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映画で感じて ファッションの秋Vol.1 『ファッションが教えてくれること』

一糸乱れぬおかっぱヘアに、大ぶりのサングラス。身体に沿ったタイトスカート。コレクションのフロントロー。ファッションに興味がある人なら、このヒントを得ただけで、自動的に、米「ヴォーグ」誌の鬼編集長アナ・ウィンターを思い浮かべることでしょう。

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『ファッションが教えてくれること』 -(C) 2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc.All rights Reserved
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一糸乱れぬおかっぱヘアに、大ぶりのサングラス。身体に沿ったタイトスカート。コレクションのフロントロー。ファッションに興味がある人なら、このヒントを得ただけで、自動的に、米「ヴォーグ」誌の鬼編集長アナ・ウィンターを思い浮かべることでしょう。

“氷の女王”、“ドレスを着たダース・ベイダー”。そんな異名をとるのも、妥協を許さない徹底したプロ意識と底知れぬ影響力ゆえ。まだ駆け出しのマーク・ジェイコブスをルイ・ヴィトンの、ジョン・ガリアーノをディオールのクリエイティブ・ディレクターに推し、大成功に導いたのも彼女。一度、大金をかけて行った撮影でも、不要と思えばその写真は潔くボツにする。ミラノコレクションの最中、彼女が一度アメリカに帰国したいと言い出したせいで、コレクションの間に、彼女にどうしても新作を見てもらいたい主要デザイナーたちがショーの日程を急遽変更。コレクションが大混乱した。スタッフの仕事ぶりに不満な際は徹底的に打ちのめす。など、武勇伝は尽きません。

11月のコラムは、ファッションの秋を感じていただくために、ファッショナブルな映画をご紹介しています。第一回目は、このアナ・ウィンターと彼女の仕事ぶりを追った映画です。映画『プラダを着た悪魔』で、メリル・ストリープが演じた編集長は彼女がモデルだと言われるけれど、「本当にこんな人なんているの?」「女性誌の編集部の実情は?」と興味をそそられた方には、ぜひ観てほしいのがこのドキュメンタリー映画『ファッションが教えてくれること』。いままで、誰も足を踏み入れることができなかった“禁断”の米「ヴォーグ」編集部に入り込み、アナ・ウィンターに密着。その密着度は、300時間以上、約9か月に及んでいるのですから、そそられた好奇心を満たすには十分です。

気になる中身は…とにかく面白い! それが、ファッション業界の流行が生まれる現場であり、現実だから。撮影が始まったのは2007年ですから、移り変わりの早いファッション業界ゆえ流行についてはさて置いても、仕事にまつわる緊張感、緊迫感、絶望感に高揚感、その臨場感には圧倒されるほど。誰もが知りたかった世界、プロとしての真髄を映し出しているのですから、面白くないわけがないのです。

アナについて少し。1970年にロンドンでハーパース&クイーンのファッション局からキャリアをスタート。6年後にはニューヨークに拠点を移し、「ハーパース・バザー」誌、「ニューヨーク」誌などを経て、「ヴォーグ」誌に。36歳で英国版、38歳で米国版の編集長になり、低迷していた「ヴォーグ」に新風を吹き込み、世界で最も影響力の大きい女性誌に育てあげたのです。そして、自分自身も世界で最も影響力のある女性のひとりにのぼりつめたのです。

撮影当時57歳。編集費は2億円とか、それにプラスして自由に使っていい年間のおこづかい(経費?)2,000万円も支給されているとか、ゴージャスすぎる噂も。一流デザイナーたちも、彼女の反応を最も気にし、その鋭い視点と感性、的確な時代感覚に頼り、発表前の作品をチェックしてもらう様子まで捉えたこの作品は、ファッション業界の内幕ものの領域を超えています。もちろん、まばゆいばかりの服、靴、バッグなどに彩られた華やかな業界ですから、ファッションを見る、コーディネートを学ぶ意味でも大いに役立ってくれるでしょう。でも、これは、ファッションをフィルターにして、一人の社会的成功者の素顔、仕事ぶり、人生観、プライベートまでを赤裸々にした興味深い人物伝。自らの強みを「決断力」と語ったアナからは、運や個人的感情に頼らない仕事への真摯な態度がうかがえます。アナの一言で全てが覆り、編集部が上へ下への大騒ぎになる。へとへとになり、腹を立て、困惑するスタッフたちの姿はまさに最前線そのもの。アナのやり方が、全ての業界、全ての会社、全ての人にベストだとは思わないけれど、自分らしいやり方で成功を手にしてきた彼女の姿を見ていてかなり刺激を受けたのは事実。そして、どこかすがすがしいのです。

耳にしていたよりも、ずっと人間臭くて魅力的だったアナ・ウィンター。その知られざる素顔を知ることのできる貴重な映像の数々が目白押しですが、これが実現できたのも、そろそろアナが引退を考えているからとか。気になります。彼女が引退すれば、ここで一気に業界内の勢力図が書き換えられるはずですから。

日本語タイトルは『ファッションが教えてくれること』、原題はファッション誌で最も重要とされる“9月号”を指す「The September Issue」。でも、内容を表すとしたら「アナが教えてくれること」かな。ファッションに興味がある人はもちろん、仕事で悩んでいる人も、大いに勇気をもらえるはず。仕事の厳しさをまだ知らない学生や、編集やファッションの世界に憧れている若い世代にもきっと、良い指標となる作品に違いありません。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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