【MOVIEブログ】2017 豪州APSA出張日記(中)

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ブリスベンAPSA審査員
  • ブリスベンAPSA審査員
<11月16日(木)>
6時起床、のはずが、ついに起きられず。7時過ぎまで寝坊してしまい、慌てて朝食を食べに食堂にむかう。3日目にしてランニングは早くもお休み…。

実は1年以上ぶりのランニングで、両脚が筋肉痛でパンパンに痛い。でも、そんな筋肉痛が嬉しい! 筋肉痛が嬉しいだなんて、ちょっと変態的だけど、使っていなかった筋肉を働かせているのだという実感は大きな喜びなのだ。

本日も8時半にロビー集合。9時過ぎと、11時過ぎから1本ずつ見て、ランチは試写室がある建物のテラスでテイクアウトのサラダランチ。本当にAPSAスタッフが用意する食事のタイミングと内容が完璧すぎて感心する。「午前に見せるこの2本の映画によって審査員はこういう気持ちでいるだろうから、この日はテラスで野菜を食べさせよう」という予想と配慮がズバリとはまっている。僕は今見た作品の感想よりも、スタッフの手配の見事さにこそ唸る…。

14時半から本日の3本目。僕は今日の3本はすべて一度見ていたのだけど、改めて再見してみて当初に抱いていた感想を確認できた。初見の審査員には拒絶反応を示す人もいたけれども、それはその映画の意図するところなので(監督は万人受けする映画を作っているつもりは微塵もない)、審査会議の場では擁護できるはずだと確信する。

そして、今日は早めの夕食にでかけ(だからランチが軽かった!)、タイ料理へ。4日目ともなるといよいよ皆と打ち解けて、ワインの勢いも手伝って映画祭の表と裏に関してAPSAスタッフと意見交換する。彼らの悩みが胸に染みるように理解できるので、うんうんそうだよね、と肯くことしきり。

そして今宵は「ユース部門」「アニメ部門」「ドキュメンタリー部門」の審査員たちが合流したので、その中のイギリス人の紳士と話してみると、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』や『ブラス!』のプロデューサーのスティーヴ・アボット氏だった!

『ワンダ』は誰もが認める傑作だ。そして『ブラス!』は1997年の東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞していて、僕はまだ映画祭で働いていなかったけれど当時の話で大いに盛り上がる。「あの年の東京国際映画祭は『タイタニック』がワールド・プレミア上映されて、私は世界最初の観客としてBBCからインタビューされたんだよ! もう、ともかくトーキョーにはいい思い出しかないね!」とのこと! アボット氏はモンティ・パイソンのマネジメントも務めていた人なので、そこも是非聞いてみたいところなのだけど、時間切れ。また明日以降にチャンスがあるはず。

23時過ぎにホテルに戻り、早々にダウン。

<11月17日(金)>
6時起床に成功。窓の向こうに素晴らしい青空が広がっている。今日はちょっとがんばるぞと気合を入れて、50分ほど河沿いの美しい極楽コースをラン。なかなか調子がいい。

8時半に集合、9時から1本見て、コーヒー休憩入れてから2本目鑑賞し、13時頃に終了。

ランチはベトナム料理屋さんへ。牛肉煮込みスープ麺が非常に美味。風が心地よく、とても幸せな気分だ。午前に見た1本目は素晴らしく、2本目はさほどでもなかったので、ランチを食べながらも自然に意見交換が活発になってくる。

審査員長のジル・ビルコックさんは冗談好きで明るくて聡明で気さくで、ともかくこんないい人いないというくらい素晴らしいお人柄でみんなをまとめてくれる。フィリピンのアドルフォ・アリックスJr監督は人懐っこい笑顔の持ち主で、決して饒舌ではないけれど(でもいざとなるとたくさん語る)、なんというか人を安心させる雰囲気を発する人。カザフスタンのアディルカン・イェルザノフ監督はそれほど英語が堪能ではないのだけど(僕も人のことは言えない)、積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢が素晴らしい。こうでないといけないな。映画知識がとても豊富で、「あれはミゾグチ的だね。どう思う?」といきなり聞いてくるので、こちらは全く油断できない。中国の女優のヘ・サイフェイさんは通訳さんを介しての会話になるけど、自ら出演する京劇や、あるいは出演したチェン・カイコー監督作品についていろいろと話してくれてとても楽しい。本当に良いメンバーが揃ってよかった!(写真は前列中央がジルさん、前列左がサイフェイさん、後列右がアディルカン監督、後列左がアドルフォ監督)。

ランチが終わって本日3本目。17時にはホテルへ戻る。

3時間ほど時間が空いたので、パソコンに向かってメールの返事などをせっせと書くことにする。するとある人からメールが来ていて「職場にお電話したら長期休暇中とのことでしたので、メールにしました」とのこと。えーと、一応休暇じゃなくて出張なんだけど…。かなり真面目に仕事してるんだけどなあ、オーストラリアだけどさ…。と職場に向かってぼやく。

20時半にホテルを出て、本日はAPSAのメンバーとの夕食ではなく、旧APSAのスタッフで、これから香港映画祭のプログラマーとして香港赴任を目前にしているキキさんという女性夫妻とのディナーに出かける。僕がAPSAに行くことを知った職場の同僚がキキさんを紹介してくれたのだけど、このタイミングで会えてとてもよかった!

APSAに続いて行われるAFA(Asian Film Award)にキキさんと僕はともに関わることになるので、これらふたつの映画賞について語ったり、アジア映画全般について情報交換をしたりする。キキさんは何度も来日しており、共通の知り合いがヤマほどいるし、お互いとても近接した仕事をしてきたはずなのに、今まで交流が無かったのが不思議だ。

キキさんご夫婦は、とある映画祭でともに審査員を務めたのが縁で結婚したとのことで、へえーそんなことがあるんですね! とおふたりの馴れ初めを伺って盛り上がったり、映画批評家である夫のニックさんと最近の北野映画について語ったり、今年3本も発表されたホン・サンス監督作品でどれが好きかについて議論したり、話は尽きない…。

貴重な出会いと美味しいワインで楽しくなってしまい、河沿いをウキウキと歩いてホテルに戻り、即ダウン。6時起きが続くからか、東京国際映画祭の疲れを引きずっているからか、23時を過ぎるともうダメだ…。

<11月18日(土)>
今日はランを休もうと最初から思っていたので、7時起床。すると、外は雨。オーストラリアはハワイではないので(ハワイ行ったことないけど)、いつも晴天の常夏というわけではないことを身を持って知る。普通に曇るし、雨も降る。到着した日から超快適な天気が続いたので、つい「ハワイってこんな感じ?」と誤解しかけていた…。

午前に2本見て、ランチ。デリバリーをテラスで食べるはずが、雨が土砂降りになっていて、寒い。これはダメだと試写室のロビーに机を並べて屋内ランチ。タイのベジタリアンで、グリーンカレーがとても美味。本当に、何を食べても美味しい。

ランチが終わって本日3本目。コーヒー休憩入れてから、4本目。今日は唯一4本見る日で、僕は日頃から一日にたくさん見るのに慣れているから大丈夫と甘く見ていたのだけど、審査員として作品に向き合うとなると別の神経を使うのか、かなりくたびれてしまった。朝のランニングを止めておいてよかった…。

それにしても、映画への接し方を改めて鍛えてくれるこの機会が本当にありがたい。

17時半にホテルへ。4本でバテ気味の自分が情けないので、逆にパソコンでもう1本見ることにする。審査員仲間のアディルカン監督が、最近作ったカザフスタン映画史に関するドキュメンタリー作品のオンラインリンクを送ってくれたので、早速その作品を部屋のパソコンで鑑賞する。

作品を製作したのは釜山映画祭で、10か国の監督に自国の映画史ドキュメンタリーを作ってもらい、テレビで放映するシリーズだとのこと。さすが釜山、素晴らしい企画だ。作品は、アディルカン監督の作家性が発揮された独創的なドキュメンタリーであり、ソ連の影響下の時代からいかにカザフスタンの映画人が独自のスタイルを模索していったかをふり返りつつ、先般東京国際映画祭に『スヴェタ』で来日してくれたジャンナ・イサバエヴァ監督も注目監督として紹介されるなど、55分の短い尺の中に過去と未来が詰まった貴重な内容に仕上がっている。

イサバエヴァ監督や、『ハーモニー・レッスン』(2013年東京フィルメックス審査員特別賞受賞)のエミール・バイガジン監督、はたまた『トルパン』のセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督など、カザフからは優れた才能が続出しているので、目が離せない。もちろん、『The Owners』(2014)がカンヌで特別上映されたアディルカン・イェルザノフ監督もそのひとりだ。

19時にロビーに集合し、APSAスタッフ誘導のもと、毎晩恒例の審査員ディナーへ。今日連れて行ってもらうのは日本料理なので、なんだか僕が主役のように言われてしまってこそばゆい。

とてもゴージャスな内装(いい意味で)のお店で、20人ほどのメンバーで席につき、僕はいそいそと日本酒を注文してみる。一昨日だったか、審査員長のジル・ビルコックさんが「日本酒は熱燗は飲むけど、冷やでは飲まないのよね。なんだか甘くて」と言うので、「いや、ドライで辛口な日本酒があるし、冷やが最高っすよ!」(口調は雰囲気)と答えてしまい、日本酒にまるで詳しくないのに調子に乗ってしまった。メニューが来たものの、全然分からない…。そして、当然ながら、バカ高いことに気が引ける…。

値段に遠慮してしまったからか、注文した日本酒はジルさんの感激を買うまでには至らず、極めて残念。ジルさんは近いうちに日本に行くかもしれないとのことで(甥の奥さんが日本人だそう)、「その際には必ず連絡して下さい、最高の日本酒用意しておきますので」と固く約束する。

日を追うごとに、審査員間の距離が縮まり、より親密な会話が繰り広げられるのが実感できて興奮する。アディルカンとは、さっき見たドキュメンタリーの話で盛り上がり、カザフスタンの映画事情についてさらに突っ込んで教えてもらう。やがて、現代映画において、作家のスタイルよりリアリズムが優位に立っているのかどうかという議論になり、アドルフォとアディルカンが映画観を交換しあう。僕はふたりの間に座っており、フィリピンとカザフスタンの監督の意見交換を聞く至福に浸る。

やがて、ジルの経験談に入っていく。『ムーラン・ルージュ』にはカメラが20台あり、そこから適切なカットを選択する作業がいかに地獄だったかを聞かされて、一同のけぞる。そして、あの革命的な『ロメオとジュリエット』の冒頭について。『ロメオとジュリエット』のリズムを作ったのはジル・ビルコックだ。バズ・ラーマンやサム・メンデスとの仕事について、ジルはケラケラと笑いながらエピソードを披露してくれる。ああ、こんな幸せがあるだろうか?

食事が次から次へと出てきて(サーモンの刺身、カリフォルニア・ロール、揚げ出し豆腐、タラの焼き物、鶏のから揚げ、てんぷらの盛り合わせ、牛肉のたたき、白いご飯、みそ汁、そのほかにも数点)、みな超満腹。23時過ぎまで店にいて、今宵もまたまた盛り上がった!

<11月19日(日)>
6時に一瞬起きるものの、外の雨を確認し、即2度寝。ランニングなし。本日も8時半に集合し、ミニバンに乗って映画学校の試写室へ。

9時から1本目。コーヒー休憩をはさみ、2本目鑑賞。

ランチは、北欧スタイルのおしゃれなインテリアの素敵な店へ。ミニバンで店に向かう途中、豪雨になる。お店ではラム肉の煮込みを頂き、とても美味しい。しつこいようだけど、本当に何から何まで美味しいのだ。満足して外に出ると、晴れている。ここ数日はこういう天気の繰り返しのようだ。

午後に3本目を見て、本日はあっという間に終了。

ランチタイムやコーヒー休憩で話題になったのが、ここ数日に見た東アジア映画における日本の描かれ方について。今回の審査対象作品の中では、『Our Time Will Come』が香港の対日抗戦に参加した実在の女性の姿を描き、韓国の『I Can Speak』は従軍慰安婦を題材としてストレートに日本の残虐行為を告発する内容だ。僕が居心地の悪い思いをしなかったかと言えばウソになるけれども、国際社会で働くということはこういう経験をするということだ。

反日感情が露わに描かれる作品を国際的なメンバーとともに鑑賞する。僕に気を遣ってか、上映後の試写室にはいささか気まずい雰囲気が漂う。しかしただちに審査員たちはドイツ人とナチ映画の関係について語り、題材と映画のクオリティーをそれぞれ議論し、映画が採用し得るメッセージ伝達の手法について話し合った。もちろん、僕も自分の考えるところを話してみる。日本人が見て居心地の悪い思いをする映画を、日本人は見ておいたほうがいいと思う。こういう作品が日本の外で見られていることを知るべきだと思うし、海外の人とその映画について議論できるようになっているべきだと思う。

今回の出張を通じて、極めて貴重な体験となった。日本での上映は難しいだろうけれど、そんな客観的な態度でいていいわけもない。不遜ながら自分ができることはなんであるかを考える。

ホテルに戻り、18時半から審査員を集めて公式フォトセッション。

19時半から、APSAのみなさんと夕食へ。本日はオーストラリア料理! 肉がたくさん! ローストビーフ的な肉を頑張って4切れと、柔らかく蒸し焼きにした超美味ラム肉を頂き、あっという間に限界到来。地元のワインとビールもとても美味しくて、ついつい量が増えてしまう…。

ホテルに戻り、パソコンに向かってみるものの椅子で寝てしまい、そのまま1時にダウン。
《矢田部吉彦》

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