【MOVIEブログ】地上復活日記(1/2)「活動内容報告」

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東京国際映画祭
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カンヌ映画祭の総括を書いて以来だから、4か月くらいブログをサボってしまいました。かなり長い間、地中深く深く潜っていましたが、なんとかそろそろ地上に復帰できそうです。

10月に開催される東京国際映画祭(以下トーキョー)の上映作品を決めるのが僕の仕事で、カンヌが終わる5月下旬から、トーキョーの作品決定の締め切りとなる9月上旬までの約3か月半が、僕にとって1年で最も忙しくなる時期です。なので、この時期は何を書いても、愚痴か泣き言か忙し自慢になってしまい、おまけに具体的には書けないことばかりで、ブログもパタリと止まってしまうというわけでした。

ただ、以前から書いていることではあるのだけれど、あらためて映画祭の作品選定ディレクターってなんなのだ、と思う人もいるかもしれないので、この3ヶ月半僕が何をやっていたかを簡単に書いてみたいと思います。あくまで僕の場合は、ということで、他の映画祭の選定ディレクターがどう過ごしているのか、そんなには知りません。

【6月~8月】

カンヌが終わると、トーキョーへの応募作品がDVDやVOD(オンライン試写)でどっさりと届くようになります。なので、とにかくそれを見る。最終的に検討対象となる作品の数は1,400本くらいになるので、チームを組んで効率的に見ていく。1作品に最低でも2人の眼は通したい。なので、連日膨大に届くDVDを整理して、予備審査を行ってくれる選考員にスムーズに届けて、返却してもらい、コメントもらって、データ管理して、また送って…、という作業をスタッフが行うわけですが、これはかなり神経を使う大変な業務です。

僕はDVDやVODを見る一方で、試写を組んでくれる作品があればスクリーンで見せてもらい、そして必要があれば海外に出張して見に行きます。いまはかなりの作品がVODで見られるようになっているので、数年前に比べて出張の必要性は減っているかもしれません。それでも、直接交渉相手に会うのは重要だし、そもそも「来るなら見せてやる」という作品もあるので、出かけていきます。

今年は7月の末に10日ほどローマとパリに出張してきました。ローマにあるイタリアの映画機関に行って、イタリア映画の新作を片っ端から見せてもらう。パリも、基本的には一緒。完全缶詰状態です。ローマはもう8回くらい行っているはずなのだけれど、1度も観光したことがなくて全く街中を知らない。とほほです。

で、とにかく7月と8月は他のことは一切考えず、映画に没入する(今年は半日だけ落語に没入した日があったけど!)。平日であれば、朝は5時半に起きて、7時には職場について2本見る。10時過ぎに同僚たちが出勤してくるので、日中は会議や打ち合わせやミーティング(つまり会議が多い)。夜は出来れば2本見て、終電近くの電車で帰る。なるべく1時半までには寝たい。7月~10月は、人付き合いを一切断るので、友人や知り合いがめっきり減った。

土日は、5時に起きて、午前中に3本、午後に4本、夜に3本で、日に10本見られれば理想。作品の尺次第でもっと行けることもある。1時に寝る。土日で25本見られたら、最高。

【選定スタイルについて】

でも、これは毎回言うことだけれど、僕の仕事はたくさん見ることではなく、良い作品を選ぶことなので、「たくさん見てすごいですねー」と言われても反応に困る。見れば見るほど悩むし、良い映画って何なのだということをひたすら考え続ける夏、です。本当に、何年やっても慣れることが無い。

映画祭の選定ディレクターの仕事の進め方というのはいろいろあるはずで、僕の対極にあるのが、映画製作者と直接交流することによって作品を取ってくる、というタイプだと思います。監督の懐に飛び込んで直接深く交流し、連日朝まで酒を飲み、新作を誰よりも早く見せてもらい、映画会社の意向が固まる前に監督から映画祭出品の了承を取り付けてしまうタイプ。作品の出来が悪くても上映せざるをえないというリスクがある一方で、とんでもない傑作をワールドプレミアで招待できてしまうかもしれない。業界事情に通じていて、顔が広く、ダイナミック。こういう人が引っ張る映画祭というのは刺激的なプログラミングになるでしょう。

僕は、自覚しているけど、あまりこういうことが得意ではない。お酒は好きだけど2時間で帰りたくなっちゃうし、監督と顔つき合わせても何を話していいかわからない。根本的に人付き合いがあまりうまくないかもしれない。かたや、朝5時に起きて、夜中1時まで20時間連続で映画を見続けても苦にならない。それが3か月続いても、大丈夫。基本的には楽しい。いや、めちゃくちゃつらいけど、楽しい。なので、僕が出来るのは、1本でも多く見ること。どの作品も必死の思いで作られているはずなので、その必死さに負けない思いで真剣に、それが1日の1本目であろうが8本目だろうが、変わらぬ新鮮な態度で臨む。生活の全ての空き時間を応募作品の鑑賞にあてる、これが僕に出来る選定のスタイルです。

こんなこと何年も続けていられないと思いつつ、続けてしまっていますが、毎年今年が最後のつもりで臨んでいます。今年はどんな結果になったのか、それはいずれたっぷり書きます。

【9月上旬】

8月下旬から9月上旬にかけて、出品のオファーを出していく。追っかけていた作品が断られたとき、あるいは規約に抵触して招待できなくなったときの嘆きは、もう本当に仕事を辞めたくなるほどです。逆に、無理かと思っていた作品が決まったときの喜びの大きさは何ものにも替えがたい。今年も、悲しいケースと、歓喜のケースと、両方ありました。映画祭準備には実に色々なことが発生するので、なるべく一喜一憂しないように心がけているけれども、やはり追っていた作品が決まると、雄叫びが出ます。

作品をお願いすること以上に大事なのが、出品をお断わりする場合の連絡で、これは未来に繋がる話なので、本当に大事。日本映画も外国映画も、僕が直接見て好きだった(でも招待に及ばなかった)作品には懸命にメールを書く。必死に書く。

念のため書いておくと、「コンペティション」「ワールドフォーカス(の欧米作品)」「日本映画スプラッシュ」の3部門については、全て僕が決めています。大人の事情は介在していません。もちろん、スタッフと散々議論した上で、僕がそれほど気に入っていなくても、他のスタッフの意見になるほどと思えば、入れることもあります。ただ、それを含めて最終的には僕が決めました。

で、東京国際映画祭というのはある程度サイズが大きいので、観客のこともある程度意識しないといけない。映画祭は言うまでもなく僕の私物ではないわけだし、あまり自分が偏愛する作品ばかりを選んでもいられない。映画祭の作品選定でどの程度お客さんを意識するか、というのは、とてもとても話が長くなるので、今度本にでも書きます(書きたいものです)。

ただ、映画祭は言うまでもなく私物ではない、と書いたものの、ある程度の一貫した個性というものがないと映画祭はあまり面白くないとも思っています。映画会社が勧めてくるものを、各社のバランスを取りながら並べて行っても番組は出来るけれども、それは厳密な映画祭の定義とはまた別のものになってしまう気がします。

僕は作品選定を通じて自分の個性を出したいだなんて、微塵も思っていません。映画は監督など製作者のものであり、選定者は彼らと観客を繋ぐ触媒に過ぎません。ただ、映画祭という場でどういう作品が上映されるべきかということについては考え抜いているし、選ばれた作品のクオリティーについては責任を取れる立場にいたい、と思っています。映画祭の作品がつまらないと思われたら、それは選定ディレクターの責任であり、ディレクターを交替させるべきで、それは映画祭業界の常識でもあり、僕もその覚悟で毎年望んでいます。

さて、選定のヤマ場を超えたところで、邦題決めて、公式チラシ用の作品のキャッチコピーと解説文を書き、公式パンフの解説文を書いていきます。これが結構大変で、情報が全くない作品もあるので、それらしい解説文もひねり出すのに難航してしまうケースも多発です。400字書くのに5時間くらいかかってしまうこともあって、効率悪いことこの上無い! 作品選定をギリギリまで粘って行っているので、作品が決まると同時に解説文入稿の締め切りが来てしまい、一気に突っ走ることになります。

同僚たちは、一斉に海外作品ゲストの来日交渉に入っていて、来日可能日に合わせて上映スケジュールを組むべくギリギリの調整中。諸々の締め切りが迫っており、かなりプレッシャーがかかっている。ヨーロッパとの交渉担当の帰宅時間は連日午前4時。僕はそんな彼らにひたすらがんばれと念を送るしかないのだけれど、公式パンフの文章を書けば、僕の仕事は一応ヤマを越えます。

ということで、これを書いているのは9月19日。明日9月20日は、5月30日以来、113日振りとなる完全オフ日! もう、1年で一番うれしい日。さあ、何をしよう!(映画見ると思うけど)。

【ダイエットゲーム】

選定の仕事は一日中座っているので、これでボリボリ食べていると、あっという間に太ってしまう。僕は結構太りやすいので、モニターに向かって座っているときに、ベルトの上に乗る腹の肉が増えていくのが許せない。精神衛生上も良くない。ならばダイエットしよう、と思ったのが4年前。以来、毎年選定の時期に合わせてダイエットするのが恒例となったのでした。夏やせて、秋から春にかけて自由に食べ、また夏にダイエットという周期を、かれこれ4年ほど繰り返しています。

朝はコンビニのサイドイッチ、夜は豆腐1丁(300g)にキムチ。昼にトマト1個かじることもある。間食、お菓子の類は一切禁止。

選定と空腹のストレスがダブルに重なって大変なことになったらどうしようと最初は危惧していたら、ストレスが倍増するどころか相殺しあったので、我ながらびっくり。空腹を感じても、選定の辛さに比べたらどうでもいいと思えるし、選定がしんどいと思ったら、ラーメンのこととか考えるとあっという間に気がまぎれる。つらいものに、つらいものをぶつけるのは有益だった!

僕は普段から食べることが大好きだけど、こうやって自分と勝負するのも好きなので、楽しい。娯楽から隔離された毎日の中で、朝、体重計に乗るのが大きなエンタメとなるのも嬉しい。食費は1日500円以内だし、満腹による集中力の乱れが防げる(気がする)。なんだか修行中の宮本武蔵のような気合いが入る。そして、ちゃんとやせる。9月末の記者会見に細見のスーツが着られる。本当にいいことしかないのだ(栄養本など読んだことないので身体にいいのか悪いのか知らないけれど、精神衛生上にいいので、いいのだ)。

僕の理想体重は64~65kgくらいかと思うのだけど、ローマからの帰国後は70kg。今年は8月3日から始めて、48日目の9月19日現在59.8kg。あまり行き過ぎもよくないだろうから、そろそろやめてもいいかな。これからはランニングも再開しながら食事の量を増やし、また1年かけてもとに戻ったら翌夏にまた実行、とまあこんなサイクルです。

60kgを切った記念に、19日(土)は、自分をいじめるために度々見ていたラーメン特集サイトで高評価だった荏原中延「多賀野」へ出かけてみる。1時間並んで入店。49日振りに暖かいものを食べたので、もう五臓六腑に染みるうまさとはこのこと。

それにしても、48日間連続で豆腐しか食べない(ことが苦にならない)というのも、どこか異常な戦闘モードになっているのだろうな、と思います。普通だったら絶対出来ない。あ、そういえば、寝る前のビールだけは我慢しません。ビール我慢したら、もう生きている意味ないから。
《矢田部吉彦》

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