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【インタビュー】広末涼子 抑えた感情の中から魅せる“日本の美”

号泣する準備は出来ていた。

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広末涼子『柘榴坂の仇討』/Photo:Naoki Kurozu
広末涼子『柘榴坂の仇討』/Photo:Naoki Kurozu
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  • -(C) 2014映画「柘榴坂の仇討」製作委員会
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  • 『柘榴坂の仇討』-(C) 2014映画「柘榴坂の仇討」製作委員会 
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  • 『柘榴坂の仇討』-(C) 2014映画「柘榴坂の仇討」製作委員会 
号泣する準備は出来ていた。

この作品が現代劇であれば間違いなく泣いていただろうし、涙は美しく物語を彩り、彼女の評価を一層高めたかもしれない。だが、映画『柘榴坂の仇討』で広末涼子に与えられた役は、本懐を遂げることを文字通り、唯一の生きる目的とした男を献身的に支える武家の妻であり、演じながらどんなに心の内で感情が高ぶっても、涙を見せることは許されなかった。

「若松節朗監督からはいつも『泣くのは最後までとっておきなさい』と言われてました(苦笑)」。

感情を抑えて、抑えて、抑えつけることにより、スクリーンから伝わってくるものが確実にある。映画では初めてとなる時代劇は、広末涼子をまたひとつ、新しいステージへと導いた。

原作は、広末さんが10代で出演した映画『鉄道員(ぽっぽや)』の原作者でもある浅田次郎による短編で、文庫本でわずか38ページの小説。「桜田門外の変」で主君・井伊直弼を守ることが出来なかった彦根藩士・金吾(中井貴一)が事件の犯人である浪士への仇討を命じられ、明治の時代になって彦根藩そのものが消滅してもなお、仇討を胸に武士として生きる姿を描く。

広末さんが演じたのは金吾の妻・セツ。夫が仇討という本懐を遂げることを願い、酒場の酌婦として働き、家計を支える妻で現代の価値観からすると古風な「三歩下がって夫の影を踏まず」を地で行く女性だが、広末さんは「とにかくセツが大好きで、“共感”としか言えない感情を抱いた」とこの役を演じることの喜びを口にする。

「現代劇ではいま、なかなか演じることが出来ない、耐え忍ぶ美しさを持った女性を演じる機会をいただけたのが嬉しかったです。いまの時代を生きる日本の女性は、もちろんこの映画の時代やひと昔前と比べて、社会的な地位も確立されつつありますし、活躍する場もたくさんある。家庭にとどまらないで世界に羽ばたいて、キラキラと輝く女性像が出来上がっていて、映画の中の時代の楚々として、はんなりという女性よりも、強くたくましい女性がカッコいいとされる時代ですから、私の世代を含め、セツのような古風な女性は理解できないという人も多いかもしれません。でも私は、昔からそうした女性像に憧れがありました」。

広末さん自身、10代の頃から社会に出て、第一線で働き続け、輝いてきた女性。その意味で、そうしたやや古風な価値観を持っていることは意外にも思えるが…。

「そうかもしれません(笑)。無意識に両親を見て自然とそうなったのか…決して男尊女卑という意味ではなく、女性としての幸せや価値観というものを小さい頃から思い描いていたのかなと思います。ただ、この映画に参加して、金吾さんのような夫であれば、単に『武家の妻だから』という理由ではなく、自然と彼を支えようと思えるのではないかなと思いました。もしも彼がもっと意志が弱くてだらしない男性であれば、ここまでして支えようとは思わないかもしれません(笑)。でも、ここまで自分を貫き、忠誠心を持って侍として生きる男性だったからこそ、セツも侍の妻として、本心から苦ではなく、彼を支え続けることが出来たのではないでしょうか。そういう意味でも本当に大好きな役でした」。

「価値観」で言うと、まさにいま、広末さんが言及した主人公・金吾の生き方――死んだ主君への忠義のために、時代に取り残されようとも人生を懸けて本懐を遂げようとする姿は、セツの女性像以上に現代では理解されにくいかもしれない。広末さんの目に金吾の姿はどう映ったのだろうか?

「中井さんが仰っていた言葉をお借りするなら、この井伊直弼と金吾のような関係が現代の会社の社長と社員であったら、きっとその会社は潰れることはないだろうと。利害だけの繋がりであれば、いろんな壁が立ちはだかった時に壊れてしまうかもしれないけど、人と人の繋がりがあれば持ちこたえられる。金吾はもちろん、武士として主君である井伊直弼に仕えて忠義を尽くそうとしているのですが、それ以上に井伊直弼のことが『好きだから』と言ってる。本当はその気持ちが一番強くて大事で、それは現代にも通じるものだと思います。映画の中では『矜持』という言葉を使っていますが、それは『覚悟』や『プライド』とも言えるもので、現代でも、それを持っていない人はいないのではないかと私は思います。今は、強くてカッコいい男性よりも、優しくて面白い男性がモテる時代ですから(笑)、そうした“男気”を表に出しにくいところがあるのかもしれないですね。それでも、若い方が観て、興奮し奮い立つものはきっとあると思います」。

それにしても、言葉で説明されないセツの胸の内を思うと、胸が苦しくなる。もしも、金吾が無事に仇討を果たせば、その時、彼はその場で腹を切ることになる。つまり、彼女は本懐を果たしたとき、愛する夫を失うことを知った上で、その仇討を支え続け、毎朝、家を出る彼を見送っているのだ。

「その心情を思うと本当に苦しかったです。本懐を遂げたら腹を切るという結末が見えているのに、そこに向かって2人が生活をしているというのは想像がつかないところもあって…。演じながら気持ちがあふれそうになるのですが、それを出してはいけない…。監督から常に『感情を抑えて』『凛として!』と言われ続けて、そうしていたつもりなんですが、それでも完成した映画を観ると、自分が思っていた以上にすごく哀しそうな表情をしているなと感じました」。

少しだけ悔しそうに広末さんはそう語るが、感情を抑えながらも滲み出る哀しみのさじ加減は絶妙である。いや、男など鈍いもの、つい金吾の仇討ばかりに意識が行き、セツがどんな思いでいるのかなど、言われなければ気づかないかもしれない…。だからこそ劇中、金吾が仇の情報を求めて司法省の警部・秋元(藤竜也)の家を訪ねた際に、面倒を詫びる金吾に秋元の妻が掛ける「その言葉は奥方に」というセリフが心に響く。そうして、じっくりとセツを見れば、暗い部屋で言葉もなく夫と枕を並べる彼女の姿、夫を見つめるその表情から、彼女の胸の内のあふれんばかりの感情が伝わってくる。

「完成した映画を観ていて、秋元さんの奥さんのあの言葉を聞いたときは、鳥肌が立つくらいに感動しましたし、救われました。セツだけでなく金吾さんや十兵衛さん(阿部寛)のシーンもそうですが、セリフの“行間”や、ちょっとした表情に感情をこめて見せるところを監督が本当に大事に大事に撮ってくださって、それは日本映画の醍醐味だなと改めて思いました。やはりTVドラマではあれだけの長い沈黙や間は許されないでしょうから。『あぁ、良い日本の映画が出来たんだな』ということをしみじみと感じました」。

現在、NHKで放送中のドラマ「聖女」では、タイトル通りの聖女なのか、それとも悪女なのか、劇中の登場人物どころか視聴者までも大いに惑わす“怪演”を見せている。映画『桜、ふたたびの加奈子』に『鍵泥棒のメソッド』然り、ここ数年、作品ごとに全く違った表情を見せている。

かつて、10代後半や20代前半で出演した作品で、役柄が彼女のかわいらしさや魅力を最大限に引き出していたとすれば、30代を迎えたいまは、女優・広末涼子が与えられた役柄の人間性や人生を最大限に引き出している、そんな印象を受ける。そして、彼女はそれを確実に楽しんでいる。

「やはり30代を迎えて、役の上で初めての経験をさせていただくことが多くて、そのめまぐるしさと言ったらありませんが(笑)、ありがたいなと感じています。当然ですが、10代や20代前半と比べると、歳を重ねることで確実に演じられる役の幅は広がります。既婚なのか、未婚なのか? 子供はいるのか? キャリアは? 女優としてはもちろん、ひとりの女性、人間として勉強し、成長させてもらってるなと感じますね」。

以前は現場の中で一番若い世代だったが、当然、最近では自身よりも年下の俳優と共演する機会も増えてきた。そんな中で、今回は、久々に中井貴一をはじめ、年上の俳優陣との共演が多くを占めた。それはまた新たな刺激を彼女に与えることになったようだ。

「金吾とセツの関係もそうなのですが、安心して現場にいさせていただける、そうした環境のありがたさを感じました。やはり自分が主演であったり、周りの方が年下の方だったりすると、どこかで自分が支えていかなくてはという意識になるのですが、今回はすごく楽をさせていただきました(笑)。中井さんといると、教えていただくとか指示という感じでなく、本当に自然に導いていただいてセツになれるんです。自分もそうやって、周りを導ける女優になりたいということを強く感じました」。

気づけば今年で女優生活20周年。経験を重ねる一方で、常に初めての体験に身を委ねる。だから、着物姿が大人の落ち着きを感じさせつつ、彼女はいつも瑞々しい。
《photo / text:Naoki Kurozu》

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