【MOVIEブログ】2016ベルリン映画祭 Day5&6

最新ニュース

イラン出身のラフィ・ピッツ監督新作『Soy Nero』
  • イラン出身のラフィ・ピッツ監督新作『Soy Nero』
15日、月曜日。本日はまたまた曇り、時々雨…。

本日も9時から、コンペ部門でスタート。ダニス・タノビッチ監督新作の『Death in Sarajevo』。さすがタノビッチで、映画の展開に淀みがなく、ぐいぐい見せる。ただ、第一次世界大戦勃発のきっかけとなったサラエボでのオーストリア皇太子の暗殺から、90年代のユーゴ内戦に至るバルカン半島の近代史が軸となっているので、不勉強なアジア人にとってはなかなか難しい。ヨーロッパとは何ぞや、という深いテーマに切り込む1本で、それでもきちんと娯楽性も確保しているとろが、さすがタノビッチ…。

11時45 分から、同じくコンペで、『Alone in Berlin』という独仏英共同製作の作品。ああ、これはダメだった…。ナチス支配下のドイツで、ヒトラーを非難するスローガンを書いたポストカードを町にばらまき、抵抗の姿勢を貫いたドイツ人夫婦の物語。なんと、全編英語。主演にエマ・トンプソンとブレンダン・グリーソン。

英国を体現するような代表的女優のエマ・トンプソンに英語をしゃべらせて、それをドイツ人がドイツ語を話していると思って見て下さいね、というのは、あまりにも無理があるのではないだろうか…。アメリカのマーケットが大事だということは分かるけれど、それにしても違和感を拭い去ることは難しい。おまけに、ご丁寧にダニエル・ブリュールを共演させて、ドイツ人俳優の彼にも英語をしゃべらせるに至っては、なんだか倒錯的な印象を受けてしまう…。

むむー、と思いつつ、14時から17時までミーティング。

17時20分に上映に戻り、コンペ部門でフランスのアンドレ・テシネ監督新作の『Being Seventeen』へ。17歳の少年ふたりの愛憎関係を描くドラマ。大人の恋愛映画に熟達したテシネ監督が、その手腕を10代の青年たちの心理描写に発揮して、さすがの安定感! 近年絶好調の母親役のサンドリーヌ・キベルランもとてもいい。舞台となるフランス山間部の田舎の景色が実に雄大で、小さくまとまりがちな心理ドラマにスケール感を与えている。どうやら評価は割れているようだけれど、僕は好き。

今夜は日本の映画会社の方々から夕食会に誘って頂いたので、20時にいそいそと出かけて、美味しい中華料理を頂く。とても楽しい時間を過ごしつつ、紹興酒を飲みすぎたらしく、帰りのタクシーで爆睡。ホテルに帰って即ダウン…!

明けて、16日火曜日。昨夜はブログを途中まで書きながら寝てしまったようで、不覚だ…。6時45分にがばっと起きて、朝のルーティーンをこなし、9時からの上映へ。本日は薄曇りで、気温は5度くらいかな。

スタートは、イラン出身のラフィ・ピッツ監督新作で『Soy Nero』(写真)。ラフィ・ピッツは2010年の『ハンター』で東京フィルメックスに来日していますね。ベルリン映画祭の常連と言っていいかな。今回は、アメリカの市民権を得るために米軍に入隊しようとするメキシコ人の青年の物語。

昔からあるとはいえ、現在一層重要性を増している移民と市民権というテーマを、新しい切り口で取り組んでいるだけで見応えがある。省略を効かせて、物語の断片をじっくり描くというスタイルがなかなか新鮮。いくつか息を飲むような、危険で甘美な緊張感が溢れるシーンがあり、大画面にも映える。ひょっとして監督賞候補かも?

12時からまたコンペ部門で、アメリカとイギリス合作の『Genius』という作品へ。作家のトーマス・ウルフと編集者のマックス・パーキンスの友情の行方を描く実話で、ウルフ役にジュード・ロウ、パーキンス役にコリン・ファース、ウルフの妻役がニコール・キッドマン、パーキンスの妻役がローラ・リニー、という豪華キャスト。僕が見たのはプレス試写だったので、もちろんゲストはいないのだけれど、本番上映では誰が来るのだろう?

いや、手堅い出来の娯楽作で、特に何の文句も無いのだけれど、戦前のアメリカの重要作家と、ニューヨークの凄腕編集者に、これまた英国を代表する俳優たちを起用するとは、一体どういう訳なのだろうと思わずにいられない。ジュード・ロウはアメリカの南部訛りをしゃべっている(ように聞こえる)のだけど、んー、どうなんだろう。どこかクラシカルな雰囲気を持たせるためには、アメリカ映画であっても英国俳優が必要とされているのだろうか…。

まあ、審査員長のメリル・ストリープがサッチャー首相を演じるのだから、いまさら米国人も英国人もないのかもしれない。エマ・トンプソンがドイツ人に扮するよりはマシか…。

些細なことにこだわってしまう自分を諌めつつ、14時から18時までミーティング。マーケット会場はもはや人も減ってきて、かなり静かになってきた模様。

18時半に、大好きなソーセージ屋さんに昼夜兼用ソーセージを食べに行くと、元映画祭の同僚のAさんがいて、嬉しいびっくり再会。美味しいソーセージを頬張りながら近況報告。

19時半から「フォーラム」部門で、『Baden Baden』というフランスとベルギーの合作映画へ。これは大好物だった! 生き方に迷っている26歳のヒロインの日々を描く作品で、複数の男性関係や祖母の看病など、生活の断片がスケッチ的に描写されるスタイル。一貫した物語があるわけではなくて、感情の動きでシーンを繋いでいくセンスがとてもいい。ユーモアにも溢れていて、絶妙のテンポとフレーミング。このまま終わらないでずっと見ていたいなあ、と思わせる作品がごくたまにあるけれど、本作はそんな思いに駆られる1本。ヒロイン役の女優さんがとても素敵!

本日最後は22時から、「アウト・オブ・コンペティション」部門で、スパイク・リー新作の『Chi-Raq』。ベルリンに出張に来て、スパイク・リーの新作など見ていていいのだろうか逡巡すること数日。とはいえ、僕はかつてスパイク・リーを崇拝していた時期があったので、結局我慢することは無理と判断し、いそいそとメイン会場へ。

今回は、黒人間の銃撃による死者数が、イラク戦争の米軍死者数を上回っているというシカゴを舞台にした状況告発コメディードラマで、ギリシャ詩人アリストファネスの喜劇『女の平和』を現代に翻案した作品。銃社会に反対するメッセージは極めて明解で、楽しい場面もてんこ盛りであるのだけれど、覚悟していたこととはいえ、セリフのほとんどがラップ調で語られて、全編の10%ほどしか英語が聞き取れなかった…。森は理解出来ても、木が理解できないという情けなさに打ちひしがれつつ、帰路へ…。

いや、まあ、スラングだらけの黒人ラップ語りを理解できないのはやむを得ないではないかを自分を慰めつつ、それでも情けないことには変わらない。ただ、昔の、本当にヒリヒリしていた頃のスパイク・リーとは、何かが決定的に変わってしまっているような思いも拭うことが出来ず、それが何なのかが分からなくて、もどかしい…。

いささか落ち込みながらホテルに帰って0時40分。ブログをいじって2時を回り、スパイク・リーのことを考えていたら目が冴えてきてしまった。でも、明日のことを考えてやめることにします。おやすみなさい!
《矢田部吉彦》

関連ニュース

特集

page top