【MOVIEブログ】2015 スプラッシュ作品紹介(下)

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開幕まで10日を切った(ホントに?)東京国際映画祭の作品紹介、「日本映画スプラッシュ」部門の第3弾です。8作品のうち、最後の3作品です。

『友だちのパパが好き』(山内ケンジ監督)
監督デビュー作の『ミツコ感覚』('11)がカルト的な人気を博した山内ケンジ監督の長編2本目が、『友だちのパパが好き』です。『ミツコ感覚』を初めて見たとき、あまりの面白さに興奮したのですが、監督がCM業界ではスターディレクターであるということを後から知って、なるほどさすがと思ったものです。CM演出の技術が長編映画演出にどのように活きるか(あるいは活きないか)について、興味は尽きないところですが、それはともかくとして、ビッグネームがずらりと並ぶCM出身名監督リストの仲間入りを、山内ケンジ監督も確実に果たしていることを証明するのが『友だちのパパが好き』なのです。

マヤと妙子は高校を卒業したばかり。妙子は大学に受かり、マヤは浪人するが、仲の良い友人同士である。しかし、マヤは妙子のパパを好きになってしまう。妙子は最初相手にしないものの、パパに愛人がいて、妙子の家庭が揺れ始めると、マヤは猛然とアタックを開始する!

この一見ありえなさそうな設定を、長廻しを巧みに駆使してリアリズムで描き、ありえない設定をありえる世界に転じさせていくのが、まずは山内監督の個性かもしれません。妙にリアルなだけに、妙に笑えるという離れ業。セリフの妙で笑わせると同時に、映像の間(ま)でも笑いを誘う絶妙なセンスは、CMで培われたものかどうかは監督に聞いてみたいところですが、とにかく脱帽の上手さです。

いや、各シーンに映画的な「重み」が感じられるので、あまりCM演出とは関係ないという答えが監督からは返ってきそうな気がします。その重みが何かを言葉にするのは難しいのですが、例えば冒頭の、画面手前と奥に人物を配置して会話を進める「縦の構図」からして、映画の快楽に溢れています。

そして、マヤのエキセントリックな本気っぷりがすごい。そのマヤの突出した個性を柱として、パパと愛人、ママと職場の男性、マヤの昔の恋人、などのエピソードが絶妙に絡み合い、笑いと驚きとツイストの詰まった見事なヘンタイラブコメが炸裂します。そして、登場人物が監督の手を離れて勝手に物語を作っていると思えるほど、キャラクター造形が生き生きしている。こちらはむしろ山内監督の、演劇の劇作家としての本領が発揮されているのでしょう。演劇+CM=無敵映画監督、という方程式があるのかどうか。新たなる熟練という言葉遊びをしたくなるほど、見事な2本目です。

さらには、役者陣が本当に素晴らしい。マヤに翻弄されるパパの吹越満さんは、ダメさ加減が程よくリアルで、ここが崩れると映画も崩れてしまう重要な役どころを、完璧にこなしてさすがです。マヤ役の安藤輪子さんの暴走ぶりは最高だし、妙子役の岸井ゆきのさんの戸惑い方も絶妙。そして僕が心から魅了されてしまったのが、ママの石橋けいさん。無表情でぼそっと嫌味を込めてしゃべる姿の素晴らしさは、思い出しても悶えます。

山内ケンジ監督のファンが『友だちのパパが好き』で一気に増えそうな予感がします。出来れば、あまり間をおかずに次回作が見たいところですが、そこはじっくり待ちつつ、まずは本作を思いきり応援することにしましょう。


『下衆の愛』(内田英治監督)
前作『グレイトフル・デッド』(’13)が世界の30以上の映画祭で上映された内田英治監督の新作が、『下衆の愛』です。前作は異常心理が招く猟奇的事件を、ブラックコメディーなタッチで描く激しいドラマでしたが、今回は下衆で負け犬な映画監督の物語。設定は異なるけれども、充満する強力なエネルギーこそが内田監督の個性だということが分かる新作です。

主人公はインディペンデントの映画監督で、新人女優にすぐ手を出し、自ら主催するワークショップでは偉そうな顔をして、弟子筋の男のギャラをピンハネするという、要はクズで下衆な男。しかし、実績があるわけでもない負け犬でもある。そんな彼の前に、才能溢れる新人女優が現われる…。主人公はただの下衆野郎なのか、それとも実は才能があるのか? という本筋に、少女が無垢な存在から人気女優へと脱皮しようとする脇筋が上手く絡み、あっという間に映画の世界に惹き込まれていきます。

映画作りの現場についての映画は、映画ファンにとっては常に嬉しいわけですが、しかし僕は若い監督はこの分野にあまり手を出さない方がいいと思っています。というのも、映画作家たるもの、一番身近な事柄を作品にするのは安易であり、世界が狭いとのそしりを受けるリスクがあるからです。

その点、内田監督は様々なタイプの作品を手がけてきた経験豊富な監督であり、さすがに見応え十分な世界を構築しています。映画作り映画ではあるけれど、社会の底辺を渦巻くエネルギーが充満していて、映画が異様な迫力で満ちている。時にはそれが負のエネルギーであったりもするのだけれど、どぎついブラックユーモアでひっくり返し、映画はポジティビティーを求めて疾走していく。

主演は渋川清彦さん。『お盆の弟』の売れない映画監督役もよかったですが、こちらの下衆度が断然増した(失礼)監督も、もう絶妙のハマリ役。現場で多くの下衆監督を見てきたかどうかは、映画祭のQ&Aでお伺いするとして、クズ男の顔の裏に、本当は真っ当に映画に取り組みたいピュアな想いと、それが果たせないことによる負け犬根性とが入り混じり、複雑でリアルな存在を体現しています。お見事。

そして、この作品の醸しだす異様なエネルギーの源泉となっているのが、内田慈さんの存在です。内田慈さんはプロデューサーと打算で寝る女優を演じますが、最初はコミカルで、女優とプロデューサーの関係について観客が抱く「都市伝説」を見事(?)再現してくれます。しかし、やがて人間の深い業の部分に内田さんが踏み込んでいくことで、映画がドロリとした迫力をまとっていくことになります。本作の内田慈さん、本当に素晴らしい。

というわけで見どころ満載の本作ですが、プロデューサーはアダム・トレル氏。日本語ペラペラの英国人で、オシャレなスーツ姿にプレスリーもみあげが特徴の素敵なトレル氏は、日本映画を英国に輸入配給しており、日本映画界が足を向けて寝てはいけない存在です。彼がついに日本映画をプロデュースするに至った本作。上述している異様な迫力は、彼の熱意のたまものであるのかもしれません。

『ケンとカズ』(小路紘史監督)
スプラッシュ部門の最後は、正真正銘の新人、小路紘史監督による『ケンとカズ』です。小路監督は同名の短編映画を過去に作っており(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011で奨励賞を受賞)、同じ題材を長編として映画化したのが本作です。

ヤクをさばくチンピラコンビの、ケンとカズの物語。ケンは堅実的で理性派、家族もいる。カズは狂犬的で、縄張りを荒らす連中を半殺しにする。カズは次第に組織のしのぎだけでは満足しなくなっていく…。チンピラ外道ものの王道を行き、新人監督作品とは思えない迫力を備えた作品です。

この作品の見どころは、何と言っても主役ふたりの俳優の魅力であると断言してしまいましょう。ケン役にカトウシンスケさん、カズ役に毎熊克也さん。ふたりとも、とても素晴らしい面構えで、新鮮な魅力を縦横に発散しています。横顔を並べたディゾルブなど、演出面でもふたりの顔を引き立たせるようなテクニックが用いられ、役者の魅力がぐいぐいと前面に押し出てくる様が実に痛快。ダブル主演の新人俳優がふたりとも素晴らしい、ということはなかなか珍しいのではないかな。本作を選考段階で見た同僚は、その後、カトウさんの出演する芝居を見に行くほどの追っかけになってしまいました。

さらに言えば、ケンの恋人である早紀に扮する飯島珠奈さんもとてもいい。ケンとカズだけでなく、早紀も加えた3人の若者の青春ドラマであるとも言えます。

チンピラ外道ものなので、やはりダークな展開にもなり、ケンとカズが抱える暗く行き詰った状況が深い陰影を伴って描かれます。ヘヴィーな展開を恐れず、一気に突っ走ってしまえ、という新人監督ならでは意欲も溢れ、見事なデビュー長編であります。短編を長編にするくらい、題材への愛着もあるでしょうし、何と言っても魅力的な役者を活かそうという演出意欲が清々しく、好感度大です。

若手が多いスプラッシュ作品の中でも、純粋な意味での新人としては唯一の存在なので、小路監督には思いっきり暴れてもらいたいと思います。楽しみです。

ということで、スプラッシュ8本の紹介が終わりました。発見に満ちた新しい日本映画の数々から、大いに刺激を受けて頂きたい!
《矢田部吉彦》

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