愛すること、生きることの“本能” 雅子×中井圭、男女で語る『君と歩く世界』

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対談する雅子、中井圭
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  • 『君と歩く世界』-(C) Why Not Productions - Page 114 - France 2 Cinema-Les Films du Fleuve - Lunanime
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『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』でアカデミー賞主演女優賞を受賞し、『ダークナイト ライジング』などのハリウッド大作にも出演するフランスの女優マリオン・コティヤールとフランスの名匠ジャック・オディアールがタッグを組んだ再生と希望の物語『君と歩く世界』。ある事故によって両足を失ってしまったシャチ調教師ステファニーが、シングルファーザーのアリと出会い、触れ合うことで、生きる希望を取り戻していく感動作です。そこで、男女の救う愛、救われる愛を描いたこの作品の世界感に深く共感したというモデルの雅子さんと映画解説者の中井圭さんの2人に、『君と歩く世界』の魅力をたっぷりと語ってもらいました!

──両足を失ったステファニーが、アリという男性との出会いを通じて再生していく物語ですが、まずは映画を観た感想から聞かせてください。

雅子:自分だったらどうするんだろう? もしも自分がステファニーだったらどうなるんだろう? と考えましたね。脚が無くなったときのショックを経ていかないと次には進めない、乗り越えることをしっかりと描いていたのが印象的でした。

中井:僕はもともとジャック・オディアール監督が好きなので、今回はどんな作品なんだろう? と思って観てみたら、甘いだけでなく、生きる厳しさをしっかり描いていて。そして、身体性というか肉体性というか(身体が求める本能のようなもの)を、かなり意識しているなと。この手の作品は、甘い方向、もしくは暗い方向に寄りがちだけれど、そうじゃないのがいいですね。

雅子:私もフランス映画が好き、オディアール監督も好き、彼の作品は好きでほぼすべて観ているので、この作品も楽しみでした。前作の『預言者』とは180度違う世界でしたよね。キャッチコピーにもありますけど、「きらめく光、海、涙、世界」がすべてを物語っていて、そして“生きる”ことを考えさせられる、とても人間くさい映画だと思います。

中井:事故に遭った後のステファニーの方が魅力的に描かれているのもいいですね。彼女自身がそれまで拠り所にしてきた(外見的な)ものを失うことで、人間の本質的なところに喜びを見いだしていく。そこに魅力を感じました。

雅子:そう、事故後のステファニーは、本能に忠実で、素直に生きようとしている。

──であるからこそ、彼女は他の誰でもない、まだ良く知らないアリを本能的に頼ったということですね。

中井:だと思います。おそらく彼女は、以前の自分を見ていた人ではなく、そうではない人の方に寄っていきたくなった。過去の姿を知らない人の方が、変わってしまった自分を受け止めてくれると思ったんだと。家族や友人も優しく声をかけてくれるだろうけれど、前の姿と見比べてしまうわけで…。

雅子:しかも、アリは彼女に同情していない、それも大きいです。ステファニーにとっては、それが心地よかったのかも。

──一方で、アリはとても愛情表現が苦手な男性ですよね。

雅子:そうですよね。アリは無口ではないけれど言葉をあまり必要としない人に思える。私個人としては、アリはタイプではないですけど(笑)、彼はステファニーをしっかりと抱きかかえてくれる、どこかに連れ出してくれる、そういう(肉体的な)安心感があり、彼女はそれを求めたのかもしれないですね。

中井:肉体的というところにつなげると、アリがストリートファイトをしてお金を稼ぐシーンがありますが、その戦いによってステファニーは生気を取り戻しているように見えるんです。いくら脚を失ったとはいえ、女性が血生臭いストリートファイトに生気を感じる、肉体的なもの、本能的なものに惹かれていく感覚はちょっと驚くかもしれないですね。

雅子:そう、びっくりしますよね。でも、実際に彼女の立場になってみないと分からない感情なんですよね。

──そういうところが包み隠さない人間の本質的な感情ということなんですね。ほかにも、リアルだなぁと感じたシーンはありますか?

中井:ステファニーとアリが最初にセックスをするシーンですね。行為自体の生々しさではなく、脚を失った女性の全体重がアリにのしかかる重さというんでしょうか──その重量感を意識して撮っているのがリアルでした。

雅子:私は、脚を失った後に海で泳ぐシーンですね。特に、アリにおぶってもらいながら海からあがってくるシーンは、南仏のキラキラした光に包まれて本当にきれいなんです。視覚的な美しさはもちろん、あのシーンがこの映画のすべてを現していると思います。

中井:僕も海のシーンは好きです。脚を失ってから初めて海で泳いだあのシーンは、それまでにない生命力を発していましたよね。脚を失う前よりも失った後の方が精神的に開放されている、そんな気さえしました。すごく力強い映像です。

雅子:そう、開放であり、自由への入口でもあります。あと、マリオン・コティヤールが久々に母国語、フランス語で演じているというのも見どころです。

──そうですね、『インセプション』『ミッドナイト・イン・パリ』『ダークナイト ライジング』と、英語圏の大作が続きましたからね。改めて、フランス女優としてのマリオンの素晴らしさってどんなところですか?

雅子:気取っていない、ナチュラルな演技のできる女優であるということですね。ちなみに、ステファニーを演じている彼女はノーメイクです。そういうところもぜひ見て欲しい。邦画ではまずあり得ないですし、ハリウッド作品でも何かしら手が加えられるもの。ナチュラルさは、やはりフランス映画の良さですよね。

──アリ役のマティアス・スーナーツもこの作品で注目を浴びていますね。

中井:いい役者ですよね。アリのような役は、演技力だけではまかないきれないというか、肉体的にもハマらないとキャラクターに説得力を持たせることができない、難しい役だと思います。でも、マティアスはアリのキャラクターを肉体的にも表現している。であるからこそ、ストリートファイトのシーンも、そうだよね、元ボクサーだからアリは強いよね、と観客を納得させられるんです。その納得がないと、ステファニーに生気を与えられないわけですよ。

──なるほど。そもそもお二人がこの映画を観たいと思ったのは、どういうところに惹かれてですか?

中井:僕は、マリオン・コティヤールが大好きなんです(笑)。すごく可愛いじゃないですか。なので、彼女の出ている作品は基本、観るというスタンスです(笑)。

雅子:そういうの、大事です(笑)。私もマリオン・コティヤール、好きですよ。

中井:あとは、オディアール監督だからというのもひとつですね。

雅子:ですね。マリオン・コティヤール、オディアール監督、フランス映画……もう、見逃す理由がない(笑)。大作ではないけれど、本当にいい作品です。

──大作ではない作品に興味を持ってもらうため、特にこの映画をおすすめしたい人はどんな人でしょう?

中井:ある程度、酸いも甘いも分かっている人の方が入り込みやすいのかもしれないですね。あとは、挫折を知っている人。どんな小さなことでもいい、仕事でも恋愛でもいいんです、挫折を経験した人の方がより共感できると思います。

雅子:もちろん、まだ挫折を知らない人にも観て欲しい。カフェで他愛もないユルい雑談をするのもいいけれど、たまにはこういう映画を観て、深く語り合ってほしいな。あと大事なことは、「同情はいらない=感傷主義ではない」ということ。傷ついたヒロインがある男性と出会って回復する、そんな単純な映画じゃないんです。ステファニーは両足を失ったことで生きる意味を知る。アリもまた彼女と出会い、自分の子どものある事件によって初めて生きる意味を知るんです。人って、例えば何か機会(試練)がないと、生きること、生きる意味に気づかないものなのかもしれません。この映画は、痛みを知って生きることの意味を考える映画なんだと思います。

中井:その通りだと思います。加えるなら、大抵の映画のエンディングはその物語のゴールが描かれているけれど、本当の人生にはさらにその先があるわけですよね。この映画のラストシーンは、確かに今はこういう状況だけれど、そこまでの彼らの経緯を知っている観客には、その先の2人の姿はどうなるのかわからないと感じる部分がある。だから心に残る。簡単に結論を与えないことで余韻が残り、自分に置き換えることができる。そういうところもこの映画らしさです。
《text:Rie Shintani》

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