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【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 Day7

17日、火曜日。不思議な勢いで毎日がどんどん過ぎて行く。映画祭も折り返し、気合を入れ直して行こう! というわけで、今朝も6時半起床、朝食をコーヒーで流し込んで、7時20分に出発。

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"Paterson" Jim Jarmusch "Paterson" Jim Jarmusch
17日、火曜日。不思議な勢いで毎日がどんどん過ぎて行く。映画祭も折り返し、気合を入れ直して行こう! というわけで、今朝も6時半起床、朝食をコーヒーで流し込んで、7時20分に出発。

8時半からのコンペで、ペドロ・アルモドバル監督新作の『Julieta』へ。もともと僕は、数本を除いて、アルモドバルの作る物語にあまり興味を持てないことが多く、そういうときは色彩や個性的な画面作りをモダンアートを眺めるように楽しむことにしているのだけど、今作も僕にとってはそのパターンだったみたい。

中年女性のフリエタが、長年音信不通状態にある娘との関係を振り返っていくもの。どうにも締まりの無い話だなあと嘆息しつつ(いや、失礼)、モダンな美術やカラフルな衣装を堪能。ネガティヴな書き方で気が引けるけど、決して嫌いなわけでは無くて、何も物語に感動するだけが映画の楽しみ方ではないはず。こういう付き合い方をする監督もいるということで許されたい…。

11時から「ある視点」部門のフランス映画で『The Stopover』という作品へ。中東の戦争に参加したフランス軍の部隊が任務を終え、故郷に帰る前に極度のストレスをいったん緩和すべく、キプロス島のリゾートホテルで3日間のカウンセリングを含む休養を取る物語。設定が新鮮なので、序盤はかなりの期待を持たせるスタートだったのだけれども、途中から失速してしまった。残念。

続いて別会場にダッシュして、13時からジム・ジャームッシュの新作『Paterson』へ。表現の斬新さや感動の大きさを競い合う、何かと騒がしい作品が多いカンヌの中で、『Paterson』はまるで穏やかな春の風のように心地良く、静かな傑作だった!

舞台はニュージャージー州のパターソンという町で、主人公は町と同じパターソンという名を持つバスの運転手の男性。詩を愛し、日々ノートに詩を書いている。そして家には、少し変わっているけどとても愛すべき妻がいる。そんな二人の一週間が描かれる中、パターソンの詩が絶妙な形で挿入され、淡々とした日常を美しく彩っていく…。全体を貫く落ち着いたトーン、しかし静かに胸が躍るようなオフビートなセンスは健在で、90年代初頭のジャームッシュや、同時期のカウリスマキ作品を見ていた頃の感覚が蘇る思いがする。63歳になったジャームッシュ、まさに熟成のタッチだ。

主演のアダム・ドライバーがジャームッシュ世界にぴったりとはまって最高。そして、『ミステリー・トレイン』以来となる永瀬正敏さんが、出番は短いものの、とても重要な役を完璧に演じて素晴らしい。

個人的には『ナイト・オン・ザ・プラネット』以降で最も好きなジャームッシュとなった作品の感動の余韻に浸っていたかったのだけど、そういうわけにもいかず、続いてまたダッシュして別会場へ。16時から、現在最もカンヌで評判になっている(数日前のブログで業界誌の星取表の点数が非常に高いと書いた)、ドイツのマーレン・アーデ監督『Toni Erdmann』! 評判の高さに比例して、人が殺到していたのだけれど、何とか滑り込んで席を確保。

いやあ、評判にたがわず面白い。職は無く、大して面白くもないジョークを仕掛けるのが好きな父親と、経営コンサルティング業務に精を出すキャリアウーマンの娘との交流を描くドラマ。重要な商談を前にプレッシャーに負けそうになっている娘に対し、そもそも離れて暮らしている父親が無神経な介入をしてくることで事態が混乱していく…、という内容で、親子の繊細な感情のつながりを考察するアート映画でありつつ、随所で爆笑必至というコメディーでもあるという離れ業。なるほどこれは上手い! 僕も後半は笑い過ぎて咳き込んでしまった。

脚本のキャラクター設定が絶妙に上手いのももちろんだけれども、とにかく主演の父と娘を演じる役者が素晴らしい。優しいのかバカなのか判断しかねる父親と、キャリアのピンチに立たされて戸惑う娘のアンサンブルは完璧で、これは主演男優と主演女優のダブル受賞を狙えるのではないかな?

『Toni Erdmann』は3時間近い長尺で、終わって19時。続いて20時から「監督週間」部門のフランス映画『French Tour』へ。それなりに売れているアラブ系のラップ青年と、ジェラール・ドゥパルデュー扮する偏屈な老人が、ひょんなことから旅を共にすることになる物語。出会うはずの無かった2人が、人種や世代のギャップを乗り越えて、次第に絆を深めていく展開が心地よく、こういう作品を嫌いになるのは難しい。『最強のふたり』のパターン、ですな。

最後は22時半から「批評家週間」のアフガニスタンの女性監督による『Wolf and Sheep』という作品へ。

ホテルに戻って0時。今日は上映のはしご続きで、列にも並ばなければならなかったからか、7時の朝食から一滴の水も飲んでいない(もちろん食べてもいない)ことに気付き、ああこんなことではいけない。買い置きのパンを齧り、ビールを飲みながらこれを書き(失礼)、本日もそろそろダウンです。
《矢田部吉彦》

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