画家の名はヒルマ・アフ・クリント。1862 年、スウェーデンに生まれた彼女は王立美術院で学び、伝統的な絵画で成功を収めたが、妹の死などを経て神秘主義に傾倒し、独創的な絵画を手掛けるようになる。その独創性は同じ思想を持つ 4 人の女性芸術家と結成した「5 人」の活動やルドルフ・シュタイナーとの出会いで、輝きを増していく。しかし、同時代の画家たちが新たな芸術作品を発表する中、彼女は自身の革新的な作品を世に出さず、自分の死後 20 年間は公表を禁じてこの世を去った…。月日は流れ、現代。突如、世界に発見された彼女は、各地で評判を呼び、2019年 NY のグッゲンハイム美術館の回顧展では、同館史上最高の来場数(約 60 万人)を記録し大きな話題となった。世界中の人々の心を鷲掴みにする彼女の絵は、なぜ 20 年を経ても世に出なかったのか。そして、自分で道をつくり、その道を歩んだ彼女が、目に見えるものを超えて見つめていた世界とは。キュレーター、美術史家、科学史家、遺族などの証言と、彼女が残した絵と言葉から解き明かす。
ハリナ・ディルシュカ