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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』に見る現代ノワールの新たな可能性

公開から一か月を過ぎたタイミングで公開館を拡大するほどの人気の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。この映画を見ると、ノワールの文脈を感じ取っている人をよく見る。

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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』 ©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
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公開から一か月を過ぎたタイミングで公開館を拡大するほどの人気の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。この映画を見ると、ノワールの文脈を感じ取っている人をよく見る。

映画自体は、血液銀行に勤める水木が、取引先である龍賀製薬の当主・時貞が亡くなったことで自分と懇意の現社長・克典が当主になると考え、自身の出世に有利と龍賀一族の住む哭倉村に向かうところから始まる。

何かの事件をきっかけに、ある人物が日本の田舎の閉塞した村の有力者の家を訪れ、そこで事件の謎を解くという物語は、多くの人が指摘するように、横溝正史の作品を思い起こさせる。しかし実は、昨今の日本の映画、特にテレビドラマのシリーズが映画化したような作品は、このスタイルの作品が非常に多いのだ。

『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(2022年)は、シャーロックシリーズをモチーフにしながらも、不気味な島(愛媛県がロケ地であった)の華麗な一族をめぐる事件を、ディーン・フジオカ演じる犯罪捜査コンサルタント・誉獅子雄と岩田剛典演じる精神科医・若宮潤一が解く。

『七人の秘書 THE MOVIE』(2023年)も、信州一帯を牛耳る九十九ファミリーの謎を秘書たちが解くために信州を訪れるし、映画『ミステリと言う勿れ』(2023年)もまた、大学生の久能整が訪れた広島で、とある一族の遺産相続争いに巻き込まれ、その謎を解くというものになっている。

『ゲゲゲの謎』も、上記のような、現在の日本の映画の中で最もオーソドックスで、観客にも馴染のあるスタイルをとりながら、ノワールの要素や、男同士のバディや友情の要素とうまく融合させている。

そのバディというのが、先述の水木と、妻を探して哭倉村にたどり着いたゲゲ郎の二人である。ふたりの出会いは、村で起こった殺人事件の犯人と目されて首をはねられそうになったゲゲ郎を、水木が助けるというシーンではあったが、その後、ゲゲ郎の見張りを命じられた水木は、ゲゲ郎をそこまで信頼してはいなかった。だから、ゲゲ郎に「ひとつ煙草をくれないか」と言われても、水木はそれを簡単に断ってしまう。

しかし、しばらくして二人が自身の話をぽつりぽつりと話して信頼ができたとき、初めて水木はゲゲ郎に自分の吸っていたタバコを差し出すのである。タバコが関係性の変化を示す映画は数多いが、この映画では、克典から水木が差し出される葉巻に咳き込み、なんら信頼関係が築かれないというシーンとの対比が面白かった。

一度は窮地に陥った水木が、遅すぎるタイミングでゲゲ郎を助けにいくシーンも、ノワールのお約束だろう。また、水木が最終的に戦後の日本で負け犬にならないために憧れ、取り入ろうと考えていた龍賀時貞の考え…つまり富を得て映画の中の言葉を借りるならばいい女を手に入れるということ…を水木が「つまんねえ」と言い捨てるシーンもあった。最初は考え方の違っているように見えたふたりが、次第に共鳴できるようになるということもノワールの重要な点であると考えている。

しかし、『ゲゲゲの謎』を見返して見ると、そのようなノワール的な男同士の絆を描くシーンは、そこまで多くはないようにも思えた。しかし、別の要素でも昨今のノワール、特に韓国ノワールとの共通点が見いだせるのだ。

昨今の韓国のノワールは、軍事政権から民主化までの過程や、日本統治時代のことなどを振り返るものが多い。『ゲゲゲの謎』も、戦争の記憶、過去の振り返りたくない過ちの記憶から目を背けずに振り返っているところにも、昨今多くみかける韓国ノワールとの共通点が感じられる部分だ。

日本統治時代の映画では、戦争による恩恵を受けたものは、自然と家父長制と深くつながっていることは多い。なぜなら、子孫を産み、家を存続させることが、一族の繁栄につながるからだ。その家父長制によって縛られ、犠牲となるのは、やはり若い女性になる。

2015年の韓国映画『暗殺』には、戦争中に日本軍に取り入った実業家のカン・イングク(イ・ギョンヨン)が、双子の娘を生んだ妻と、大きくなった双子の娘のうちの一人をいとも簡単に殺害し、その理由を「家のためだ」と言い訳する場面がある。『ゲゲゲの謎』でも、戦争によって私腹を肥やした龍賀家の当主・時貞もまた、娘や息子はもちろんのこと、まだ子供である孫の時弥や沙代のことを人間とも思っていない様子が描かれる。時貞もまた、それは龍賀という家のためと考えている。

しかも、カン・イングクも時貞も、窮地に陥ると、それは家を守るためで仕方がなかったのだと、自分を弱いものに見せようと言い訳をするところまでそっくりであった。

『暗殺』や『ゲゲゲの謎』を見ると、戦争が家父長制とつながっていて、当の家父長は、「家のため」と言いながら、実際には自分のエゴのために行動していて、家を存続させるために「母」となる女性たちのことを、まったく尊重する気がない使い捨てのコマとしか思っていないことを意識させられる。

『暗殺』で戦争や家父長制に翻弄されているのは実業家の娘であったし、『ゲゲゲの謎』では当主の孫の沙代であった。沙代は、東京からやってきた水木ならここから一緒に連れ出してくれるかもという気持ちもあり、彼に恋心のようなものを抱くが、結局、一緒にこの村を出るという願いはかなわなかった。

それは、彼女が異様な村で過ごす中で、闇落ちし、妖怪の魂と結びついていわばヴィラン化したためであるが、映画を見ている限り、彼女がヴィラン化しても仕方のないと思える状況にあったと思う。

この作品を見て、戦争や家父長制の無意味さがしみじみと感じられ、しかも水木とゲゲ郎のバディに心を揺さぶられたは事実であるが、昨今のノワールでは、沙代自身が家のしがらみを絶つという物語も十分に作り得るはずだという思いもよぎってしまった。

もちろん、女性が犠牲となり、それが現代社会の歪さや限界を表しているのだというノワールというのもあるにはあった、というかかつてはそれが主流であったのかもしれない。しかし、ノワールは日々、進化しているものである。戦争に翻弄させられた水木と、家父長制に翻弄させられた沙代は、シンパシーを感じられるはずであるし、もし次回のシリーズが作られるのであれば、沙代やゲゲ郎の妻のような登場人物が自らの力で、そこから逃げ出せるような力強さも感じられるものも描けるのではないかとも思うのだ。


《西森路代》

西森路代

ライター。アジアのエンターテイメントについてのコラムや、映画やドラマに関するインタビューなどを中心に執筆。近著に『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(共著・駒草出版)、『韓国ノワール その激情と成熟』(Pヴァイン)がある。

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