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【MOVIEブログ】2015 ワールドフォーカス注目作

いよいよ東京国際映画祭開幕までカウントダウン状態になってきました。やはり猛烈にバタバタしてしまい、なかなかブログの更新がままならないですが、もう少し作品紹介続けます。「ワールドフォーカス」部門から、コメディードラマのケッサク3本です。

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『タンジェリン』 (c) Tangerine Film, LLC
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いよいよ東京国際映画祭開幕までカウントダウン状態になってきました。やはり猛烈にバタバタしてしまい、なかなかブログの更新がままならないですが、もう少し作品紹介続けます。「ワールドフォーカス」部門から、コメディードラマのケッサク3本です。

『タンジェリン』
熱心な映画ファンが関心を寄せる(と思いたい)「ワールドフォーカス」部門は、海外の映画祭の受賞作品や、有名監督の新作で、8月31日現在で日本公開が決定していない作品を集めています。ゲリンとかワイズマンとかダンテ・ラムなどの垂涎ネームが並ぶ中、ひょっとして熱心なファンから見過ごされているかもしれない作品で、実は僕が今年の映画祭で最も好きな作品の1本なのが、『タンジェリン』なのです。

映画祭の作品って、おしなべてまあ、ちゃんとした映画が多いというか、マジメな作品が多いじゃないですか。選んでいる自分が言うのもナンですけど。そんな中、『タンジェリン』は、今年の東京国際映画祭の全作品中、最もお行儀が悪いです。ハハ。お下品なのだけど、爆笑度が高く、そして鑑賞後に「お見事!」と叫びたくなる展開を持つ1本なのです。

クリスマス・イブのロスが舞台。ふたりのトランスジェンダー(元男性で今女性)の娼婦がダイナーで会話する場面からスタートしますが、「F×CK」が2秒に1回入るマシンガントークで、いきなりガツンとやられます。ひとりは、最近彼氏に女が出来たらしいことに憤っており、女を探し出してとっちめてやろうということになる。もうひとりは、歌手になる夢を抱いており、友人の話に付き合いながらも、夜に予定している自分のライブが気になっている。

このふたりの娼婦に、心優しいけれど変態趣味(爆笑!)を持つアルメニア移民のタクシードライバーが絡み、3名のドタバタなクリスマスが描かれていきます。とにかく映画に勢いがあり、監督が取材の過程で知り合った女性たちをそのまま主演に起用したように、リアリズムに溢れています。下ネタ満載の爆笑コメディードラマなのに、リアリズムという快感。

この映画の素晴らしいところは、完全に目線がフラットであることだと思います。セクシャルマイノリティーや、東欧からの移民など、社会の主流になれない人たちに注ぐ目線が、限りなく優しい。笑い飛ばすのだけど、上から見下ろすようなことは決してない。僕らはロスの裏通りに身を置き、まるで自分のことのように娼婦たちの夜に心をドキドキさせることになります。

ああ、なんという鮮やかな脚本。タクシードライバーのキャラクター設定の見事さと言ったら! 本当におすすめなので、見逃すのは絶対もったいないです。日本の公開については、現状何も情報は入っていません。どこかマニアックな会社さんが目を付けてくれないだろうか…。ともかく、つまらなかったら僕からお代を返します(と言いたいくらいの気持ちなのですが、システム上ややこしいことになるので無理として、つまらなかったら会場で僕を見つけて叱って下さい!)

『パティとの二十一夜』
下ネタコメディー繋がりで紹介してしまいましょう。こちらはフランス映画で、2年前に『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』をコンペで上映したラリユー兄弟の新作です。もともと、自然の中における人間のナマの姿を、ひねった(ひねくれた?)テイストのユーモアを交えて描くことを得意するラリユー兄弟ですが、本作もその路線上にありつつ、スター俳優を多く起用してメジャー感を増しています。

主演がイザベル・カレで、夫も子どももいるのに性に対して奥手であり、どこか大人になりきれない女性という役どころに、ぴったりとはまっています。疎遠だった母が亡くなり、遺された家を訪れると、そこで管理人のパティと知り合うのはいいのだけど、パティが無類の下ネタ好きで、自分の奔放な性生活を事細かに話して聞かせるものだから、ヒロインは目をシロクロさせてしまう、というスタート。

夏の南仏の光線がなんとも解放的で美しく、眼福です。母の遺体が消えてしまうところから話は動き出しますが、自然と人間、あの世とこの世、といった自由で奥深いテーマを持ち、そして自分の殻を破ろうとするヒロインの成長物語でもあり、文句なしの面白さです。パティ役のカリン・ヴィアール、謎の男のアンドレ・デュソリエなど、フランスを代表する実力派スターが揃い、豪華で楽しく、そしておおらかなエロトークに爆笑できるという、とても幸せなオトナの一本であります。

『シム氏の大変な私生活』
フランス映画を続けます。こちらも鮮やかなコメディ・ドラマ。妻に愛想を尽かされ、仕事も失い、人生のピンチを迎えるシム氏の奮闘を描く内容で、不機嫌なキャラクターを演じさせたら当代随一のジャン=ピエール・バクリが、久しぶりのハマリ役をノリノリで演じて最高です。

バクリの面白さが日本で認知され始めたのは、セドリック・クラピッシュ監督の『家族の気分』('96)あたりからでしょうか。気難しそうな顔をしながらそれが可笑しさに転じていくキャラクターを演じることが多いですが、本作ではその魅力が久しぶりに全開。とにかく、バクリを見ているだけで幸せな気分になります。

中年の危機、というかほとんど老年の危機ですが、ようやくありついた営業職を通じてシム氏がいかにして現状を打破するかが、少年期の記憶や、父の秘密などのエピソードを通じて語られる脚本がとても上手い。脇に挿入されるエピソードも抜群の伏線となり、ただおかしいだけでなく、人生のわびさびをしみじみと味あわせてくれる。ああ、なんとお見事な1本、と鑑賞後に喝采を叫びたくなることは必至です。

監督のミシェル・ルクレールは、2本目の長編『戦争より愛のカンケイ』(’10/日本劇場未公開でDVD発売)が本国フランスでとても評判になった新鋭です。『戦争より愛のカンケイ』は、人種や移民の問題を皮肉とエスプリ(死語?)を効かせた会話劇で綴り、スピード感溢れる現代的な都会のラブストーリーでまとめるという、極めてクレバーな社会派ラブコメでした。今作は、小難しいフックは影を薄め、よりストレートな人間賛歌になっていますが、洗練された演出の上手さに磨きがかかっています。ルクレール監督、今後ますます重要な存在になっていくはずなので、ここらで絶対要チェックです。お見逃しの無きよう!

なんだか、次から次へと「面白い」を連発していて、いささか気が引けてくるのですが、まあ面白いのだからしょうがない。騙されたと思って見てみて下さい。騙されませんから!
《矢田部吉彦》

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