【MOVIEブログ最終回】映画が全てではない

業界人ブログが今月にて終了ということで最後の投稿。

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自分史上一番お気に入りのプレス。『ノルウェイの森』でLPジャケット風にして、トラン・アン・ユン監督のサインをもらった自慢の一品
  • 自分史上一番お気に入りのプレス。『ノルウェイの森』でLPジャケット風にして、トラン・アン・ユン監督のサインをもらった自慢の一品
  • 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマーティーがドクに渡していた手紙のレプリカ。僕の青春映画でした
  • 試写会への応募ハガキに書いてあったブログへのコメント。人生初のファンレターとして大事に取ってあります

東京国際映画祭(東宝から出向)の菊地です。
業界人ブログが今月にて終了ということで最後の投稿。

2006年の8月からやらせてもらっていて、約15年半、我ながらよくやってきたなと。この間東宝・宣伝部→国際部→東宝東和→東京国際映画祭と渡り歩いてきて自分の人生にも色々あった。改めてこれまでの原稿(一旦WORDに起こしてから投稿していたので、テキストは全て残っていて全577頁)を読み返してみたら、これまた我ながら面白かった。まるで映画のようではないかと。笑
シネマカフェのみなさん、ここまで本当にありがとうございました。

一番最初の投稿で「映画のヒットを目指す現場では様々な心のヒットも残ります」というようなことを書いていて、確かにこの15年半で心にヒットしたことは枚挙にいとまがない。映画の現場はそれほどまでにドラマに溢れている。ここで書けることと書けないこともあり、全部を披露できたわけではないが、映画が好きでそれを仕事にしてそれを誰よりも楽しんでいるということだけは伝えられたんじゃないかと思っている。いやはや、好きなことを仕事にするのはやっぱり楽しいのだ。

でも、これで最後になるので、当時は書ききれなかった心のヒットを少しだけお伝えしたいと思う。長くなるけど、最後ということで読んでもらえたら嬉しいです。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマーティーがドクに渡していた手紙のレプリカ。僕の青春映画でした

まずは『座頭市 THE LAST』(2010年)から。香取慎吾さん主演で阪本順治監督だったんだけど、この作品の宣伝では香取さんと阪本監督に多大な協力を得て、日本全国にキャンペーン行脚をさせてもらった。香取さんと阪本監督の舞台挨拶付き試写会を各地でやって、確かその動員数は1万人近いものになっていた気がする。そんなキャンペーンの中で阪本監督が言ってくれた一言で未だに鮮明に記憶に刻まれているものがある。それは監督が某雑誌の取材中に言ってくれた一言で

「自分が撮った映画を宣伝部に育ててもらってお客さんに届けてもらう」

という一言だった。それまで、宣伝の仕事は自分の天職だと思いつつも、現場で監督・キャスト・スタッフの方々が文字通り精魂込めて作り上げたものを、宣伝という名目で映画の顔となるポスターを作ったり、宣伝のためのキャッチコピーをつけたり、本編を切り刻んで予告編を作ったりしていたことに実は後ろめたさも感じていて、こんな普通の4大卒の、それなりに映画愛はあるものの、映画の何たるかに関しては監督やスタッフの皆さんの足元にも及ばないような、いわゆる普通のサラリーマンがこんなに映画をいじってしまってもいいんだろうか? という思いがあった。阪本監督は武骨なイメージもあって当初は緊張もしていたのだが、撮影現場や取材現場を見ている内に本当に優しい人ってのはこういう人なんだろうなぁと思うことが多々あり心酔していたので、そんな監督からこんな優しい言葉がこっちに向かって出てきて思わず涙が溢れそうになった。それまで逆のことを言われることはあっても、こんな「育ててくれる」なんて言葉を言ってくれた監督は阪本順治監督しかいない。普通のサラリーマンでもこの人のためなら何でもやってやろうと思った。

僕がこの仕事で落涙したのは全部で4回。そのうち最も泣いたのが『ガチ☆ボーイ』(2008年)の初日。この作品は寝るとその日の記憶を失くしてしまう青年が学生プロレスにハマって、頭は忘れても体が覚えていて、そこから生きる実感を味わっていく青春映画(傑作!)なんだけど、監督・キャスト・スタッフがほぼ20代で若くて、もう映画の製作現場自体が青春そのものだった。その中に僕自身も宣伝スタッフとしてがっつり中に入らせてもらって、僕は僕で宣伝に心血を注いで、少し遅めの青春を味わった。主演の佐藤隆太くんとは公開前の一か月はまるで家族のように共に時間を過ごし宣伝キャンペーンに邁進した。あんなに濃密な公開までの時間を持てたのは後にも先にもこの作品しかない。でも、映画の神様は気まぐれなもので、この作品には微笑んでくれなかった。映画は初日に大体ヒットかどうかがわかってしまうのだが、『ガチ☆ボーイ』はそういう意味では惨敗だった。初日にそろった隆太くんや向井理さんや宮川大輔さんたちにも本当に申し訳なくて、でもこの作品が本当に好きで好きで仕方がなくて、初日の打ち上げで宣伝部から一言といわれマイクを持った時にはもう全然言葉が出てこなくて、涙しか出なかったという。いま思うとそれも青春だったなぁと思っちゃうけど、その時は本気で泣いていて、とにかく感謝したかったんだと思う。あれは泣いた。でも、この涙のおかげで隆太くんには最高の宣伝マンと言われ、その後も普通に飲みに行くような仲になれた。映画の神様も少しはもらい泣きしてくれたようだ。

試写会への応募ハガキに書いてあったブログへのコメント。人生初のファンレターとして大事に取ってあります

宣伝部時代に最後に担当したのが『神様のカルテ2』(2014年)。櫻井翔さん扮する内科医が友人・家族・仕事のはざまで揺れ動く姿を描いた感動作で、この主人公には出産を控えた奥さんがいるという設定だったんだけど、この状況が実は当時の自分と全く重なっていて、この映画の公開は3月で僕の妻の出産予定は4月だった。それまでは映画の仕事と自分事を結びつけることはあまりしていなかったんだけど、この時ばかりはそうもいかなくて、これは俺の映画だと思って最後の宣伝作品に臨んでた。映画の中で主人公が「狂っていると思わないか? そうやってお前がずっと病院にいるってことは、その間ずっと家族のそばにいられないってことだ」と言われるシーンがあって、自分もいま仕事で忙しくしているけど、もし妻に何かあったらどうするんだ? という思いがあって、ここは本当にズシンときてしまった。映画の中で主人公はそれで大いに揺れるんだけど、でも僕の場合はすでにその答えは見えていた。前年に40歳で結婚して初めての子どもに恵まれて、いままでいろんな映画や映画の仕事で感動を味わってはきたけれど、自分の人生で自分の家族が生まれるほどの感動にはかなわない。絶対に。そう思っていたから、仕事か? 家族か? と言われたら迷わず家族を取ることに決めていた。そして、映画の公開後に無事に長男が生まれた。映画のラストシーンは主人公が出産している妻のもとに走っていくシーンで光に溢れて終わる。それを観たときに思った。あぁ俺の息子もお母さんのお腹の中からこうして光に溢れて生まれてくるんだろうなぁと。そして、その瞬間をちゃんと見届けて見守ってやろうと。これは本当に自分の映画だなと思った。人生を変えてくれた1本だった。

ほかにも宣伝マンキャリアの中で唯一手を挙げて担当をもぎ取った『ノルウェイの森』で歩いたヴェネチア国際映画祭のレッドカーペットや国際部時代に『君の名は。』(2016年)で新海誠監督とスペインのサン・セバスティアン国際映画祭、フランスのパリ、中国の北京に行ったワールドキャンペーンも本当に楽しかったし、東宝東和時代に行ったカンヌでの初めての洋画の買い付けも刺激的だった。そして、いまは念願の地でもあった東京国際映画祭に来られて、これまでのキャリアを総動員する形で映画祭の仕事に勤しんでいる。映画祭の仕事は映画の作品の仕事以上に世界中の様々な人たちと関わりあうので、これがまた最高に楽しいし、仕事の「意義」を感じている。映画祭では映画が生まれ変わっていく姿を見られるのだ。48歳にしてこんなにも仕事を楽しめるなんて思ってもみなかった。やっぱり映画は最高だ。映画好きのみなさんに少しでもこの思いを伝えていられたら嬉しい。でも、逆説的になるけど、最後にみなさんにお伝えしたいのは、映画が全てではないということ。映画は本当に最高だし、自分がそれを仕事にできていることにも本当に感謝して感動もしているけど、当たり前なんだけど、映画以外にも面白いことはたくさんある。もっと極論してしまえば、映画は所詮どこかの誰かが作った作り物でしかない。もちろんだからこそ普段見ることのできない素晴らしい世界を垣間見ることができるんだけれども、やっぱり自分の人生で味わう本物の感動の方こそ大事にするべきで、そういう感動で自分の人生を映画のようにして欲しい。人生はそのくらいカラフルなものだと思う。

濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞国際長編映画賞受賞! のニュースが飛び込んできた。おめでとうございます! う~ん、眩しい、眩しすぎる。人生は本当にカラフルだ。

本当はもっともっともっと、それこそ映画のフィルムに焼き付けられた光の粒子のように溢れているんだけど、それはまた別のお話ということで、機会があれば今後ここのコラムやnoteなどのSNSで書いていこうと思う。

『神様のカルテ2』の時に生まれた長男も間もなく8歳で、その後に生まれてきてくれた3歳の次男と優しいママと山と海に囲まれた地で賑やかな生活をしている。先週家族4人で『SING/シング:ネクストステージ』を観て、親は泣いて子どもは笑った。いま我が家ではシングの熱唱大会が行われている。

ねぇ、やっぱり人生って楽しいんですよ。

《text:Yusuke Kikuchi》

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