映画でクラシックピアノを楽しむvol.3 神童の苦悩『僕のピアノコンチェルト』

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『僕のピアノコンチェルト』 -(C) Vitusfilm 2006
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  • 『僕のピアノコンチェルト』
「映画でクラシックピアノを楽しむ」と題してお届けしている今月のコラム、第3弾はスイスを舞台にした、天才少年の物語『僕のピアノコンチェルト』です。音楽的才能にあふれている上、IQ180という驚異の頭脳を持ったヴィトス少年が主人公。誰もが羨む様な才能を持ちながらも、その才能と周囲の期待をもてあましている彼が、天才でいることへの苦痛を抱えていることを理解し、そこから解放してやりたいと願う祖父との交流を通し、自分の生きる道を見つけていくストーリーです。

“神童”をモチーフにした映画は、『シャイン』『神童』など、これまでにもいろいろありますが、それらと違って面白いのは、この作品が意外なほどに音楽の世界にこだわっていないというところ。もちろん、リストの「ハンガリー狂詩曲」、「ラ・カンパネッラ」やモーツァルトの「ロンド イ短調」などピアノの名曲に彩られてはいるのですが、基本のテーマは人生をどう生きるか。音楽家としてどう成長していくかというよりも、苦悩を抱えた人間が人としてどう成長していくのかという部分を大切にしているのです。頭脳が明晰すぎて、ふてぶてしい態度をとったり、自分の思惑通りに人生を歩ませようとする両親とせめぎあったり、自分を過信しすぎて恋に失敗したりと、子供にしては不器用に生きている彼がいったいどう変化していくのかが本作の見どころ。

原題は、主人公の名前である“Vitus”ですが、日本語タイトルは『僕のピアノコンチェルト』。自分の能力をもてあまし、内にこもりそうになるヴィトスにとって、人生は多くの人々と一緒に音を奏でるコンチェルト(協奏曲)のようなものなのだと教える祖父の存在が唯一無二であり、本当の意味での社会との接点となっていることを考えると、とても素敵なタイトルだと思います。原題よりも合っているかもしれません!

ところで、この作品で12歳のヴィトスを演じているのは、テオ・ゲオルギューという新人。実は彼自身が神童で、ドイツで開催された「若いピアニストのためのフランツ・リスト・コンクール」の10〜13歳部門で優勝経験を持っています。現在、ロンドン郊外にある名門音楽学校パーセル・スクールで学びながら、ヨーロッパを中心に演奏会も行っているとか。神童が演じる神童の物語という点でも、2人のピアニストの姿がダブり、面白いリアリティを醸し出しています。面白いリアリティといえば、もうひとつ。劇中、コンサートシーンが登場するのですが、それにまつわるエピソードがまたユニーク。このシーンでテオは、ハワード・グリフィスが指揮をとるチューリッヒ室内管弦楽団と実際に共演を果たしているのですが、予算の関係で会場を借りる費用がなかったのだそう。そこで、演奏会を有料にし、一般にチケットを発売。幸運にも、即完売したことで撮影が可能になったというのです。

しかも、これが思わぬ効果を生む結果に。テオの演奏に感動した観客が20分にもわたりスタンディングオベーションで賞賛したとのこと。本物の神童が奏でる、本物の音楽に、本物の聴衆が感動する姿は、まさにドキュメンタリー。この迫力、じっくり味わってみてください。

ところで、前回のコラムでピアニストのホロヴィッツに言及し、私が聴いた彼のCDが「ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番」であると書きましたが、読者から、ホロヴィッツは「第2番」の録音を残していないのではとのご指摘がありました。

記憶を再度辿りますと、確かに、私が飽きるまで聴いていたのは、ラフマニノフによる自作自演の「ピアノ協奏曲第2番」。その流れでホロヴィッツによるラフマニノフ「ピアノ・ソナタ第2番」と「ピアノ協奏曲第3番」を聴いていたため、記憶が混乱してしまったようです。ホロヴィッツが第2番の録音を残していないかどうかは、最終的に確認はできていませんが、ご指摘により勘違いが判明しましたので、お詫びの上、ご報告させていただきます。ファンのみなさまには混乱を招いてしまい、失礼致しました。

《text:June Makiguchi》

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