ACIDはAssociation du Cinema Independent pour sa Diffusionの略で、「インディペンデント映画普及協会」と訳せばいいでしょうか。インディペンデントの監督たちで作っている組織で、1992年に発足し、カンヌでは1993年から自主的に部門を開設しています。配給会社やセールス会社のついていない作品、つまりは監督が自ら上映に向けて行動しなければならない作品群が紹介されます(もっとも、カンヌで上映されるまでには会社がついていることも多く、これもカンヌで部門を持つメリットであるのは間違いないでしょう)。
マリアナ・オテロ監督(仏)『L’assemblee』 Maryam Goormaghtigh監督(仏/イラン?)『Avant la fin de l’ete』 マリー・デュモラ監督(仏)『Belinda』 イラン・クリッパー監督(仏)『Le ciel etoile au dessus de ma tete』 クリスチャン・ソンドレゲール監督(仏)『COBY』 リラ・ピネル監督&クロエ・マイユ監督(仏)『Kiss and Cry』 チャン・タオ監督(中)『Last Laugh』 クリストフ・アグー監督(仏)『Sans Adieu』 マタン・ヤイル監督(イスラエル)『Scaffolding』
マリアナ・オテロ監督は『L’assemblee』が第4作目で、フランスの新しいデモ集会の形態を考察するドキュメンタリー。『Avant la fin de l’ete』はイラン出身(と思われる)監督の第1作長編ドキュメンタリーで、パリで5年過ごした後、イランへ帰国を決意する青年を友人たちが何とか引き留めようとする内容で、楽しそうです。『Belinda』はマリー・デュモラ監督の4本目となるドキュメンタリー。ベリンダという女性の9歳、15歳、23歳の姿が描かれるということで、それだけの年月カメラを回したのだろうか、それとも実験的な作品なのだろうか?
イラン・クリッパー監督『Le ciel etoile au dessus de ma tete』はフィクションで、処女作が話題になった小説家の30年後の痛々しい姿を描く物語。主演は最近のフランス映画で少しずつ見かけるようになってきたローラン・ポワトルノー、そして共演に僕が好きなマリリン・カントの名があるので、この作品はとりわけ惹かれます。
そして、ACID部門の「特別上映」的な扱いをされているのが、俳優のヴァンサン・マケーニュが初監督した『Pour le reconfort』です。2010年代に入ってから、冴えない風貌と抜群の演技力であっという間にフランス映画界に欠かせない存在となったヴァンサン・マケーニュですが、日本でも『女っ気なし』(2011)はじめ数本が劇場公開されているし、アンスティチュ・フランセで特集し来日もしているので、彼の魅力に振り回されている人も少なくないはずです。
初監督作『Pour le reconfort』にヴァンサンは出演せず、演出に専念しているようです。両親の土地の相続問題と、その土地を買おうと企む近隣の友人たちの関係で悩む兄妹の物語とのこと。果たして俳優ヴァンサンが得意とするコメディー系なのか、それとも自らの芸風とは関係のない世界観なのか、全く予想がつかないところもヴァンサンという存在の持つ魅力だと思います。これは必見でしょう。