【MOVIEブログ】ベルリン2015 Day6

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ロシアのアレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督新作の『Under Electric Clouds』
  • ロシアのアレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督新作の『Under Electric Clouds』
10日、火曜日。本日もひたすら曇天。気温はそれほど低くなくて、5度くらいかな。まあ、ともかく冬のヨーロッパの典型的な曇天で、これはこれでよしとしよう。

7時起床、朝食をたらふく食べて、今日も快調。同僚と軽く打ち合わせをして、マーケット会場で明日のチケットを確保してから、メイン会場へ。

9時から、コンペ部門でロシアのアレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督新作の『Under Electric Clouds』(写真)。13年に他界したゲルマン父は、遺作にして超絶的な怪作(もちろん褒め言葉)の『神々のたそがれ』が日本でも3月の公開を控えているけれど、息子のジュニアも父の遺志を受け継ぐような、妥協の無い創作活動を展開している。

なので、うかつに判断してはいけないのだけれど、それにしても本作は難解だった! 2017年という微妙な近未来を背景として、厚い雲と靄に覆われた広大な土地の中に、建設が中断した巨大なビルがそびえ立ち、その周辺で様々な人間模様が繰り広げられていく。が、リレーのごとく展開していく人物たちの間にはほとんど因果関係はなく、自分の頭の悪さを隠さずに言ってしまえば、いったい画面の中で何が起きているのか、全く分からない。映像としては繋がっているのに、描かれるエピソードは完全に断絶されている。シュールな群像劇と言えないこともないけれど、むしろ悪夢のような世界観。これは難しい。

業界関係者向け試写(メインはプレスで、マーケット登録関係者も入場できる)だったこともあり、かなりの観客が席を立って途中退出していった。僕も、これは1度見ただけでは何も分からないだろうと、早々に意味を追求することを諦め、とにかく目に映るものだけでも見ていこうとしたのだけれど、それでも、果たしてこれは映像の文学化なのだろうか、などと無駄なことをどうしても考えてしまう。んー、ともかく現代ロシアを読み解く鍵は隠されているという気はするので、もう1度見る機会があったら、是非ともリベンジしたい。うん。

自分の頭脳と体力と想像力を試される130分を終え、呆然とした頭を切り替えながら、11時半からのミーティングへ。フランスの大手映画会社から、今年のラインアップの説明を受ける。現時点ではどの作品もカンヌ狙いなので、果たしてどの作品がどうなるか、自分の仕事を棚に上げても楽しみ。

ところで今年のカンヌは、イタリア映画が大変なことになりそうで、なんといっても、モレッティ、ベロッキオ、ソレンティーノ、ガローネ、タヴィアーニ兄弟、といった錚々たる面々の新作がカンヌに間に合ってしまう。カンヌのコンペにイタリア映画が5本も入ることはないだろうから、いやあ、これはどうなるか。もうミーハー的に楽しみだ。

いや、日本だって今年は大変な年で、是枝さん、河瀬さん、黒沢さんの新作もカンヌに間に合うので、全くもって予断を許さないのだ!

閑話休題。次のミーティングまで45分の時間が空いたので、珍しくレストランに入り、大好きなグーラッシュ・スープと巨大なウインナー・シュニッツェルを食べて、至福。

午後は9件連続でミーティング。作品の権利を売買する映画会社側としては、まずは作品を買ってくれるバイヤーとのミーティングが優先されるので、金銭のやりとりが発生しない映画祭関係者とのミーティングは、マーケットの後半にブッキングされることが多い。なので、昨日と今日が僕にとってのミーティングのピークになる。明日の水曜日になると、多くの会社がベルリンを去ってしまうので、なるべく多くの人に会っておかねばならないのだ。

17時に全てのミーティングが充実しつつも慌ただしく終わり、タクシーに乗って少し離れた会場に向かい、各国の映画祭のプログラマーが集まるパーティーへ。世界中の同業者が集まるとても貴重で幸せな機会で、初対面の人でもあっという間に気持ちを通じ合わせることができる。小さな悩みから大きなジレンマまで、共有する思いは驚くほど共通しているので、彼らと話しているととても励まされる。がんばろう。

あ、南アフリカの映画祭の男性から今日聞いて感動した話を書こうかな。今年の映画祭で、彼は香港のカンフー映画の特集を企画していると言うので、どうして? と聞いてみた。すると、彼が言うには、アパルトヘイト時代には白人と黒人は同じ映画館に行くことが出来なかった。白人たちの映画館では、ハリウッド映画が上映されていた。黒人たちが行くことの出来る映画館では、ハリウッド映画は高くて上映することができない。ではそこで何が上映されていたかと言えば、安価で上映権が購入できる香港のカンフー映画だったのだ!

抑圧に耐え、やがて堪忍袋の緒が切れて、抑圧者をやっつけるヒーローたちに、観客は喝采を叫んでいたらしい。ネルソン・マンデラも香港映画が好きだったという。反アパルトヘイト運動の裏には、香港映画から与えられたパワーが隠されていたのだ。白人たちが『ロボコップ』や『ダーティー・ダンシング』を見ていたとき、黒人たちが見ていたのはこれなのだ! という特集を組むという。映画は歴史を動かす。なんということだろう。そして、映画の果たした歴史について、知っているつもりの我々は、実際にはどれだけ無知であることか…。話を聞きながら、僕は目頭が熱くなってしまった。

「あの映画祭のディレクターが去ったらしい」とか、「新しくあの人があの映画祭のヘッドに就任したらしい」とか、まあ業界内のうわさ話にも花を咲かせつつ、楽しい時間はあっという間に終了。一晩中でも話していたいくらい。

後ろ髪を引かれる思いで会場を出て、映画祭のメイン会場に戻り、21時から、特別上映でヴィム・ヴェンダース監督新作の『Every Thing Will Be Fine』へ。全編カナダのケベックロケ。主演にジェームズ・フランコ、共演にシャルロット・ゲンスブール、レイチェル・マクアダムス等々の、英語映画で3Dのドラマ。

近年はドキュメンタリーで存在感を発揮していたヴェンダースのフィクションドラマは久しぶりで、果たしてどのような出来であろうかと期待してみたものの…。んー。

詳しい映画の内容は割愛するけれど、著しく生気が欠けていることと、キャラクターの掘り下げ方が十分でないこと、そして省略すべきでない箇所を省略していることの意図が見えないこと、などなど、かなりの不満が残ってしまった。ジェームズ・フランコは今年のベルリンに出演作品が3本も出品されていて(ヴェンダース本人から壇上で「ミスター・ベルリン映画祭」と紹介されていた)、『スプリング・ブレイカーズ』以降の絶好調振りが伺えてとても素敵なのだけれど、そんな彼をもってしても、いささか刺激に欠ける本作に風穴を開けることは出来なかった…。

本日の鑑賞作品は2本のみ。いずれも複雑な気持ちになるものであったけれど、多くのミーティングを含め、人との触れ合いに恵まれた日だったので、とても良き一日。

宿に戻って0時。今日は早いなあ、と安心してダラダラ書いていたら、なんともう2時で長くなってしまいました。失礼しました。おやすみなさい!
《矢田部吉彦》

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