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【シネマモード】日本の「家族」を感じる映画vol.2 『宇宙兄弟』×兄弟の関係

正直に言えば、アポちゃん見たさでした。映画『宇宙兄弟』の原作漫画を手に取ったのは、主人公の一人が飼う犬、パグのアポちゃん見たさ。かなり面白い物語であるという話は聞いていたのですが、要するに初めの期待値はそんなものだったのでした。ところが、いまではすっかりハマってしまいました。先に宇宙飛行士になった弟・ヒビトと、かつての夢を思い出し、弟の背中を追いかけ始めた兄・ムッタの物語は、JAXAやらNASAやら、月面やらが舞台になり、頭脳明晰な人物たちが登場しているにもかかわらず、どこかオフビートでゆるい。でもそれなのに、時折、涙すらこぼれるほどにジーンとくるような感動を覚える始末。その緩急のバランスが絶妙で、心をわしづかみにしてくれるのです。

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『宇宙兄弟』 -(C) 2012「宇宙兄弟」製作委員会
『宇宙兄弟』 -(C) 2012「宇宙兄弟」製作委員会
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正直に言えば、アポちゃん見たさでした。映画『宇宙兄弟』の原作漫画を手に取ったのは、主人公の一人が飼う犬、パグのアポちゃん見たさ。かなり面白い物語であるという話は聞いていたのですが、要するに初めの期待値はそんなものだったのでした。ところが、いまではすっかりハマってしまいました。先に宇宙飛行士になった弟・ヒビトと、かつての夢を思い出し、弟の背中を追いかけ始めた兄・ムッタの物語は、JAXAやらNASAやら、月面やらが舞台になり、頭脳明晰な人物たちが登場しているにもかかわらず、どこかオフビートでゆるい。でもそれなのに、時折、涙すらこぼれるほどにジーンとくるような感動を覚える始末。その緩急のバランスが絶妙で、心をわしづかみにしてくれるのです。

物語の中心となるのが、兄弟の関係性。2人は、仲の良い兄弟であり、最良のライバルです。子供の頃から宇宙好きで、幼いころに「二人で宇宙飛行士になろう、二人で一緒に宇宙に行こう!」と誓ったため、先に夢を果たした弟は、いつしかその夢を忘れた兄が、自分を追いかけてくるのを静かに待っているのです。

印象としては、デキの良い弟と、いつも一歩先を越されるダメな兄という間柄の2人。実はムッタもなかなかの逸材であることが追って明らかになるのですが、どこか抜けている印象を与えるので、他人はその素晴らしさに気づきにくいのが特徴です。弟のヒビトが、誰からも愛され、その才能を簡単に認められるタイプであるのに対し、兄のムッタはそばに彼のずばぬけた資質を見抜き、適所に配することができる人物がいてこそ輝く人物と言えるのかもしれません。

こういう兄弟の場合、家庭内もしくは社会でデキの良い弟ばかりが可愛がられ評価されると、兄が横道にそれていく…ということにもなるのでしょうが、この家族の場合、父も母も心に余裕のある人々で、それぞれを個性的に伸び伸びと育てることに成功した模様。そのおかげで、ムッタは弟の陰になって卑屈になることもなく、車業界で生きているのです。家族の関係を物語る、ちょっと面白いエピソードがあるので、ここでご紹介しましょう。ヒビトが大活躍し、メディアにも頻出しているちょうどそのとき、ムッタはある理由から職を失ってしまうのですが、そんな兄に対しても、母は「“働かざる者、食うべからず”が家訓だ」と言って、ホールケーキを父・母・ムッタの家族3人で分けるときにも、薄〜いひと欠片しかあげない始末。とにかく、両親の非情なまでに公正な接し方が微笑ましい。実は案外できないことですよね。つい出来の良い子を引き合いに出し「○○を見習いなさい!」と言ってしまったり、兄弟格差を嘆いて、デキの悪い兄を腫物にでも触るように扱ったりするのがありがちな行為。兄弟だって、個性や才能が違うはずなのに。でもこの一家では、これまでも別段、弟ばかりをひいきするでもなく、兄をなじるわけでも同情するわけでもなく、あくまでも健全に平等に扱ってきたことが伺えるのです。

そんな親に育てられたせいでしょうか。ムッタは、自分とはデキが違う弟に多少の劣等感は覚えながらも、素直に応援し、誇りに思っています。ただ、兄が素直にそう思うことができ、卑屈にならずに済んだのは、両親だけでなく、弟のおかげでもあります。子供の頃から兄を慕い、兄の凄さを一番知っていて、それに疑いを持ったこともない弟の心が、兄を信じ続けているのです。兄に、かつての夢を思い出させ、宇宙飛行士という第二のスタートを切らせるのも弟なら、数々の難関を突破し宇宙飛行士に選ばれると信じている唯一の人物も弟。「兄ちゃんはすごいんだ」と信じて疑わない瞳を前に、兄は常に威厳を保っていられるのです。

先日、とある場所であるこんなサッカー兄弟の話を聞きました。兄である語り手曰く、弟は現在、大学在学中でプロを目指しているのだとか。高校もサッカーの有名校へ通い、中心選手として活躍していたのだと。弟はサッカーをする兄の背中を見て、ボールを追い始めたそうですが、兄は体格に恵まれずある時点でサッカーから引退し、いまは全く別のジャンルで活躍中。ただ、弟にとって兄は永遠の憧れのようで、高校在学中、後輩たちに兄の話をしていたようなのです。それが分かったのは、すでにサッカーを辞めた兄が、弟の高校に練習を見に行ったときのこと。兄がグラウンドに足を踏み入れると、後輩たちがワーッと寄ってきて「○○さんのお兄さんですね!」と目を輝かせたと言います。この話だけで、私はこの兄弟の素敵な関係性が目に見えるような気がしました。いったい、弟はどれだけ兄の自慢をしていたことでしょう。そして、後輩たちはその話にどれだけ胸を躍らせたことでしょう。辿る道は同じでなくても、どちらかが夢へと遠回りしたとしても、こんな絆で結ばれた兄弟がいれば、きっと互いに高め合っていけるはず。この話を聞きながら、良き兄弟、良きライバルであり続ける2人を育てた親御さんの愛情までも、強く感じられました。ちょうど、映画『宇宙兄弟』を観たばかりだった私は、この兄弟にも羨望をしたのを覚えています。

現在、17巻まで出ている原作のすべてを語りきれない映画では、兄弟、家族の素晴らしい関係性に焦点が絞りこまれています。原作ファン、アポちゃんファンとしては、やや物足りない感、ラストの衝撃(なんでこんなところまで描いちゃったの!)など、いろいろ言いたいことはありますが、家族、兄弟の絆の素晴らしさを語るには十分な作品だったと思います。この映画が気に入った方にはぜひ、よりディープな“宇宙兄弟”体験をしていただきたく、原作の大人買いを強くお勧めします。

宇宙飛行士という仕事の裏側、優秀な人物たちのお茶目な一面を覗かせてくれる作品でもあり、全く縁がないと思ってきた世界にも、興味と親しみがぐんと増すこと間違いなし。「キャプテン翼」が、多くのファンタジスタを生み出したように、「宇宙兄弟」もきっと、宇宙に憧れる多くの少年少女を生み出すのではないかと思っています。その中に、ムッタやヒビトのような兄弟・姉妹もいて、家族飛行士が生まれたら…そんなことを考えるのも、なんだか楽しいのです。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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