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GWに映画本を
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ベルリン映画祭日記以来、またまたブログ更新が止まってしまった…。カンヌも近づいていることだし、再開をせねば! ということで、映画ではなく映画本の話から再スタートします。

現在発売中の「キネマ旬報」(5月上旬号)に「映画本大賞2015」が発表されていて、僕も選者のひとりに加えてもらって5、6年になるのかな。例年、総合ベストとそんなに違わない投票内容だったのに、今年は何と総合ベストワンの本を自分のベストに選び損ねてしまった! んー、痛恨。それがどの本なのかは、キネ旬を是非読んで頂くとして、ここでは僕の投票したベスト10について、本誌のコメント欄では書き切れなかったことを書いてみます。

年末の映画ベスト10作りをやめて久しいので(自分が東京国際映画祭で選んだ作品を含めるべきか否かの結論が出ないのが最大の理由)、映画本のベストを考えるのは、なんだか物足りない気分を埋めてくれるようで楽しいです。いや、楽しいだなんて、著者の方々には失礼だけど…。でも、映画本ベスト10に投票するためには、映画本を、そうだな、30冊程度は読んでおかないといけないだろうし、なかなか楽しいとばかりも言っていられないわけですが。ともかく去年はいい本がとても多く、ベスト10作りはとても難航したのでした。

以下、映画好きであればいずれも必読! ということで、キネ旬に投票した1位から10位までの順で並べてみます。

1.「ミシェル・ルグラン自伝 ビトゥイーン・イエスタデイ・アンド・トゥモロウ」(ミシェル・ルグラン=著/高橋明子=訳/アルテスパブリッシング)

迷いに迷った末の1位は、ミシェル・ルグランの自伝。この本の特徴は、自伝といっても生まれてから現在に至るまでの人生を時系列順に書いていくのではなく、知人や友人たちとの関係の紹介を軸として、その関係の中で自分の歴史もその都度振り返っていくという、独特の構成にあります。いままで、どのような人と出会ったか、その出会いに至るにはどのような経緯があったか、そしてその出会いがその後の人生にどのような影響を及ぼしたかが綴られていき、それらを総合すると、偉大なる音楽家ミシェル・ルグランのキャリアが、様々な美しい糸で編まれた巨大で豪華な絨毯のように浮かび上がってきます。音楽の師匠ナディア・ブーランジェの厳しい指導に始まり、もちろんジャック・ドゥミやゴダールなどのヌーヴェル・ヴァーグ一派、さらにはマイルス・ディビスやビル・エヴァンスといったジャズ界の巨星たちとの交流など、興奮しすぎて、めまいがするほど。

文章を読んでいると、頭の中に音と映像が溢れてくる。こんな体験はなかなかないです。そして、ルグランの革新的な才能がいかに正規の音楽の厳しい訓練の上に築かれたのかが分かり、芸術家の秘密も見えてくるし、第2次大戦後のフランスの生活もリアルに立ち昇ってくる。華やかでエンタメ性に優れ、戦後ポピュラー音楽史のようでいてもちろん映画史でもあり、とにかく楽しく贅沢な一冊!

2.『アンドレ・バザン 映画を信じた男』(野崎歓=著/春風社)

重要書『映画とは何か(上下)』(岩波書店)の新訳本が出版されるなど、昨年は日本においてアンドレ・バザン再発見の機運が高まった年になりました。本書は、その機運の中心にいる野崎歓氏がバザンについて書いた文章をまとめたもので、決して誰にでも分かり易いわけではないバザン理論へのアプローチの仕方を丁寧に案内してくれています。本当に貴重な一冊で、僕はそれこそもう、なめまわすように没頭しました。

はたして、映画におけるリアリズムとは何か。我々は日頃から「映画のリアリティー」について軽々しく語ってしまうけれども、その「リアル」って本当のところは一体何なのか? 映画を巡る論点としては、これは最も根源的で重要なものでしょう。「リアルっぽさ」が横溢する現代の映画をいかに見るべきか? 本書を読むにつれて、安直な「リアル」に麻痺した批評眼がいったんリセットされていくような快感が訪れ、目から鱗が落ちっぱなしになります。

リアリズムとは「証明することではなく、単に示すこと」だが、それは事物をあるがままに撮るということではなく、事物の撮り方に作家の批評性が(演出が)いかに介在しているのかを我々は読み取らなければならない…。バザンの理論、そして野崎氏の読み解きは現代の映画を見る者に改めて突き刺さるはず。僕は本書を年に一度は読み直すことになるだろうと思っています。自分にとっての重要度で測るならば、本書が実は1位です。

3.『捜索者 西部劇の金字塔とアメリカ神話の創生』(グレン・フランクル=著/高見浩=訳/新潮社)

いや、1位はこっちだろう! というくらい、超ド級の内容を誇るのが本書。もはや「映画本」の範疇は軽く越えている、驚愕のノンフィクションです。史実(事実)、その文章化、そしてその映画化、という流れは映画における王道のひとつですが、それが最も大きなスケールで実現したのがジョン・フォードの『捜索者』なのであり、その背景を知ることで本当のアメリカ近現代史が見えてくる。これはすごい。

まずは西部開拓時代のアメリカにおける、白人とインディアンの殺し合いの実体が恐ろしいほど克明に紹介されていきます。白人はいかにインディアンを虐殺し、そしてインディアンはさらった白人をどのような酷い殺し方(あるいは生かされ方)をしたか、その報復に白人はどう行動したか…。あまりに、血みどろな史実。

その中で、白人家族が襲われ、さらわれた少女がインディアンに育てられるという事件が語られるのですが、当時このようなケースは珍しくなかったとのことで、娘を探すことに人生を捧げる父親の人物像が実に興味深い。やがて少女は見つかり、白人社会に強制的に引き戻されるが、既に成長して心はインディアンになっている女性は、幸せな人生を送ることが出来ない。彼女はインディアン男性との間に子どもを産み、そのハーフの息子は、やがて白人とインディアンとの和解の象徴となっていく…。

これは実際にあった事件なわけですが、少女の父親の来歴と人物像、さらった部族、少女の息子のその後など、実に細かく詳しく紹介され、もうこれだけでも抜群に面白いです。そして、このエピソードを後年ノンフィクションの本に仕上げた人物がいて、いかなる作家であったか、その本が当時の社会にどのような影響を与えたかも克明に紹介されます。

そしてさらに、20世紀も中盤になり、偉大なるアメリカの映画監督ジョン・フォードが、映画史上に燦然と輝く傑作『捜索者』を手掛けることになります。いかにしてフォードは原作と出会い、製作に至ったのか、原作をどう変えたのか、現場はどうだったのか、役者はどうしたか、フォード演出の神髄はどこに見られるか、映画『捜索者』の読み取り方は…。

あー、書いていて止まらなくなります。現実の歴史の克明な記述、その中で起きた事件の当事者たちの姿、それを本にした作家、その本を映画にした西部劇の王ジョン・フォード。一冊に数冊分の面白さが詰まっていて、ああ、もうこんな本はほかに無いと断言しましょう。本書こそ、2015年の1位だ!!

あ、さらに付け加えるならば、『レヴェナント:蘇えりし者』とも確実に本書は繋がります。さらわれた娘を探すという設定は、白人とインディアンという立場こそ違えど『捜索者』に共通しているし、本書を読めば『レヴェナント:蘇えりし者』がより一層楽しめるはずです。

4.『チャップリンとヒトラー -メディアとイメージの世界大戦』(大野裕之=著/岩波書店)

実は、本書が2015年の秋口までずっと1位だったのです。いや、圧倒的な面白さは、いまでも1位です。チャップリンとヒトラーにはいくつかの共通点があって、4日違いの誕生日や、チョビ髭、そしてともにメディア利用の天才であったことなど、まずはそれらの共通点をおさらいしていく冒頭部からして引きこまれます。やがて、ヒトラーが本格的に世界戦争を仕掛けていくタイミングと、チャップリンが『独裁者』のクライマックスの演説シーンの撮影に挑むタイミングが重なるに至り、偶然は必然となり、著者の分析の鋭さと深さは無類の面白さを帯び、圧倒されます。

もう、筆者の調査の徹底ぶりには感嘆するほかないです。チャップリンの「戦い」を讃え、映画史上最も重要な作品の1本である『独裁者』の優れた点を冷静に分析し、そしてチャップリンの芸術家としての天才性を見事に描き切る筆力に、興奮を抑えるのが難しいです。チャップリンもすごいけど、このような書を後世に残すことのできる筆者も、立派な芸術家。絶対必読。

というわけで、以上の4冊は全部1位でした!

5.『映画の荒野を走れ - プロデューサー始末半世紀 』(伊地知啓=著 上野昂志・木村建哉=編/インスクリプト)

伊地知啓プロデューサーがキャリアを語っていく内容で、洋の東西を問わず映画の歴史を創った人の本が面白くないわけがない。若い頃の日活の様子や、ロマンポルノへの転換期、そしてそのタイミングで監督の道を選ばず、プロデューサーになった背景など、どのエピソードもとても面白い。そしてやはりメインになっていくのは相米慎二監督との出会いと仕事。相米監督の人物像と作る映画のギャップとが僕には可笑しく、でも可笑しいけれども、やがて哀しく、そして改めて寂しくなる…。相米映画をまた見よう。

6.『狼たちは天使の匂い 我が偏愛のアクション映画1964~1980 (1)』(町山智弘=著/洋泉社)

町山さんの本を読んでいつも感嘆するのは、1本の映画やひとつのシーンから、別の作品や別のシーンへと連想を広げる知識の深さと、筆力の鮮やかさです。Aという作品は、Bという作品に影響を受け、そしてCという作品に影響を与えている、という映画史上の位置付けを、次から次へと紹介してくれる。本当に、目から落ちる鱗を止めるヒマがない。優れた映画批評家の仕事は、ある作品を深く分析するのと同時に、映画史という大海の中でその作品がどのような位置付けにあるかを示してくれることにあるわけで、A級とB級を包括して映画史地図を自在に描いてくれる町山さんは当代随一の存在でしょう。さらに、いつものように本書でも映画批評の中に町山さん本人の人生も見え隠れし、個人エッセイという作品としても成立している。町山さんの名人芸を存分に堪能することが出来て、本当に素晴らしい。

7.『ドイツ映画零年』(渋谷哲也=著/共和国)

渋谷さんの文章は、体にするすると入ってきて、そして目からぽろぽろと鱗が落ちまくります。戦後ドイツ映画の見方の基本をまず解説してくれて、その上で最も重要な作家のひとりであるファズビンダーの立ち位置を丁寧に教えてくれる。親世代の否定から入ったニュー・シネマのほかの作家たちと違い、ファズビンダーは旧来の映画文化も自作に取り込んだ上で独自の作家性を発揮していったという指摘をはじめ、ああなるほどと膝を叩いてばかり。僕はファズビンダーと言えばついダグラス・サークとの関係性の方に興味が向かってしまうのだけれど、本書ではもっと多極的な見方を教えてくれるので、ファズビンダー作品を見直したいという意欲を猛烈に駆り立てられます。

さらに、ファズビンダーとトリュフォーの共通点など、いままで読んだことがないような視点や、演劇人としてのファズビンダーの特徴、あるいはテレビドラマで取ったアプローチなど、とにかく刺激的な論考に満ちています。戦後ドイツを映画はいかに描いたか、その中でファズビンダーの特徴とはどこにあったのか、社会と個人と映画の関係のあり方を根本的に考えさせられる貴重な一冊です。本の後半はレニ・リーフェンシュタールに多くの頁が割かれ、もちろんこちらも必読です。

8.『ルビッチ・タッチ』(ローマン・G・ワインバーグ=著/宮本高晴=訳/図書刊行会)

9.『映画の戦後』(川本三郎=著/SPACE SHOWER BOOKS)

10.『オーソン・ウェルズ』(アンドレ・バザン=著/堀潤之=訳/インスクリプト)

『ルビッチ・タッチ』はキネ旬本誌では2位にランクインしていて、僕も結果的には異存がないのだけど、とにかくルビッチ本の決定版。ひとりの作家の総てを網羅したこういう本は(『ロバート・アルドリッチ大全』とか)、一家に一冊、必ず携えておくべき。昨年が戦後70年の節目の年だったこともあり、戦後と映画を結び付けて語る本が何冊か出された中で、川本三郎さんの『映画の戦後』は佐藤忠男さんの『映画で日本を考える』(中日映画社)と並んで、映画と時代を評した名著でした。そして『オーソン・ウェルズ』はとても貴重な書であり、訳者に心からお礼を申し上げたい!

番外:『国境を超える現代ヨーロッパ映画250 移民・辺境・マイノリティ』(河出書房新社)

この本の作成に僕も少しだけ関わっているので(ヨーロッパの移民映画について話したインタビューが載っている)、キネ旬ベスト10に挙げることを、泣く泣く自重しました。が、相当に充実した内容だと思うし、極めて重要な現代性を含んでいるうえに、とても便利なガイドブックでもあるので、是非お手に取って頂きたいと思う次第!
《矢田部吉彦》

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