのかを知ること、自分の身をそこに置いて体験することは必須だと感じました。それに関しては、僕自身が変わったというのもあると思います。自分をその環境にドボンと入れちゃうことで、自分が変わっていくのを通して作品にしていくというスタンス。例えば『バガボンド』の初期の頃を見てみると、自分の“頭”の中で作った武蔵だということが歴然としている。それでも同じ日本人であり、かつ長い年月描いてきたことで穴埋めをしていると言えますが。そういう経験をしたことで、“いま”の自分の場合、頭だけで作るガウディは違うな、という気がしました」。

インタビューに先立って行われた会見で、特に井上さんが現地で注意深く見ていたものとして挙げたのは現地の人々の存在だった。彼らの骨格、体格、会話のリズム、そして、やはり、人と話す上での距離。目で捉え、全身で感じた感覚を自分の中に取り込み、その先に見えてきたイメージを絵にしていく。その瞬間のインスピレーションとはどのようなものなのか?

「(ガウディの)顔だと思います。そこは漫画家なので。『あ、生きはじめた、歩き始めた!』という顔になる瞬間があるんです。手を動かしている中で。そこからわずかに残っている写真(※ガウディは写真嫌いで知られており、ほとんど写真が現存していない)や誰かが描いたスケッチを元に絵を描いてみるんですが、どうしてもリアルなタッチで描いてしまうんです。それは、敬意や仰ぎ見るような気持ちがあったからなんでしょうが…真面目に描いちゃうんですよ(苦笑)。それである時、ちょっと気持ちが自由になった時に、ものすごくデフォルメして描いてみたんです。そうしたらものすごくガウディに近づいてきて。いわば、漫画のデフォルメや省略の技術に助けられました。そこから動き出しましたね。スケッチ段階で3頭身のガウディを描き、そこからリアルな方向へと戻していくという作業でした」。

そして、話はガウディと井上さんの間に横たわる「時間」へと移っていく。

【インタビュー後篇】に続く。

■「特別展 ガウディ×井上雄彦 -シンクロする創造の源泉-」

9月7日(日)まで森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ)にて開催中。
金沢21世紀美術館:10月4日~11月5日
長崎県美術館:12月20日~2015年3月8日
兵庫県立美術館:3月21日~5月24日
せんだいメディアテーク:6月3日~7月12日
《photo / text:Naoki Kurozu》

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