【シネマモード】鬼才アトム・エゴヤンが描く、2人の女

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『クロエ』 -(C) 2009 Studio Canal All Rights Reserved.
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自分が女でありながら、こういう作品を観ていると、女ってつくづく妙な生き物だなと実感させられます。カナダの鬼才、アトム・エゴヤン監督が新作の題材に選んだのは、全く違う人生を歩んでいた2人の女が出会ったことから始まる愛憎劇。2003年にアンヌ・フォンテーヌ監督が、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアール競演で映画化した『恍惚』をベースに、よりサスペンスフルに仕上げられた『クロエ』です。

これまで、『スウィート ヒアアフター』、『エキゾチカ』、『フェリシアの旅』、『アララトの聖母』、『秘密のかけら』などで、印象的な女性像を映し出してきたエゴヤンが今回描いたのは、正反対の2人の女。ひとりは、社会的地位と申し分ない家庭を持つ女医のキャサリン。もうひとりは、若く美しい娼婦・クロエ。最愛の夫の浮気を疑ったキャサリンは、レストランで出会ったクロエを雇い、夫・デビッドを誘惑させて彼がどんな行動をとるかを逐一報告させるのです。

年齢も、住んでいる世界も、社会的地位も全く違う2人ですが、見えてくるのは、心にある満たされない思いと孤独感という共通点。キャサリンは、何不自由のない生活を送りながらも、息子の親離れや老い、夫の浮気疑惑などに悩み、孤独感と焦燥感を募らせ、女としての自信を失い始めています。クロエは、若さと美貌を誇り男たちから欲望の対象として見られ、女としての自信をみなぎらせている一方で、あくまでも自分は“つまみ食い”的存在でしかないことも認識していて、人に心の底から欲されることを渇望しています。持っている幸せの種類も、抱えている空洞の種類も違うそんな2人が、互いに深く関わっていくことになるのです。“運命の歯車”が大きく狂っていくとも知らず。

キャサリンがクロエに仕事を依頼したとき、2人は単なる依頼人と請負人の関係でしたが、何度も会い、クロエがデビッドとの情事をキャサリンに報告していくごとに、2人には強い共犯関係が生まれていきます。キャサリンに望まれる自分に夢中になるクロエと、夫の知られざる素顔を明かすクロエの物語に夢中になっていくキャサリン。本来は、敵対する関係にあってもおかしくない、奪われる立場と奪う立場にいる女たちなのですが、2人は自分にない部分を相手の中に見つけ、そこに羨望を抱きながらも、互いに満たされないものを持っているという共感から依存関係を深めていくのです。やがてそんな依存関係は、より深いものへと発展していき…。

当初、エゴヤンがなぜリメイクを手がけるのか不思議でしたが、キャサリンとクロエの関係性が、『恍惚』よりもはるかに濃密に描かれている後半を観て、なるほどと考えました。
女というものは、自分が何かをコントロールしてさえいれば、夫の情事の物語にさえ、心を奪われかねないロマンティックな生き物。それでいて、“感情の生き物”と呼ばれるだけあり、自ら生まれた思わぬ感情によって、事態を制御不能にすらしてしまう。映像作家であるエゴヤンが興味を持つのも不思議はありません。

本作に登場する2人の女たちには、分かりやすい違いが多いので、そこばかりに意識が向きがちですが、実はエゴヤンがここで描きたかったのは、すべての女が持つであろう性や業のような共通性なのではないか、と思うのです。胸の奥に熱いものを秘めた生き物であり、一旦それが流れ出すと、時にそれに振り回されてしまう。たとえ、知性に溢れ、クールに見える女性であったとしても、です。それが、女の愚かさでもあり、実は美しさでもあるのかもしれません。キャサリンを見ていると、そんな熱い部分が、女をいくつになっても可愛く見せるのではないかと感じたりして。エゴヤンがこの作品で描きかたったのは、こういった女の“愚かさ”であり、“愛すべき”部分なのでしょう。

最後の最後には、女の複雑さを強い余韻として残す瞬間も待っています。今回、エゴヤンにしては分かりやすい映画を撮ったものだなと思っていたのですが、最後にちょっとした彼らしいスパイスが。このラストシーンを見て、自分を棚にあげつつ、「つくづく、女って奇妙だな」と思った私。さらに、このシーンにおけるキャサリン=ジュリアン・ムーアを最も美しく撮ったあたりに、エゴヤンの真意のようなものを感じたのですが、あなたならどう思うでしょうか。

《text:June Makiguchi》

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