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【MOVIEブログ】ベルリン2015 Day7

11日、水曜日。ベルリンもそろそろ終盤戦。相変わらず天気はどんより曇天だけど、昨日に続いて気温はさほど低くなく、あまり寒さを感じない。毎朝のルーティン作業をこなして、今朝も9時からの上映へ。

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コンペ部門のポーランド映画『Body』
Jacek Drygala コンペ部門のポーランド映画『Body』
  • コンペ部門のポーランド映画『Body』
11日、水曜日。ベルリンもそろそろ終盤戦。相変わらず天気はどんより曇天だけど、昨日に続いて気温はさほど低くなく、あまり寒さを感じない。毎朝のルーティン作業をこなして、今朝も9時からの上映へ。

コンペ部門で、『Aferim!』というルーマニアの作品。監督のRadu Judeは、ゼロ年代中盤以降に世界を席巻したルーマニア・タッチ(僕の造語で、クリスチャン・ムンジウやコルネイユ・ポロンボイユなどに代表される、長廻しを駆使したリアリズム手法)とはまた少し異なるスタイルの持ち主で、各国の映画祭から注目されている存在だ。

今作はかなりの意欲作で、19世紀前半の東欧を舞台に、虐げられるジプシー(いまで言うロマ族か)と、情け容赦の無い非道な支配者層との関係をモノクロで描いていくもの。法務執行人の父子がのんびりと山中を馬で旅するシーンから始まり、どこかドン・キホーテ的な風刺を含んだおとぎ話かと思いきや、奴隷として扱われるジプシーたちの悲惨な境遇がストレートに語られるものだった。

会話がとても多く、混沌として猥雑な描写もふんだんにあるからか、映画に入り込むまでに時間がかかるけれど、慣れてくる後半以降は一気に持って行かれる。それなりに予算がかかっているようで、美術がしっかりしていて製作のクオリティーが高い。人権意識が発達する前の前近代的な人々の厳しい暮らしが丁寧に描かれており、これはかなりの力作だ。依然衰えることのない、現在のルーマニア映画の底力が伺えて刺激的。

続けて、「フォーラム」部門の『Cinema: A Public Affair』というドイツの監督による作品へ。ロシアの映画美術館を巡る状況を追うドキュメンタリー。ペレストロイカ以降の自由化の流れの中で、89年にワルシャワに映画美術館が設立され、それはロシアにおけるアート映画の普及に多大な影響を与えた。しかしゼロ年代に入り、環境が徐々に悪化し、近年では政治の介入が一層目立つようになり、尊敬されていた館長のキュレーターも更迭され、表現の自由が危機に面している状況が描かれる。映画の力への賛歌であり、そして現状への悲痛な警鐘でもある。全くもって、他人事ではない。

さらに続けて同部門のスペイン映画へ。どうにも馴染めなかったので、コメントは割愛。

上映終わり、ソーセージとポテトとザワークラウトのいつもの簡易ランチを10分で食べて、15時にマーケット会場へ。マーケットは金曜日まで開催されているものの、実質的にはほぼ終了な雰囲気で、会場はかなりガランとしてきている。3件だけミーティングをして、17時半からまた上映へ。

「パノラマ」部門で、『My Name is Annemarie Schwarzenbach』というフランス映画。戦前に活動したアンヌマリー・シュワルゼンバッハというスイスの女性作家に焦点を当てた、ドキュメンタリー的フィクションドラマ(分かりづらいですね)かな。シュワルゼンバッハのポートレートを、複数の若い女優たちに演じさせることで、その複層的な人物像を描いてみようという、実験映画的要素も含む作品。

同性愛者であったシュワルゼンバッハを演じさせるために、モデル体型の中性的女優たちをオーディンションする場面から映画は始まり、若い女優たちの未だ不安定な性的アイデンティティーにも迫ろうとする試みは面白くないわけではない。けれど、どこか紋切型で興醒めする描写も多い。でも、これは「ホモセクシャリティーを記号化する試み」でもあるのかもしれない、と思ってみたりもする。ベルリンはセクシャリティーやジェンダーを扱う作品がとても多く上映されるので(特に「パノラマ」部門に顕著)、日頃から硬直化が進む思考に刺激を与えてくれるのはとても有難い。

1時間ほど時間が空いたので、劇場のカフェで鑑賞コメントをノートに書いたりしながら、20時過ぎにタクシーに乗って別会場に移動。

21時から、コンペ部門で『Body』(写真)というポーランド映画。これがとても良かった!

ベテラン刑事と、問題を抱えたその娘、そしてセラピストの女性の3人の人物を中心にした物語。シリアスなアート系作品のルックであるのだけれど、要所に絶妙に笑えるユーモアが散りばめられていて、やがてスピリチュアルな領域にも突入し、そして遂には感動の家族の物語へと展開していく。こう書いてしまうと支離滅裂な気もするけれど、これは実に巧みな作品だった!

キャラクター造形、進行のテンポ、深刻さとユーモアのバランス、笑いのツボの押さえ方、そして性善説を信じるポジティビティー、いずれも秀逸。タイトルの意味も、見終わって考えると幾重の意味で納得できる。これは今年のベルリンの収穫の1本だ。予期せぬ出会いの幸せを噛みしめる…。

新たな注目監督の登場か!? との興奮を抑えつつ宿に戻って確認してみると、監督のMalgorzata Szumowskaさん(女性)は73年生まれの中堅で、新人ではなかった。確かに、新人だとしたら上手過ぎる。そしてどうやら、僕は彼女の過去作を2本見ていたらしい(鑑賞記録に残っていた)。そんなことは本作を見る前に気付いておけよ、ということなのだけれど、記憶を掘り起こしてみてもそれほど印象に残ることのない作品だったので、本作で一皮むけたのだろうか? とにかく、今後の動向が気になる監督となったことは間違いない。是非トーキョーでも紹介したい!

本日は23時台に宿に戻れたので、ゆっくりブログを書いても、まだ1時。しっかり寝て、あと2日のベルリンを元気に乗り切ろう。
《矢田部吉彦》

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