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【MOVIEブログ】2015年カンヌ映画祭予習(下)

前回のブログでコンペ予習を中心に書いたので、今回はその他の部門へ。

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前回のブログでコンペ予習を中心に書いたので、今回はその他の部門へ。

ご案内のように、「ある視点」部門のオープニングが河瀬直美監督の『あん』ですね。フランス語読みでは、カワゼ、あるいはキャワゼ。フランス語は母音に挟まれた「S」は濁るので、Kawaseは「カワセ」でなく「カワゼ」となるというわけです。いや、本当はeの上にアクセント記号が付かないと「カワズ」になるのですけどね。成瀬巳喜男が初めてフランスに紹介されたときは、「ナリューズ(Naruse)」と読まれたのは有名な話。

閑話休題。カンヌのコンペに異変が起きたというのは前回のブログで書いた通りですが、コンペの常連中の常連、河瀬直美監督が「ある視点」となったのは驚きでした。『あん』、僕は既に試写で見ましたが、無駄をそぎ落とし、シンプルを極めた果てに深みが増す、という作風に惹き込まれました。胸をかきむしられる内容で、かといって押しつけがましさはなく、これはいいです。

そして、前作『ブンミおじさんの森』がコンペのパルムドール(一等賞)を受賞したアピチャッポン・ウィラーセタクン監督の新作も「ある視点」。また、近年順調にコンペ入りが続いていたフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の新作も「ある視点」。さらに、コンペ入りを僕が個人的に切願していたキヨシ・クロサワ監督も「ある視点」。これらのことから見えてくるのは、「ある視点」はコンペの格下の位置付けというわけでは決してなく、今年はコンペ部門の風の入れ替えに伴い、「ある視点」作品は完全にクオリティーとしてはコンペと同等と見るべきなのでしょう。

上記作品はもちろんとして、「ある視点」の僕の注目は、ルーマニアの中堅個性派が揃うことです。それはRadu MUNTEAN(71年生)とCorneiu PORUMBOIU(75年生)の両監督のことで、ふたりとも『4か月、3週間と2日』のクリスチャン・ムンギウ監督(68年生)が牽引する形になった「ルーマニアン・ニューウェーヴ世代」(と僕が半ば勝手に読んでいる)に属し、長廻しを用いたリアリズム描写を得意とし、ミニマルな形で大きな効果を上げる術を備えた作家たちです。

この文章を読んでくれている人の中で、どのくらいの人が共感してくれるのか全く見当もつかないのだけれど、僕にとってはこの2人の新作が同時に見られるのはとても興奮するのです。特にコルネイユ・ポルンボイユは昨年傑作が2本もあり、充実期に突入している。ああ、トウキョウで特集を組みたい。でもお客さん誰も来ないかなあ。いや、だからこそやりたいのだよなあ…。

「ある視点」部門では韓国勢も存在感を発揮しており、OH Seung-Uk監督の『The Shameless(英題)』は大手映画会社CJの作品なので規模感のある力作が期待できるし、一方でシン・スウォン監督の『Madonna』は韓国インディーの雄であるFinecut社が扱っているので、アート色の強い作家映画が期待できる。ちなみに、シン・スウォン監督は、監督第1作『虹(Passerby #3)』が2010年の東京国際映画祭で「最優秀アジア映画賞」を受賞しています(今回の『Madonna』は長編3本目)。おこがましいけど、東京発の展開だと思うと、ちょっと他人事ではなく嬉しい気持ちになりますね。

「ある視点」部門は、全部で19本。上記に名前を出した以外には、デビュー作を携えたキャリアの浅い監督も多い模様。この部門でも若手と実力派の競演が繰り広げられるわけであり、今年の「ある視点」は例年に増して注目度の高いものになっています。これも、コンペの改革効果と言えるのでしょう。

ところで、カンヌの「公式部門」は、「コンペ」と「ある視点」と「その他の特別上映やクラシック」、ということになっています。これらが、ひとつの事務局で扱われています。カンヌのその他の重要な柱である「監督週間」と「批評家週間」は、それぞれ事務局が独立しているので、厳密には「公式部門」とは呼ばれないようです。もっとも、マスコミからも業界関係者からも、「監督週間」と「批評家週間」も完全にカンヌの1部門としての扱いを受けていますし、あまり「公式」の範囲にこだわっても意味はないです。

で、その「公式」の「その他の特別上映等」なのですが、いくつか種類があって、コンペ部門の一部なのだけど受賞の対象とならない(わかりにくいですね)「アウト・オブ・コンペティション(Out of Competition)」、や「特別上映(Special Screenings)」、「ミッドナイト・スクリーニング(Midnight Screenings)」などの部門に分かれています。それぞれがどう違うのか、あまり明確な定義はないのですが、まあ細かいことはいいじゃないか、という感じです。とにかく、いずれも賞を競わない特別上映部門、という位置付けと思っていればいいでしょう。

これらの部門において、ナタリー・ポートマン監督作品『A Tale of Love and Darkness』(「特別上映」)や、バーベット・シュローダー監督『AMNESIA』(「特別上映」)なども楽しみですが、何と言っても大注目はギャスパー・ノエ監督新作『LOVE』(「ミッドナイト・スクリーニング」)でしょう。僕はコンペに入ると予想していた!

内容は、全く知りません。ベルリンで見たポスタービジュアルは、男性器の、どアップ(このブログでアップしている写真は別バージョンですが、これもギリギリやばいですね。シネマカフェさん、載せてくれるかな)。もうギャスパーの確信犯的ハッタリなわけですが、ヤツがどのようなラブ(セックス?)を叩きつけてくるのか、もう怖くて怖くてたまらないですね。ラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアック』的なアプローチはないだろうし…。とにかく、こちらの度肝を抜いてほしい。今年のカンヌのハイライトのひとつになることは間違いない!

ふうー。落ち着こう。変わって、「監督週間」。何と言っても、カンヌの申し子のようなアルノー・デプレシャン監督の新作『MY GOLDEN DAYS』がコンペに入らず、「監督週間」で上映されることになったのは、今年の事件と言っていいでしょう。誰も予想していなかった。ことほどさように、今年のカンヌは異質なのです。

デプレシャンは別格として、今年の「監督週間」の最大の注目は、ずばり、『熱波』が日本でも紹介されたポルトガルのミゲル・ゴメス監督新作『Arabian Nights』でしょう。しかし、「アラビアン・ナイト」と言うだけあって、何と3部構成の6時間…。一日つぶれちゃうじゃん…。うー。「トウキョウでやってくれたらカンヌで見ないで済むから、ヤタベさんお願いね!」と数名の映画関係者から既に言われ、妙なハードルが上がっている…。うむー。いや、単純に、見たい。

「監督週間」にはちょっと懐かしい(失礼)ジャコ・ヴァン・ドルメル監督新作や、フィリップ・ガレル新作も、もちろん見逃せない。あとは監督としては未知の名前が並んでいるけれど、いずれも有力セールス会社が扱っている作品ばかりなので、スルーしていい作品は無さそうです。

ちょっと補足すると、映画祭に出品される作品には、「ワールド・セールス」と総称される映画会社がついていることが多いのです。要は、ワールド・セールスが、作品の権利売買を含めた国際展開に関する業務の代理人として機能し、その業務の範囲に映画祭出品も入ってくることになります。各会社の個性が分かってくれば、「あの会社が扱っているなら、ああいう傾向の作品かな」と、知らない監督の作品に対しても見当を付けていくことができるわけです。

さらに補足すると、有力な「ワールド・セールス」は、映画祭出品の手腕に長けているので、映画祭に出ているから「ワールド・セールス」がついているということでは必ずしもなく、「ワールド・セールス」が手がけた結果、映画祭に入ることができた、という順番が本当のところかもしれません。なので、日本の映画作家が海外の映画祭に出品したい場合、有力「ワールド・セールス」会社に自分の作品を扱ってもらうことが、実は一番近道です。

ああ、すごく脱線しました。ということで、「監督週間」はこんな感じかな。おっと、三池崇史監督『極道大戦争』はこの「監督週間」内の「特別上映」でしたね。そういえば、現在日本でも話題沸騰の『セッション』も、去年のサンダンスで受賞した後に、カンヌの「監督週間」で上映され評判となった作品でした。今年もそういうルートで驚きの作品があるか、この部門からも目を話すことは出来ないです。

もうひとつの大事な部門、「批評家週間」は、原則として新人監督作品を上映する部門なので、監督名を見ただけでは分からないです。が、この中から数年後にコンペに入ってくる監督が必ずいるので(これはもう100%の確率で必ずいると言っていいでしょう)、絶対的にチェックしておく必要があるのです。特にディレクターがシャルル・テッソン氏になってから、「批評家週間」のセレクションのクオリティーは「監督週間」を凌駕しているとの評判もあり、本当に無視できないです。ただ、会場がちょっと遠いんだよな…。メイン会場から歩いて20分は見ないといけないので、なかなかハシゴがしづらいのだ…。

ということで、分身の術を使わない限り、カンヌをひとりで制覇するのは無理です。かといって、最初から選別するなんてことが出来るわけがない。とにかく体調を整えて、15日間、寝ないつもりで突入すべし。今年も充実したカンヌになりますようにと祈りつつ、この続きは現地から!
《矢田部吉彦》

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