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夏に観たい怖い映画vol.4 この夏、最も怖いドキュメンタリー・ホラー

「怖い」にもいろいろありますが、お化けに感じる恐怖とは異質の怖さ、ある意味で最大級の恐怖を引き起こすものに人災があります。事件や事故は当然ですが、特に生活の中にひっそりと佇む人間の悪意が実は一番怖かったりします。

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『シッコ』 -(C) 2007 Dog Eat Dog Films,Inc.
『シッコ』 -(C) 2007 Dog Eat Dog Films,Inc.
  • 『シッコ』 -(C) 2007 Dog Eat Dog Films,Inc.
  • 『シッコ』-(C) 2007 Dog Eat Dog Films,Inc.
  • 『シッコ』 -(C) 2007 Dog Eat Dog Films,Inc.
「怖い」にもいろいろありますが、お化けに感じる恐怖とは異質の怖さ、ある意味で最大級の恐怖を引き起こすものに人災があります。事件や事故は当然ですが、特に生活の中にひっそりと佇む人間の悪意が実は一番怖かったりします。

『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』で、人間の心に潜む闇がもたらす恐怖を次々に暴いてきた突撃ジャーナリスト、マイケル・ムーア。彼の新作『シッコ』が、これまた怖い。今度のテーマは保険制度。命に直結した制度です。彼の住む、超大国・アメリカ合衆国には、先進国で唯一、公的医療保険制度がありません。WHOの調査では、保険制度の充実度は先進国世界で37位という驚きの低さ。国民の6人に一人が無保険で、毎年1.8万人が治療すら受けられずに死んでいくのだそうです。しかも、民間の保険会社が提供する保険に加入しようにも、既往症のチェックが極めて厳しく、多くの人が加入を拒絶される。とはいえ、幸運にも加入できたとしても、医療が必要になった時には、「治療は不要」などの無責任な理由をつけては、保険金を支払わない会社が多いというから驚いてしまいます。高い保険料を支払っても、“無駄な支出”を減らそうとする保険会社(収益は巨額)の陰謀によって、いざというときに役に立たないというのですから、たまったものではありません。これはまさに、生きるチャンスを奪われているも同然。「これって、お化けよりも、テロリストよりも数段怖い!」と思う人も多いことでしょう。

映画には、正当な治療が受けられず亡くなった人、治療費の自己負担分が異様にかさみ、家を手放した人など、多くの実例が紹介されています。この問題で実際にもがき苦しんでいる人々の様子を見ていれば、これが“ホラー・ストーリー”以外の何ものでもないことに気づきます。マイケルの語り口はいつも通りで、笑わせてはくれるのですが、根っこはとってもとっても怖くて悲しいのです。

こんな恐るべき悲劇の根源が何なのか、多くの人にぜひじっくり映画で学んでいただきたい。なぜなら、これは決して他人事ではないから。日本にはみな保険制度があるとはいえ、医療費の一部は自己負担。しかも、保険適用外の高度医療もあるため、個人の経済状態によって、受けられる医療の質が違ってくるという不公平な現実もあることですし。

WHOのランキング堂々一位のフランス、そしてイギリス、ひいてはアメリカが敵視する社会主義国キューバでは、全ての国民が最良の治療を全額無料で受けられることに比べれば、日本の制度は、それらの保険先進国と保険途上国(アメリカ)の間に位置しているに過ぎません。それだけに、この作品を観ていると、日本のシステムにも実に多くの疑問が生まれます。

“より高度な治療法をお望みなら、そちらは自己負担でどうぞという態度は、人の命は金次第ってこと?”、“少子化で困っていると言いながら、出産費用を国民に負担させるって変じゃない?”などなど。そうそう、保険金の不正未払い事件もありました。明日はわが身と思ってみれば、ジャパニーズ・ホラーも顔負けの背筋ゾクゾク感が味わえること請け合いです。嬉しくないけれど。

これを機に、みんなでもっと医療保険について考えてみよう! アメリカの保険会社の功罪をもっと学びたいのなら、マット・デイモン主演の『レインメーカー』や、デンゼル・ワシントン主演の『ジョンQ−最後の決断−』なども併せてどうぞ。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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