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【MOVIEブログ】追悼 フランソワ・デュペイロン監督

2月25日(現地時間)、フランソワ・デュペイロン監督が死去しました。享年65。

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2月25日(現地時間)、フランソワ・デュペイロン監督が死去しました。享年65。

訃報に接し、2013年に最新作の『魂を治す男』(写真)とともに来日してくれたとき、上映後のQ&Aで「本作が最後の監督作品になるかもしれない」といきなり発言して会場を動揺させたことを、すぐさま思い出しました。しかし当時は、その発言を本気で受け止めていたわけではありません。というのも、オフの時間で会話を交わしたときの監督は、病気を抱えているようには全く見えなかったし、監督引退については、自分の撮りたい作品がなかなか作れない映画業界への失望を理由にあげていたからです。

そう、このような話を普通に語ってくれるデュペイロン監督は、会ったその瞬間からすぐに惹き込まれてしまう人柄の持ち主でした。挨拶も早々に胸襟を開いてくれて、フランスの映画業界事情について本音を語り、そして日本の映画祭と映画業界について熱心に耳を傾けてくれる監督など、僕はほかに知りません。謙虚で知的で優しい物腰に惚れてしまわないスタッフはいませんでした。「お願いですから次回作を作って、また来日して下さいね」と全員でお送りしたのが、ほんの昨日のようです。それがもう実現しないとは、本当に信じられません。

僕が初めてデュペイロンの作品に接したのは、2001年のカンヌのコンペに選ばれ、同年に横浜のフランス映画祭で上映された『将校たちの部屋』でした。一次大戦で顔を激しく損傷してしまった男の魂の再生の物語で、丁寧な心理描写と、日本の永田鉄男キャメラマンによる美しい映像が長く心に残る秀作でした。その前作となる『うつくしい人生』(99)は日本では2002年に公開されましたが、重厚感と繊細さの同居、美しい映像、そして再生というテーマ、これらデュペイロン監督の特徴が顕著な作品です。本作はサンセバスチャン映画祭で複数受賞し、デュペイロン監督は国際的に注目されることになり、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』(03)というオマー・シャリフを迎えた話題作の製作へと繋がっていくことになります。

『がんばればいいこともある』(08)を東京国際映画祭のコンペでお迎えできた喜びを忘れることはできません。アフリカ系の女性がパリで奮闘する様を描く内容で、深刻な状況とコミカルな軽やかさを合わせ持ち、しなやかな強度を持つ作品でした。デュペイロン映画の強度とは、ポジティブであることと同義なのだと思います。生を肯定し、心の強さに希望を託すといったポジティブな姿勢が、監督の作品に通底しています。このときは監督の来日は叶いませんでしたが、主演女優賞と最優秀芸術貢献賞を受賞しました。

そして、5年振りのオリジナル新作が前述の『魂を治す男』でした。超能力的な治癒力を持つ血筋に生まれてしまった男の苦悩と再生が描かれますが、これが遺作になってしまうとは、何とも暗示的な内容であったと思わざるを得ません。画面は繊細な光線で溢れ、その光は魂の再生を導く…。

大胆にして繊細。重厚にして軽やか。難解さを装うことはないが、通俗的な迎合とも距離を保つ。絶妙なバランス感覚を備えた作家であったと、改めて思います。誰もが知る存在ではなかったかもしれないけれど、輝かしい個性を誇った監督でした。彼の作品が持つポジティブな姿勢をこうやって思い出していくと、もうお会い出来ない悲しみに暮れるよりは、作品と監督の人柄に直接触れることのできた幸せを噛みしめようという気持ちになってきます。魂の行方を描いてきた監督の、ご自身の魂が安らかにあらんことを心から願いつつ、素晴らしい作品を届けてくれたことに、深い感謝の念を捧げます。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
《矢田部吉彦》

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