【MOVIEブログ】2015 コンペ作品紹介(3/5)

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(c) 2015 BTB Blue Productions Ltd / BTBB Productions SPV Limited
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東京国際映画祭のコンペ作品紹介の3回目は、南北アメリカです。

『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』(カナダ・英国・アメリカ)

まずは『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』。監督はカナダ人で、ルックはアメリカ映画です。今回のコンペで最も注目される作品、というか、注目してもらいやすい作品かもしれません。イーサン・ホークがチェット・ベイカーを演じる、ということで、もうこれ以上何も書く必要がないくらいです。

それでも念のために記しておくと、チェット・ベイカーは1950年代に大きな人気を誇ったジャズ・トランぺット奏者です。チャーリー・パーカーに認められた演奏、ジェームズ・ディーンのようなルックス、そして中性的で繊細なボーカルなどの魅力で、一世を風靡します。しかしドラッグに溺れ、60年代にはどん底に堕ちてしまう。本作はそのどん底の時代を中心に描くものです。天賦の才に恵まれながら地を這う人生を送ってしまうダメ男を、イーサン・ホークが実に見事に演じています。

いやあ、何を書いても野暮になりそうです。とにかく、再生を期すチェットが実家の田舎でペットの練習をするシーンなんてもう、いちいちアルバムのジャケットのようにフォトジェニックだし、60年代のファッションやインテリアも素敵。僕が特に魅かれるのは、レコーディングスタジオの内装の美術で、広々した空間が当時の雰囲気を余すことなく伝えてきて本当に素晴らしい。

チェットと、彼を支える女性との愛の物語であり、そこに極上のジャズが重なるわけで、もうしびれずにはいられない。エンドクレジットが終わると、ああ、もう、ああ、とか、出るのはそういうため息ばかりです。

とにかく、イーサンです、イーサン。カッコいい。本当にカッコいいです。とても素敵な愛の物語であるので、デートで見るならこの映画、と紹介しようと思ったけど、男はめちゃくちゃ不利になるので、もしかしたらやめておいたほうがいいかも。イーサン、歌います。これが、本当にいい。

トリヴィア情報(死語?)ですが、ロバート・バドロー監督は2009年に『The Deaths of Chet Baker』というチェット・ベイカーの謎の死についての中編を監督しています。よほどチェットが好きなんだろうなあと思わせるわけですが、その作品でチェットを演じた俳優が、『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』ではチェットの父親役で出演しています。本当にチェットに似ているし、そしてイーサン・ホークのお父さんにも見える。出番は多くないですが、強烈な印象を残すので、是非楽しみにして下さい。

マイルス・デイビスやディジー・ガレスピーが登場したり、チャーリー・パーカーの話題が出てきたり、ジャズを好きな人であればニヤニヤしてしまう展開も多いし、ジャズに興味が無くても音楽にしびれることは間違いないです。そして、音楽映画であること以上に愛の物語である本作は、映画祭を訪れるあらゆる人々を骨抜きにしてしまうでしょう。

クールへ、ようこそ。

『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』(メキシコ)

中米から、メキシコの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』。この監督にも注目しないといけません。ロドリゴ・プラ監督。ウルグアイ生まれ、メキシコ育ちで、本作が4本目の長編作品になります。もう、舌を巻く上手さです。

在宅で夫を介護している女性がヒロイン。夫の容態が急変して、救急車を呼ぶものの、保険の関係で主治医に連絡を取ることが必要になる。しかし、主治医は何故かなかなかつかまらず、焦る妻の取る手段はどんどん過激になっていき、状況は悪化の一途を辿ってしまう…。

昨年、ブルガリアの『ザ・レッスン/授業の代償』という作品が、日常生活の中のサスペンスを見事に描いて審査員特別賞を受賞しましたが、『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』も、スタイルこそ全く異なるものの、社会の底辺で懸命に暮らす弱者が、強者によって作られたシステムに翻弄されてしまう様を描くという点で共通しています。

社会派ドラマではありますが、もはやサスペンス映画と呼んだ方がふさわしいでしょう。速い展開に、途切れないテンション。一息に語り切るようなスピード感溢れる75分。語り口の上手さにも脱帽しますが、ヒロインの行動に密着していくコンパクトなスリラーでありながらも、脇に登場する人物を丁寧に取り上げ、そしてその扱い方が実に独特であることに舌を巻きます。これは新しいストーリーテリングのあり方ではないかと、喝采を叫んでしまうほどです。

ロドリゴ・プラ監督は、前作の『La Demora(The Delay)』がベルリン映画祭の「フォーラム部門」に出品されて評価を得ています。初期の認知症を患う父の面倒を見ながら、3人の子どもを育て、縫製工場のわずかな収入でやりくりをするシングルマザーを主人公にした物語で、生活に追い詰められたヒロインが、父を遠くの団地の中庭に置き去りにしてしまうという内容でした。

弱者寄りの視点が、『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』とも共通しています。もっとも、前作にはスピード感というものはなく、むしろ人間の心の温かみにゆっくりと信頼を置くような、厳しい状況の中での性善説を描くことに重きを置いていました。今作は、同じ庶民寄りの視点を維持しながら、全く逆に振ってきた印象があります。まさにひとりの作家を追う喜びとはこういうことで、今作をきっかけにプラ監督がさらに認知されていくことを期待したいところです。

『ニーゼ』(ブラジル)

南米からは、ブラジルの『ニーゼ』です。こちらは、じっくり型ドラマ。『スリー・オブ・アス』、『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』、『FOUJITA』など、今年のコンペでは「感動の実話ドラマ」が存在感を発揮していますが、いずれも実話が持つインパクトの強さ、そして実在の人物の生き方から現代に発せられるメッセージに、心を揺さぶられる作品群です。

舞台は60年代のブエノス・アイレス。精神科医のニーゼ・ダ・シルベイラが精神病院に着任するところから映画はスタートします。少しセピアがかった画調、固く閉ざされた鉄の入場門を激しく叩くニーゼを背後から捉えるショットからして、良い映画の予感が漂います。

暴れる患者に対しては暴力で押さえつけ、患者を人間扱いしないことが当たり前となっている医療現場にニーゼは放り込まれ、やがて改革を決意します。しかし、男性で固められた医師団の反応は冷ややかで、女医であるニーゼは男性社会と保守的な治療法という二つの壁と直面していくことになる…。

物語の構図としては、とてもシンプルです。しかし、そのシンプルさが、映画にブレない強度を与えています。状況を打破するために必要なものは、屈強な意志なのだという、プリミティブなメッセージが突き刺さります。プリミティブであるのに、それを貫くことがいかに難しいかを我々は知ってしまい、諦めてもしまう。しかし、世界には諦めない人がいる。諦めない人たちのおかげで、世界は少しでも良い方向に向かっていく。ならば自分も、もう少し踏んばらなくてはいけないのではないか。もう、書いてしまうと恥ずかしいような、そんな勇気と気合いを、この映画はふんだんに与えてくれます。

精神病医療について、僕は全くと言っていいほど知識を持ち合わせていないので、本作を専門的な見地から検証した場合の正当性については、語る資格を持ちません。しかし、精神疾患にアートが与える前向きな影響については過去にも映画の題材になっているし、それこそ実話の強みで、ニーゼの改革の効果は実に説得力を持って迫ってきます。ニーゼのパーソナリティーと、患者たちへの治療の推移を見守るなかで、我々は人間の意志や精神の神秘に触れていくことになります。

ホベルト・ベリネール監督は、過去にドキュメンタリー映画を撮ってきており、そこで題材としたのが、ストリートで生き延びている3人の盲目の姉妹であったり、大事故で体の自由を失ってしまうロックスターであったりします。つまりは、厳しい状況に敢然と立ち向かう人間たちを描くことに執着しており、不屈の医師ニーゼの人生を映画化したのは必然の展開だったのかもしれません。

ニーゼに扮するグロリア・ピレスは、子役時代から通算した女優歴が40年を超える実力派です。毅然たる態度を示すときの彼女の立ち居振る舞いには興奮を禁じ得ないのですが、女優であれば誰もが憧れるような役であるに違いなく、女優の演技を堪能するという意味でも本作は格好の1本です。そして、ああ、僕があまりにも好きなシーンがあるのですが、それについては書くのをガマンします。早く、語りたい…!
《矢田部吉彦》

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