【MOVIEブログ】2016ベルリン映画祭 Day8

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【MOVIEブログ】2016ベルリン映画祭 Day8
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18日、木曜日。快晴の朝。気温は0度くらいとのことだけど、そんなに寒くは感じられず、気持ちいい。気合いを入れて、メイン会場へ。

本日の上映は9時半からで、今年のコンペの目玉の1本、フィリピンのラブ・ディアス監督新作で『A Lullaby to the Sorrowful Mystery』(写真)! あまり映画をその上映時間で云々するのはどうかと思うのだけれど、本作は485分、ほぼ8時間の長さなので、これはやはり特別なことだと言わざるをえない。ほとんど未体験ゾーン。そして、気合いを込めて臨んだ結果、期待が裏切られることはなかった!

19世紀末の、スペイン支配からの独立を目指すフィリピンの革命の時代を描くもので、激動の時代に翻弄される人々の姿を描く叙事詩、と要約できるかもしれない。いや、映画内の物語に流れる時間は(おそらく)数週間程度なので、叙事詩と呼ぶのは正しくないかもしれないのだけれど、詩情溢れる「裏」革命記に長時間浸った後に受ける印象は、やはり叙事詩だ…。

最初の2時間くらいは何が起きているのかあまり理解できず、ただひたすら画面を凝視するしかない。が、徐々に構造が把握できてくると、あとはもう身をゆだねて映画の世界を堪能することができる。

基本長廻しのワンシーン・ワンカットが積み重なって、エピソードの断片を紡いでいくのが序盤。ここで登場人物の人間関係や、時代の背景が織物のように語られていく。シーンが一見乱雑に繋がっていくので、誰が誰で、いま何が起こっているのかを把握するのに難儀するのだけれど、何とも繊細で素敵な歌や、引きの絵を多用する絶妙なフレーミングのモノクロ映像を見ているだけで、全く退屈することはない。

そして、やがてじっくり時間をかけて、次第に事情が腑に落ちるように作られているのが本当に独特で、ああ、これが8時間の意味というものなのか…。徐々に軸となっていくのが、独立運動の英雄であるアンドレス・ボニファシオの妻が、夫の処刑を知り、その遺体を探しに数名の女性と森の中をさまようというエピソードと、若く有望な詩人が、負傷した(別の)革命家の体を、ある目的地に届けるべく担いで森を行く、というエピソード。アピチャッポンの例を挙げるまでもなく、アジア映画における森の存在は常に重要な隠喩に満ちていて、本作でも森が狂気と幻想の源泉となり、映画の内外の時間軸も狂っていく…。

いや、8時間の要約は無理なので諦めるとして、思い切って本作のテーマを恥ずかしげもなく書いてしまうと、それは「自由」ということなのだろうと思う。独立運動が「自由」を求めているものだということは自明だとしても、劇中の詩人が負傷した革命家と芸術の自由について論じるシーンが重要な核となっているし、それは芸術家としてのラブ・ディアスが、映画という芸術への自由を希求した結果が本作だということにも繋がっている、とどうしても考えてしまう。

8時間が必然だとも思わない(ここを切っても何の影響もないだろう、というシーンはいくらでもある)けれども、8時間ではダメだという理由も全く無い。商業映画には理想の上映時間というものが確かにあるだろうということに異存はないし、映画は90分に限ると思うことすらあるけれども、本来そんなことはどうでもいいのだ。長い映画と短い映画があるのではなく、良い映画と悪い映画があるのであって、本作は良い映画なのだというだけで充分のはずなのだ…。

単純にフィリピンの歴史に興味が沸くという効用や、虐げられた人々の現状は何故変えることが出来ないのかというストレートなメッセージ性もしっかり備えていることも指摘した上で、映画言語の新しい形に接していると感じさせるこの芸術的興奮は、滅多に得られるものではないとだけ、いまは書いておくにとどめよう…。

上映は、9時40分から14時あたりまで上映し、1時間のランチ休憩。15時から再開し、終映が18時50分。上映終了後、ラブ・ディアス監督以下、スタッフキャストが登壇し、完走した観客たちから喝采。いやあ、やはりこれはとんでもないことだ!

自分でも驚くくらい、全く疲れていない。不思議だ。次の上映が迫っているので、ダッシュ。8時間の映画を見た直後に、別の映画に向かう自分はどうかしているのではないかという思いは拭い切れないのだけど、まあこれが映画祭だ。いいではないか。

というわけで、会場を移動して、19時15分から「フォーラム」部門で『P.S. Jerusalem』というドキュメンタリー作品へ。そしてこれがなかなかよかった!

ニューヨークで暮らすイスラエル出身の女性監督が、自身が育ったエルサレムに家族を連れて移住する様子を撮った「セルフ・ドキュメンタリー」で、家族の物語にイスラエルの現状を重ねていく構成。アメリカ英語を話す幼い息子を、ユダヤ人とアラブ人が共に通える学校(エルサレムに唯一存在するらしい)に通わせ、ユダヤ人のアイデンティティーを意識させつつ、フェアな視点を獲得させようとする。しかし、実情は監督の想像を越えて複雑であり、アラブ人に対する偏見に満ちたイスラエルの空気に、監督は徐々に追い詰められていく…。

監督とその家族はかなりシリアスな状況に直面することになったはずで、しかしその状況をパレスチナ・イスラエル問題のあまりにも難しい状況をパーソナルな視点から語るという秀逸な作品にまとめてくれたことの価値に、深く感銘を受ける。世界中の人に見てもらう価値のある作品ではないだろうか。

充実したQ&Aも聞いて、ああこれは収穫だったなあと思いつつ、本日最後は22時半から「パノラマ」部門の作品へ。しかしこれが見事に大外れだったので、感想は割愛!

早朝から深夜まで映画を見て、しかしその数が3本というのは、今後もあまり無いのではないかな。色々な思いで頭がごちゃまぜになりつつ、0時過ぎにホテルに戻り、到底上手くまとまるはずもないブログを書いて、1時半。ああ、明日は早くも僕にとっては最終日(映画祭自体は21日まで)。まったく、早すぎる。最後まで堪能できるように、今日は早めに寝よう。
《矢田部吉彦》

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