【シネマモード】『ハウスメイド』イム・サンス監督の“囚われない”映画づくり

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『ハウスメイド』 -(C) 2010 MIROVISION Inc. All Rights Reserved
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  • 『ハウスメイド』イム・サンス監督
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韓国のみならず、世界が認める1960年の傑作韓国映画『下女』。上流階級の裕福な家庭に新しい家政婦がやってきたことで、上流階級の人々が持つ残酷さ、エゴイズム、強い性的な欲望が浮き彫りになっていく様子を描き、衝撃を与えたキム・ギヨン監督の作品だ。韓国国内で活躍する映画監督たちはもちろんのこと、ロマン・ポランスキーやミヒャエル・ハネケら世界の名匠たちにも影響を与えているとされるこの作品が、マーティン・スコセッシのサポートと韓国映像資料院の協力のもと、2007年にデジタルリマスターされ、翌年にはカンヌ国際映画祭に特別上映されたことで再び大きな話題となった。そして、これほどまでの世界的傑作をリメイクするという難題に挑んだのが、『ディナーの後に』、『ティアーズ』、『浮気な家族』などで世界的な名声を確立してきたイム・サンス監督。チョン・ドヨン、イ・ジョンジェら実力派キャストを迎え、伝説を進化させることに成功した彼に、本作へ寄せた思いを聞いた。

「リメイクというのは常に前作を越えることが難しく、制限のある中で作品をつくらなくてはいけないということもあるので、監督をやらないかというお話をいただいた際は色々と葛藤や懸念はありました」。

決断前の複雑な心境と、気持ちを変えていった要素について、隠すことなく口にしていくイム監督。「キム・ギヨン監督の『下女』は歴史に残る名作ですし、非常に熱狂的なファンの方も多い作品ですが、実は私自身はそこまで熱狂的なファンというわけではなかったからです。そんな私が引き受けていいものなのかと不安に思いました。さらに、これだけ称えられている作品をリメイクするとなると制限されることも多くなってくるでしょう。たくさん越えなければならないハードルがあることで葛藤も多かったのです。でも、脚本と演出について自由にやらせてくださるというお話をいただけたこと、さらには、“階級問題”というテーマをいまの時代に真っ向から取り扱うことは商業映画監督にはなかなかできないことであり、この作品ではそれができると思ったので、この作品の監督を引き受けました。目指したことも、この作品を通して“階級問題”を描くということでした」。

本作に登場する特権階級の人々は、人間の欲望を象徴する存在として、物語に強い緊張感を与えていく。階級問題を通して見えてくる社会の不条理は、生々しくて恐ろしい。
「過去の身分制度は終わり、私たちは誰もが平等な民主主義の時代を生きていると思ってしまっていますが、世界のどこかしらで、財産や職業、出身、国籍、皮膚の色等々を理由に未だ侮辱的な生活を強いられている人がいるのが現実です。一部の傲慢な特権(上流)階級の人々が遠慮なく侮辱をばら撒いていて、その侮辱を受け止めて苦しんでいる人々が世の中に散在しているのがいまの時代だと思います。そういうことを知ってもらうためにも、上流階級の人々を題材として取り上げました」。

そう話す監督がこの物語を練り上げていく上で最もこだわったのは、“サスペンス”というスタイルだったそう。
「制限された空間でたった6人のキャラクターと彼らのシンプルな関係性だけを用いて、どのように観客を興奮させ、映画に没頭させることができるか。そこにこだわりましたね。メイドは家主とこっそり関係を交わし、それが自分だけの秘密だと考えていましたが、メイドが気づかないうちに女主人の知るところとなり、女主人は怒りを感じる。このとき、観客はサスペンスというものを感じ始めます。メイドは一家に背信を感じて関係を終わらせますが、女主人はある陰謀を画策し始める。観客のサスペンスは増幅されます。陰謀によりメイドは恐ろしい目に遭う…。サスペンスは創り上げていくというより、様々な要素を絡み合わせていくことで生まれるものなので、面白さはそこにあると言えるでしょう」。

陰謀に巻き込まれる純真なメイド・ウニを演じているのが、国内外で高い評価を得ている名女優チョン・ドヨン。監督は彼女に“一級の芸術家”と最高の賛辞を捧げている。
「チョン・ドヨンには苦労をかけたと思います。彼女は、感情型(感情を大事にするタイプ)の女優ですが、私はその反対のところにいる演出家です。私は彼女にできるだけ感情を排除した形の演技を求めました。それは彼女にとって大変な苦痛だったと思います。あるとき、私の元に来て『どうしたらいいのか分からない。私は本当にウニになれているの?」と泣きながら訴えたことがありました。そんな迷いや葛藤も含め、彼女はウニそのものだなと感じていました。彼女でなければ、ウニは成立しませんでした。彼女はどんなときも素晴らしいです。撮影に臨む時点で、正確に100のものを持ってきます。でも私がそこに対して5つ変なことを言うんです(笑)。そうすると、彼女は駄々をこねたり、正面切って私を非難したりしながらも、撮影に入る時にはその5つを利用して再度プラス10をつくりあげ、110の状態で演じるんです。素晴らしい女優だなと感じました。今回はユン・ヨジョンさんやイ・ジョンジェさんという存在も、相乗効果として働いてくれましたね」。

今回のインタビューでも、オリジナリティ溢れる言葉遣いで心情を披露し、優れた表現者たる風格を感じさせてくれた監督だが、映画的言語センスにも極めて優れていることは、本作を観ただけでもよく分かる。アメリカ映画やヨーロッパ映画を観て育ったという監督は、「実は、韓国映画をちゃんと観始めたのは20代を過ぎてからで、ほかのアジア諸国の映画を観始めたのは…監督になった後なんです。 映画監督としては、悲劇的ですね」と笑う。「十代の頃から映画監督になること以外は考えずに生きてきました。ただ、映画だけを愛して崇拝するということについては、違和感を覚えます。監督になろうと考えながらも、映画にただただ魅了されてきたのかというと、私はちょっと違うように思いますね」。

映画監督を目指しながらも、映画だけに囚われない。そんな個性が、広い視野を育み、鋭い感性が溢れる豊かな映画作りへと反映されるのだろう。
「今後は国際的な合作プロジェクトというものをやってみたいですね。日本や中国という近い国とのプロジェクトからやっていってみたいです」と、これからの創作にも意欲を燃やす。国境という枠に囚われず、より高く羽ばたくイム・サンス監督の創造性に触れる日が、もう既に待ち遠しい。



特集「どちらに溺れる?純女ヒロインの愛」
http://www.cinemacafe.net/ad/asia_summer/
《text:June Makiguchi》

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