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【MOVIEブログ】ベルリン2015 Day3

7日、土曜日。今朝も典型的なベルリンの曇天の中に繰り出し、9時の上映から活動開始。

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「フォーラム」部門の『Koza』
「フォーラム」部門の『Koza』
  • 「フォーラム」部門の『Koza』
7日、土曜日。今朝も典型的なベルリンの曇天の中に繰り出し、9時の上映から活動開始。

コンペで『IXANUL(英題:Volcano)』という、南米はグァテマラの作品。活火山のふもとに暮らすカキテルという現地語を話すインディオの集落が舞台で、少女マリアの受難の物語。電気も水道もない僻地に暮らす人々の独特の風習や民族性が描写されてとても興味深い。物語そのものに大きな特徴があるわけではないけれど、映像は南米アート映画特有のざらついた感触で見応えがあるし、何よりも知らない土地を映画で発見できる喜びが体験できて満足。

続けて11時45分からもコンペで、ブノワ・ジャコ監督新作『Diary of a Chambermaid(仏題:Journal d’une femme de chambre』)へ。ブニュエルで有名な『小間使いの日記』の原作の再映画化(ルノアールもアメリカ時代に作っているけど僕は恥ずかしながら未見)で、ブニュエル版でジャンヌ・モローが演じていたヒロインのセレスティーヌを、今作では今や飛ぶ鳥を落とす勢いのレア・セドゥー嬢がクールに演じてみせる。

レア・セドゥーのどこか不機嫌そうで謎めいた例の表情が、ブルジョワの暮らしを客観的に見つめる女中の心情を表すのに効果的で、共演のヴァンサン・ランドンもいつもながらに完璧な存在感を発揮し、19世紀末の衣装も目に楽しく、演出の安定感もさすがブノワ・ジャコといったところ。ただ、破たん無く普通にまとまりすぎていて、この作品を今リメイクすることの必然性がいまひとつ伝わらないのが残念。

上映終わり、仕事モードに切り替えて(上映を見るのも仕事ではあるけれど)、フランスの大手映画会社2社と連続でミーティング。フランスの会社ではあるけれど、世界中の作品を扱っているセールス・エージェント会社(要は作品の製作国以外での上映権をハンドリングしている会社)なので、話す内容はフランス映画には限らない。今年の夏以降に完成予定の作品についてじっくりと話が出来て、とても有意義。どれもこれも、秋のトーキョーで上映したい作品ばかりだ。上手く成就しますように…。

マーケット会場で数人と立ち話で近況報告などをしてから、また上映へ。17時から「フォーラム」部門の『Koza』というスロヴァキアの作品へ(写真)。これがなかなか素晴らしかった!オリンピックに出場した経験があるものの、今ではすっかり落ちぶれているボクサーが、妻の妊娠を機にドサ周りのプロボクシングの試合に出場してファイトマネーを稼ごうとする物語。

これだけ聞くと、ハリウッドあたりでも作りがちな、感動の「再生の物語」に思えてしまうかもしれないけれど、本作は全く違って、最底辺の生活をリアリズムで描く純正のアート作品だ。荒涼たる土地の中を、ドサ周り巡業に赴くためのピックアップトラックが走る映像は、真に寒々しく、とても美しい。映像の切り取り方、見せるものと見せないものの選択の仕方、つまりは省略の演出とも呼ぶべき展開、淡々としていながら粘るときは粘る編集のリズム、全てが身に染みる。

こういう出会いがあるから、ベルリンの「フォーラム」部門はたまらない。ルーマニアに代表されるような優れた東欧映画のリアリズムに、ギリギリのところで悲惨さから救われるようなカウリスマキ的北欧テイストがブレンドされた、これは今年の発見かもしれない…。

終わって18時。朝から何も食べていなかったことに気付き、いつものソーセージとポテトとザワークラウトの超簡易にして超美味な食事を飲みこみ、夜の上映へ。

19時半から、「フォーラム」部門の『Mar』というチリとアルゼンチンの合作へ。3年前の東京国際映画祭「ワールド・シネマ」部門で上映した『木曜から日曜まで』のドミンガ・ソトマイヨール監督の新作。前作に引き続き、家族旅行を通じて家族の緩やかな崩壊を描いていく内容。ただ、テーマに共通性はあるものの、前作が計算し尽くされたショットの積み重ねで構成されていたのに対し、今作のスタイルはがらりと即興性の強いものに変えてきており、若手監督の創作の過程を追うことの出来る立場にある者としては、これほど興味深いことはない。

上映後にドミンガと数年振りの再会を祝してハグし、次の上映へ。

22時から、コンペ部門のドイツ映画で『Victoria』という作品。これがまたとんでもないシロモノだった! んー、これは書いていいのかな、どうかな…。まあ触れないわけにもいかないのだけど、僕は全く知らずに見て驚愕したので、出来れば知らないままで見て欲しい。というのも、本作、140分、ワンショット。冒頭、ベルリンのクラブで激しく踊るヒロインのヴィクトリアが、その後の140分間で体験する壮絶な物語を、140分間一度もカットを切ることなく、見事に描き切る。

ヒッチコックの『ロープ』(実際にはからくりがあったけれど)からスタートする「ノーカット・ワンショット映画」の系譜(『エルミタージュ幻想』、『ワルツ』、『ライブテープ』などが連なる)に、新たな歴史が加わった。よくもまあ、と開いた口がふさがらない。賞に絡むのは確実でしょう。

上映スタートが遅れ、上映後の熱狂的で鳴りやまない拍手の後に舞台挨拶もたっぷりあったので、全部の終了が午前1時。こんなことをトーキョーでやったら大クレームになっちゃうよなあ、と羨ましい気持ちに包まれながら、ヘトヘトにくたびれて(でも幸せ)、ホテルへ。

クールダウンのビールを飲みつつ(ごめんなさい)、どうやら支離滅裂のブログを書き終えて、2時半だ。強烈な1日。ダウン。
《矢田部吉彦》

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