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【インタビュー】佐藤健 アドレナリンを燃料に疾走を続ける“努力の天才”

「これまでに壁にぶち当たったという記憶がないんです」。

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佐藤健(秋役)『カノジョは嘘を愛しすぎてる』/PHOTO:Naoki Kurozu
佐藤健(秋役)『カノジョは嘘を愛しすぎてる』/PHOTO:Naoki Kurozu
  • 佐藤健(秋役)『カノジョは嘘を愛しすぎてる』/PHOTO:Naoki Kurozu
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  • 『カノジョは嘘を愛しすぎてる』-(C) 2013青木琴美・小学館/「カノジョは嘘を愛しすぎてる」製作委員会
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  • 『カノジョは嘘を愛しすぎてる』-(C) 2013青木琴美・小学館/「カノジョは嘘を愛しすぎてる」製作委員会
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  • 『カノジョは嘘を愛しすぎてる』-(C) 2013青木琴美・小学館/「カノジョは嘘を愛しすぎてる」製作委員会
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「これまでに壁にぶち当たったという記憶がないんです」。

少しだけ思案した後、佐藤健は淡々とそう語った。口調には驕りも自分を大きく見せようとする虚栄心も感じられない。もちろん、ここまでのキャリア6年半で全てを完璧にこなしてきたとも思ってもいない。あるのは自負。目の前にそびえ立つ山を見定め、必要な努力を徹底的にすることで、山の頂上へと辿り着き、そして麓まで下りるという作業を繰り返してきたという自負である。

まもなく公開となる映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』で佐藤さんが演じたのは、若き天才サウンドクリエイター。その才気、そして人知れぬ苦悩を佐藤さんはどのように表現したのか?

原作は若い世代から絶大な支持を受ける青木琴美の人気漫画。音楽界を舞台に、孤高のサウンド・クリエイタ―として人気バンド「CRUDE PLAY」(通称・クリプレ)をプロデュースする秋と普通の女子高生だったが、その才能を見出され成功への階段を上り始める歌姫・理子の恋を軸に、彼らの苦悩や嫉妬、夢と現実が描き出される。

若くして「天才」という称号を冠せられた秋。『BECK/ベック』『るろうに剣心』と種類は異なれど、過去にも佐藤さんは特別な才能を持った人物を演じてきた。今回、オファーが届いてから原作を読んで「秋に惹かれて、演じてみたいと思った」と言うが、特に強く感じたのが彼が持つ“カリスマ性”だった。

「秋という人物が、彼一人の言動ではなくて、周りの人々によって作られているんですよね。瞬(秋の親友で「クリプレ」のボーカル/三浦翔平)や心也(窪田正孝)、茉莉(秋の元恋人の歌姫/相武紗季)が『秋ってこういうヤツ』と語る姿がすごく印象的でした。それがカリスマというやつで、時に好き勝手でワガママだったりするけど、周りがほっとかない。そういうシーンが秋という人物を演じる上ですごく大事になってくるなと思いました」。

秋の内面的な部分でも共感できるところが多かった。それぞれに立場を抱えた多彩な登場人物たちが本作の魅力と言えるが、佐藤さんは「この中で自分自身が誰に一番近いか? と言われれば、間違いなく秋だと思う」と語る。

「原作に分かりやすいエピソードがありますけど、高校時代から瞬は一番目立つ人気者で、女の子がみんな後をついて歩いてキャーキャー言うようなタイプ。秋は席に座ってそれを『またやってるよ』と眺めているけど、まさに僕はあんな感じでした。

翔平は多分、学校でも目立ってたタイプでしょ(笑)? だから瞬と秋の関係はまさにそのままだと思います。普段の僕と翔平の関係もあんな感じです(笑)。僕が『キャー!』って騒がれること? なかったです、ホントに(笑)。まず、みんな僕のことをほとんど知らなかったと思いますよ、ずっと席で窓を眺めてるだけでしたもん」。

もちろん、佐藤健は“共感”だけでサラリと役柄をなぞるような俳優でもないし、秋という役柄もそれだけで演じられるような浅いキャラクターでもない。未知なる音楽の世界で、しかも“天才”を演じなくてはならない。

「ベースにギター、キーボードの練習を重ねました。作曲のシーンは一番の課題だから。(作曲を)したこともなければ、どうやって曲ができるのかも知らないけど、ヒット曲をいくつも生んだ天才という部分に説得力を持たせられないと映画が成立しない」と劇中の全ての音楽を手がけている音楽プロデューサー・亀田誠治の元を訪れた。

「亀田さんに直接『どうやって曲作ってるんですか?』と聞いたら、『分かんないよ』という答えが返って来まして(苦笑)。そこで、実際に亀田さんが作曲をしている様子をずっと固定カメラで録画させていただいたんです。それをDVDにしてずっと見せていただいたり、ほかにもアーティストの知り合いの方にお願いして作曲風景を覗かせていただいたり。まずは形の部分を知ることが大事でしたね」。

一方で、吸収するばかりではなく、佐藤さん自身が強く主張し、実際に映画に反映された部分も多い。元々、脚本段階から小泉徳宏監督、亀田さんとはディスカッションを重ねてきたが、映画の最後の最後の楽曲――理子と秋が歌う「ちっぽけな愛のうた」に関して、佐藤さん自ら、亀田さんに連絡し、会う約束を取り付けて思いを伝えたという。

「歌詞についてです。具体的に『秋はおそらく、こういうことを言いたいんじゃないか?』と伝えましたし、こういうフレーズがあるといいんじゃないか? と思ったことをメモにして監督と亀田さんに渡して、実際に取り入れていただきました。具体的にどの部分かは…秘密です(笑)。

この曲の歌詞が、僕はこの映画の全てを表していると思っていて、ここに唯一、秋の心の内、本音が隠されているのかもしれないなと。実際にそうなのかは観てくださる方に委ねたいんですが、エンドロールが実は一番大事かもしれないという作品になってます」。

先に挙げた映画『BECK/ベック』『るろうに剣心』、ドラマ「ブラッディ・マンデイ」、「ROOKIES」と本作に限らず、漫画原作の作品に数多く挑んできた。自身も漫画を読むのは大好き。「だからこそ、どの漫画にも『映画化してほしくない』と考える熱烈なファンがいることも理解できるし、その気持ちはよく分かる」。

一方で、映画界に身を置いていて「映画界自体が、漫画の映画化ということからもはや逃げられない」とも。それならば「僕は、原作へのリスペクトを持って原作の魂を汲んだ上で、どんどんチャレンジしていきたい」と覚悟の上で挑戦する。

「例えば『カノ嘘』は青木先生が、衣裳にせよ舞台にせよ、実際にあるものをモデルにしてすごく大事に描いてくださっているんですよね。だからこそ、映画にするにあたっては出来るだけ本物を見つけたかった。今回のような現代劇であればそれは可能なので」。

「可能」とあっさり言うものの、実際に“可能性”を“実現”にまで持っていってしまうのが凄いところ。秋に合った最高の衣裳を見つけるべく、スタイリストのみならず佐藤さんも東京中のショップを巡ったという。

本作で秋を始め、登場人物たちの内面を深く見せているのが、自分の才能、そして自分にはない才能を持つ者とどう向き合うか? という視点。秋と心也(窪田正孝)が互いの内に自分にはない才能を見つけ、嫉妬、羨望するさまは興味深い。本作で、初めて共演した三浦さんなど、プライベートでも親しい同世代の俳優、最近ではさらには年下の世代と共演する機会も多いが、佐藤さん自身、他人の才能に嫉妬を覚えることは?

「嫉妬はないですね。何故かと言われても分からないけど、デキる人を見ると単純に『いいなぁ、ズルいなぁ』って思っちゃいます。年下のコたちが出てくることに関しても、僕はむしろ興味津々です。どんどん良いコを見つけたいって気持ちが強いし、そういう才能を見つけると『うわぁ』って嬉しくなりますね」。

この言葉を聞いた時点では正直「おいおい、本当にそう思ってるのか?」という疑念の方が強かった。だが、話を聞いていくうちに納得した。決して競争心がないわけではない。自分自身、もっと言えば自分の頭の中に描いている理想の姿こそが唯一にして最高のライバルであり、誰より自分に対して負けず嫌いなのだ。

「結局、自分ができないのを一番分かっているのは自分ですからね」と頷く。ここ数年、異なるタイプの役をこなしてきての現在の“立ち位置”について尋ねた際の答えにもそれは表れている。

「立ち位置というのを考えると、それは他人と比べてのものになりやすいのであんまり考えたくないし、正直よく分からないんですよ。あえて自分のスタンスを言葉にするなら、出演する作品数は多くはないけど『佐藤健が出てるなら面白そう』と言われたい。だからこそ選びたいし、一球入魂したい。いまは現場がとにかく楽しいです。それは集中し、没頭しているからだと思う。そのときは楽しいと思う余裕はないです(苦笑)。でも、ふり返るとアドレナリンが出まくっていて、楽しかったなと思えるんです」。

自ら高い理想を思い描き、そこにたどり着くべく努力する。「そうやってここまでは順調にきたし、自分のやり方が嫌いじゃない」と語る。一方で、この先についても冷静さと柔軟性をもって見据えている。

「そのうち、壁にぶち当たる日が来るんじゃないかなと思ってます。ものすごい才能を持った他人を前に、コンプレックスや嫉妬を感じる日が来るかもしれません」。

そんな日が来るのをどこか楽しみにしているかのように、静かに微笑む。その時が訪れたら、佐藤健はどんな顔を見せるのか? どのように挫折に立ち向かうのだろうか――?
《photo / text:Naoki Kurozu》

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