激突!2つの魂&コンプレックス 『苦役列車』森山未來×高良健吾インタビュー

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『苦役列車』森山未來×高良健吾 photo:Yoshio Kumagai
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Sのように見えて、“俳優SM度”を判定したら間違いなくドMの部類に入る2人である。昨年、話題をさらった『モテキ』でドラマに続いて観る者の心が折れそうになるくらい痛々しい中二病の主人公を熱演した森山未來に、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『白夜行』『軽蔑』とその生々しい存在感で現世の闇とも言うべき作品の世界観を体現してきた高良健吾。そんな2人が共演するのにこれ以上ふさわしい映画があるだろうか? 現代の稀少な無頼派作家として注目を浴びる西村賢太の芥川賞受賞作を映画化した『苦役列車』で若き2つの才能が激突した。西村氏が「一人の落伍者の内面描写が眼目」と語った本作。映画で描かれる80年代の半ばに生を享けた2人はどのように挑んだのか? 公開を前に話を聞いた。

三畳一間の風呂なしトイレ共同のアパート暮らしを実践

映画は19歳にして日雇い労働で日々を営み、酒と風俗と読書だけが楽しみという主人公・貫多のひねくれた青春を描き出す。森山さんの出演が報じられたとき、多くのメディアで「森山未來、『モテキ』に続いて再びダメ男役!」という文字が躍った。森山さん自身、当時、貫多のことを“ダメ男”と表現したことを認めつつ、実際に演じてみて「『モテキ』と比べると貫多はもっとたくましさがありましたね。“いい意味で捉えるなら”という注釈は付きますが…(笑)」と違った感慨を覚えたと語る。その上で、最初にこの役のオファーが届いたときの苦悩をこう明かす。
「体のトレーニングもしないでダラダラと過ごす。『苦役』撮影中は絶対にそんな生活になるのが目に見えていたので。大変な役どころだなぁと」。

その言葉通り、森山さんは撮影の間中、貫多が暮らすような三畳一間の風呂なしトイレ共同のアパートを新宿に借り、まさに貫多になりきった生活を送りながら現場に通うという日々を送った。
「毎日のように、仕事が終わったらスタッフさんと飲みに行く、ということが習慣化してましたね(笑)」。

高良さんはそんな森山さんを中心にした現場の雰囲気をこう評する。
「森山さんが前日のお酒で顔をむくませて現場に来ると、スタッフ全員が『すごいぞ』と褒める(笑)。むくみが取れないうちに『早く撮影しよう!』となる。いい現場だなってしみじみと感じてました」。

共感や親近感という言葉で語るにはあまりにも強烈かつエキセントリックな貫多のパーソナリティ。だが、貫多が抱える劣等感やその裏返しとも言える自我の強さに関しては、誰もが自らと重なる思いを抱くのではないだろうか? 「それはいまでもありますよ、僕は」と高良さん。
「些細なことで他人にコンプレックス持ったりします。それでもいまは前向きに『精一杯やってるのだから』と思えるようになりました。(自身が演じた)正二に関しても、専門学校に通っても楽しくなくて貫多とつるんで、でも段々と学校の友人もできて貫多から離れていく…という流れが、自分の東京に出てきたときの気持ちと重なるところがありました。東京に出てきたときはうまくいかないとすべてを東京のせいにしてましたね。『東京の水は…、人ごみは…、満員電車は…って。でもそう思ってる自分も東京の一部なんですよね」。

森山さんも「『東京のソバは…』とかね(笑)。おれも『絶対関西弁のままで行ったるねん』とか考えて気負ってたよ」と頷き、こう続ける。
「そういう気負いがない人はいないと思うし、年齢を重ねていく中でそうした感情を押し殺すか、それが自分だと受け入れるか、それを自分の“武器”とするのか何かしらの対処をするしかない。それは誰にでも付きまとう話だと思いますね」。

原作者の西村氏はまさにそれを抱えたまま四十になって、自らの分身の貫多としてそれをさらけ出しながら勝負していると言える。
「『俺には“何もない”がある』というのがこの映画のコピーだけど、あそこまで勇気持って立てるのは、やっぱりすごいと思いますね。その自信はどこから来るんだろう? 何でそんなに堂々と地に足をつけていられるの? って。昭和の人と人のコミュニケーションが密だった頃だからこそ生まれているエネルギーもあるし、バブルのしわ寄せを食らってあの三畳一間に暮らすしかない貫多の『なにくそ』っていうエネルギーもある。貫太に限らずどこか世間から逸脱した人たちばかりが出てくるから、それを笑いつつ、見ているうちに、どこか自分のことを言われているような気持ちになって、笑えなくなってくれたら面白いですね」(森山)

2人が芝居できちんと絡むのは本作が初めて。初共演はNHKのドラマ「刑事の現場」。そのときは森山さんが刑事、高良さんが容疑者役だった。あれから5年が経ち、森山さんは今回初めて全編を通してガッチリと高良さんと共演しての感想をこう語る。
「5年前の共演では一瞬だったんです。役の関係性もあってほとんど言葉を交わすことがなかった。そのときはすごく硬質な役者さんだなという印象で、もう一回ちゃんとやりたいなと思ってましたね。友人のダンサーが、たまたま高良くんに振り付けを教える機会があって、『あいつは面白い』と言ってたので、すごく楽しみにして現場に行ったら、やっぱり面白かった」。

ぶつかりあう、魂と自我とコンプレックス

高良さんはこれまでも様々な作品で同世代、そして少し年上の俳優たちとタッグを組んできたが、森山さんからは特別なものを感じたと明かす。
「クランクイン前にスタッフから『森山さんの役作りは凄まじい』と聞いていました。実際に、現場での佇まいや役を離れたときの在り方がいままでに会ったことのないタイプの方でした。それを言葉で表現することはできないんですが…。でも一緒にいて自分の中で『あぁ、よかった』と思える言葉や感情をいくつももらいました。確実に影響を受けましたし、おかげで芝居がすごく楽しいんです。色々な作品に出させてもらってインタビューも増えて、普段、言葉にしていないことをうまく表現するにはどうしたらよいかと考えたりすることが多かったんですが、ふと『そうだ、まずは(芝居を)ちゃんとやってればいいんだ』と再認識しました。森山さんと会って、『苦役』を経験して、スッと背中を押してもらったような気がしてます」。

2人も間違いなく西村賢太と同様に己をさらけ出しながら歩を進めていく俳優である。2つの魂と自我とコンプレックスがぶつかり合う音に耳を傾けてほしい。

《photo:Yoshio Kumagai / text:Naoki Kurozu》

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