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梅雨を忘れる清涼な映画vol.3 固定観念を覆す爽快さ『ブラインドサイト』

進化し続ける携帯電話。それを手にするにつけ、「多機能が搭載されていても、使いこなせないんだから、その機能はないも同然だよな…」と思ってしまう人はそう少なくないはずです。実は、これは人間にも当てはまるのかもしれません。私たちにも、さまざまな能力が備わってはいるけれど、それを生かし、駆使しないならば持っていないも同じこと、ですよね…。

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『ブラインドサイト〜小さな登山者たち〜』
『ブラインドサイト〜小さな登山者たち〜』
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進化し続ける携帯電話。それを手にするにつけ、「多機能が搭載されていても、使いこなせないんだから、その機能はないも同然だよな…」と思ってしまう人はそう少なくないはずです。実は、これは人間にも当てはまるのかもしれません。私たちにも、さまざまな能力が備わってはいるけれど、それを生かし、駆使しないならば持っていないも同じこと、ですよね…。

今回ご紹介する映画『ブラインドサイト〜小さな登山者たち〜』は、盲人として史上初めてエベレスト登頂に成功したアメリカ人の登山家とチベットに暮らす盲目の子供たちが、エベレスト北側の標高7,000メートルのラクパリを共に目指す姿を追ったドキュメンタリー。

登山家でも、大人でも、目が見えても、困難を伴うエベレスト登頂。ならば、なぜ彼らはそんな無謀とも思える計画を立て、実行してしまったのでしょう。そこには、あれはダメ、これもダメ、と勝手に盲人の可能性を狭めている社会への「自分たちだってみんなと同じ人間だ」という強い意思表示があるのです。

盲人は前世で悪事を働いたために今生で罰を受けている——。チベットでは、そんなことが信じられているそうです。白い杖をついた人が村を歩けば、“シャルゴ!(疫病神)”と罵声を浴びせる人もいるのだとか。そこまで聞けば「なんて酷いことを」と思うものですが、「目が見えないのに、エベレストに登るの? 絶景を堪能することもできないじゃないの…」と、一瞬でも思ってしまった人はほぼ同罪(かく言う私も…)。私たちは知らず知らずのうちに、彼らの可能性を否定し、狭めてしまっている張本人になっていたのです。

確かに、目が見えず、耳が聞こえなかったりするならば、不便はあるでしょう。でも、それはさまざまな可能性が私たちより低くなることとは違う。その証拠に、世界のほとんどの人が一生登らないであろうエベレストに、彼らはその足で登りました。さらに、チベットの盲人たちを取り巻く環境を憂慮した盲目のドイツ人教師が設立した施設「国境なき点字」では、子供たちに質の高い教育を提供。彼らは3か国語を操ることもできるのです。

どうでしょう。これだけをとっても、彼らは自分よりイケていると思えますよね。ところが、より羨ましいのは、彼らが持つ無限のイマジネーション。目が見えないという“制限”の中で、子供たちは私たちには計り知れない想像力を育て、それを駆使して人生を生きているのです。

それでも、「せっかく登れたとしても、エベレストの絶景をその肉眼で見られないのはかわいそう」と、まだ多くの人は思っていることでしょう。私も初めはそう思いました。でも映画を観ているうちに、徐々に理解できてくるのです。実は彼らは心の目でちゃんと「見て」いるのだと。タイトルとなっている「ブラインドサイト」とは、70年代に英国人のバイスクランツ博士が立証したもので、「見る」ために私たちが通常使っている視覚経路とは違う神経系を介して、「見る」と同じような情報処理を行い、物事を認識できるというもの。盲目の人でも、何かが自分に向かって飛んできたとき、それに気づいて避けることができたりするそう。それが透視能力というものに近いのかどうかは分かりませんが、人間とはつくづく凄いものなのです。

となると、見えていても何かに躓いたり、ぶつかったりする我々はかなり鈍いということに。そういえば、盲目の子供が「普通の人たちの心は何も見ていない」と言う場面がありました。実は全てを見えているがゆえに制限されているものもあるのですね。

雄大なエベレストの景色、感動のドラマは心地良いものでした。でも、何よりも、当たり前だと思っていた価値観を覆されるすがすがしさといったら! 梅雨といわず、心がジメジメしたときには、ぜひこの作品で爽快な気分になってください。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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