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【MOVIEブログ】2014カンヌ映画祭 Day8

21日、水曜日。晴れときどき曇り。カンヌに来て1週間、連日の4時間睡眠がそろそろ厳しくなってきたけれど、本日も気合いで6時に起きて、バタバタと朝の上映へ。8時半の上映に並んで、結局9時からの追加上映に入る、という連日のパターン。

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21日、水曜日。晴れときどき曇り。カンヌに来て1週間、連日の4時間睡眠がそろそろ厳しくなってきたけれど、本日も気合いで6時に起きて、バタバタと朝の上映へ。8時半の上映に並んで、結局9時からの追加上映に入る、という連日のパターン。

見たのは、『アーティスト』で世界を制したミシェル・アザナヴィシウス監督の新作『The Search』。今までの軽やかなテイストから一転し、本作は90年代のチェチェン紛争を背景にした、過酷でシリアスな人間ドラマ。非情な描写があるものの、きっちりと感動的で、広い層にアピールする作品に仕上げてくるアザナヴィシウス監督の技量はさすがだ。

上映終わり、11時半から、フランスの大手映画会社と2件連続でミーティング。両社とも夏秋に向けて充実したラインアップが揃っており、さて、この中から東京国際映画祭に持ってこられる作品がどのくらいあるだろうか。楽しみ。

20分時間が空いたので、ビュッフェ形式お手軽中華レストランに行き、ダッシュでランチ。続けて香港の会社と、新しいフランスの会社と2件ミーティングして、さらにフランスの映画機関の方とのミーティングをして、終わって15時。

急いでメイン会場のパレに行き、ぐちゃぐちゃカオス状態の列に並んでみる。16時から、ジャン=リュック・ゴダール監督新作『Goodbye to Language (仏題はAdieu au langage) 』の、唯一の公式上映があるのだ!

2001年の『愛の世紀』以来だから、『Goodbye to Language 』はゴダールの13年ぶりのカンヌコンペ作品となるわけですね。ラインアップ発表の会見時に、ディレクターのティエリー・フレモー氏は「ゴダールは来ると言っていますよ」とニヤリと笑いながら発言していたけれども、誰もまともに信じていなかったのではないかな。僕も、どうせ来ないよ、と思っていたら、やっぱり来なかった。ハハ。

それでも、やはり見られるものなら見たいので、昨日確保していたチケットを握りしめて並んでいると、どうにも列が進まない。時間ばかりが過ぎて行き、これはいよいよヤバイな、と思ったら入場が打ち切られた。つまり、チケットを持っているのに入れなかった!チケットがあるのに入場できなかったのは、ちょっと過去に記憶が無い…。

カンヌというのは極めてシビアなヒエラルキー世界なので、その入場システムは複雑怪奇。10年以上通っても、完全には理解できない。入れない可能性があるなら、チケット出さなきゃいいのに(並んでいる時間が丸々無駄になる)、とか、いろいろ思ってしまうのだけれど、まあこれがカンヌだとあきらめるしかない。いちいちヘコんでいては、カンヌでサバイブできないのだ。

しょうがないなあ、とボヤきながら、17時からの「批評家週間」部門の上映に向かうことにする。メイン会場から最も離れた会場に着き、強い陽射しを楽しみながらボケっと列に並んでいると、僕のすぐ目の前を、見知った老人が、付き人らしき人に脇を支えられながら歩いて行った…。ジャン=ピエール・レオだ!!

ゴダールが見られず、ジャン=ピエール・レオに会えるとは、どう考えても出来過ぎだ。いやはやまったく、カンヌというところは…。

17時から見たのは、ひそかに噂になっていた『The Tribe』というウクライナの作品。これが、とんでもない代物だった!

ろうあの寄宿校が舞台で、130分の上映全編に渡り、会話は手話のみ。声の会話は一切なく、登場人物間のコミュニケーションは全て手話で行われる。というところまでの事前知識はあったのだけれど、何となくニコラ・フィリベールの『音の無い世界で』的な優しい世界を勝手に想像していたら、もうまるで180度別の世界が展開された!

寄宿校に転校してきた男子生徒は、いきなり犯罪と暴力と売春が横行する世界に引きずりこまれる。これ以上は書くまい。ワンシーン・ワンショットの手法が冴えまくり、寄宿校内の無法な世界が描かれていく。強烈な暴力。圧倒的な描写力。

手話に字幕は付かないので、登場人物たちが何を話しているかは、正確には分からない。観客は想像力を働かせながら状況を判断し、次の展開に身を任せる。肝心なのは、映画に音はあるけれど、彼らの世界に音は無い、という設定。監督はこの設定を徹底的に突き詰め、彼らと観客との間の距離を絶妙に計算し、交わることの無いふたつの世界の隙間を突いて強烈なパンチを繰り出してくる。圧巻だ。

またもや、見たことの無いものを見る歓びに震える。上映後、暴力描写の過激さに反発する観客の声も耳に届いたけれど、彼らは一体映画に何を期待しているのだろう?映画表現の新しい可能性を追求する探究心を讃えずして、一体何を讃えようというのだろう!

『The Tribe』は、カンヌ終盤に降った爆弾だ。今年の最大の発見の1本。

上映終わって19時15分。映画の衝撃によろよろとしながら宿に戻り、サラダを食べて、少しパソコンを叩いて体制を立て直してから、21時半に外へ。

22時半からの上映で、「ある視点」部門の『Snow in Paradise』というイギリス映画。裏社会で幅をきかせる叔父の下で働く青年の苦悩を描くドラマで、中身に新鮮味がさほどあるわけではないけれど、主演の俳優になかなか魅力があって見せる。次代のスター候補として、Frederick Schmidt という名前は覚えておいた方がいいかもしれない。

上映終わって0時半。『The Tribe』の興奮が持続しているからなのか、ジャン=ピエール・レオに遭遇したからなのか、今晩は何だかハイなままで、全然疲れていない…。ブログ書いて1時半(『The Tribe』については全然書き足りない)。そろそろ寝るつもりだけど、いまだ目が冴えているなんて、なんて珍しい!
《矢田部吉彦》

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