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【インタビュー】坂井真紀×大森立嗣監督 富士の山頂で探し求めた“答え”

このドラマの出演に、周囲からは心配する声も上がったという。分からなくはない。彼女は一昨年、母になったばかり。そして今回の役柄は、母親にはなったが娘をうまく愛することができず、母親であることを“放棄”してしまい…

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坂井真紀×大森立嗣(監督)/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
坂井真紀×大森立嗣(監督)/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
  • 坂井真紀×大森立嗣(監督)/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
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  • 大森立嗣(監督)/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
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  • 坂井真紀/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
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  • 大森立嗣(監督)/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
  • 大森立嗣(監督)/WOWOW ドラマW「かなたの子」Photo:Naoki Kurozu
このドラマの出演に、周囲からは心配する声も上がったという。分からなくはない。彼女は一昨年、母になったばかり。そして今回の役柄は、母親にはなったが娘をうまく愛することができず、母親であることを“放棄”してしまい、その罪にさいなまれる役。だが、脚本を読んだ坂井真紀は微塵の迷いもなく引き受けた。「日常の中で埋もれてしまっている声を届けたい。女優として常々そう思ってます」――。凛とした口調でそう語り、少し照れくさそうに微笑んだ。

WOWOWの連続ドラマWにて、まもなく放送開始となる「かなたの子」。直木賞作家・角田光代の同名短編小説集を原作に、心に罪と闇を抱えた者たちが、許しと救いを求めるかのように富士山の頂上を目指して歩を進め、自らに向き合っていくさまを描く。メガホンをとったのは『さよなら渓谷』『まほろ駅前多田便利軒』の大森立嗣。坂井さんと大森監督が放送開始を前に本作に込めた思いを語ってくれた。

「通常、フィーチャーされず、主役になりそうもない人、身近で些細なことを表現したい。それが私たちの生活であり、いまこの日本だと思うから」と語る坂井さん。その意味で、本作は「自分自身、こういうドラマがあったらいいなと思える作品」であった。

「自分が母親になったからこそ、(本作で描かれる)こうした問題に対して他人事ではなく、どうにかならないのか? という思いはより一層強く持っていました。『(見る人に)伝われば』という言葉はあまり好きではないんですが、こういうチャンスをいただき、自分が関わる作品で何かを渡すことができたらという思いはありました」。

大森監督が撮影前に日都子(ひとこ)という役について坂井さんに伝えたのは1点。「頭で考え過ぎず、むしろ現場で反応することを大事にしてほしい」ということ。

「日都子が犯した罪を頭で考えて分かるなら、そんなことは起こらない。みんな、ダメだって分かってて、それでも同じことが起きる。日々のニュースを見てると、やはり理屈じゃなくて、社会の道徳や法律では収まらない“何か”が人間にはあって、いまの社会ではなかなか上手にそのことを処理できていないんだなと思う。それはどうしようもなく存在していて、みんな何となく見えないようにやり過ごそうとしてるけど、一度、噴き出したら僕らだって危ないかもしれない。なぜ日都子がそうしなくてはならなかったのか? それを考えることがそうしたことを起こらないようにする一つのきっかけになるのではないかと思った」。

己の罪とどう向き合うか? 重いテーマであり、決して分かりやすい物語ではない。大森監督も確たる“答え”や“結末”を持って撮影に臨んだわけではなかった。

「僕自身、日都子という女性が前を向いて生きていていいのか? と思いながら俳優さんの芝居を見ていました。そこについて誰もハッキリした答えを持っているはずもないですし。僕は、分からないものに向かうことが、本当に生きてるということだと思うんです。いまの時代、そういうことが分からなくなって、みんな“答え”があるものにしか反応しなくなっている。どんなに脚本が詰まっていても、そのセリフに血を注げるのは現場の俳優さんしかいない。このセリフをどう言うのか? どんなふうに感じ、どんな表情を見せるのか? 僕自身がその場で発見していくような感じでした」。

まさにこの「答えがない」という真理が、坂井さんが、罪を背負い、それでも生きる日都子という女性を体現する上で大きなヒントとなった。

「脚本にも書かれているように離婚があって、元旦那は生活費を振り込まないし、彼女自身も母親に愛されなかったという心の傷があって――という分かりやすい意味での事情は確かにある。娘と生きる中で日々の小さな疲れやイライラが積み重なってというのもそうした事情の一つですが、でもそれは言葉にすることができる理屈でしかない。監督が仰るように、そうした理屈は生活の中にありつつも、もっとよく分からないもの、大きな感情がもっと多くを占めているんじゃないか? ハッキリとした理由が分かれば、このドラマはすごく狭い世界になってしまうと思うんです。そうじゃないところで演じなきゃいけないんだと感じていました」。

近年、坂井さんは『ノン子36歳(家事手伝い)』『スープ・オペラ』など30代の独身女性への“応援歌”とも言える作品に主演してきた。本作では、同世代の女性の共感や感情移入のさらに先へ――ある一線を越え、強く深く観る者に問いかける。年齢を重ねる中での役柄の変化、求められることが変わっていくのを自らの歩みや日常と重ね合わせつつ楽しんでいる。

「女優が演じるのは普通の人間なんです。だから、ごく普通の生活を心がけたいというのは20代の頃から思っていたことでした。小さな、些細な衣食住を大切にしていきたいと。それが積み重なって良い意味で引き出しが増えてきたのかな…? それが歳を重ねるってことなのかもしれないですね。自分の中で役に対して『出来そうかな』と思うことが広がっていき、女優というのは年を重ねるごとに楽しい仕事だなと感じています」。

今年43歳。「かわいらしい」としか言い表せない笑みを浮かべつつ、「これからどんな老け方をしていくのかな? と楽しみなんです(笑)。良いしわを刻んでいきたいなって思ってます」と語る。

過酷な富士山での撮影を始め、生で坂井さんの芝居を見続けてきた大森監督は言う。

「こんな顔してるんだ? という表情をいっぱい見せてくれていますよ。それをすごい見せ場のシーンではなく、何でもないふとした場面で見せてくれるのがいいんですよね。いまも編集作業をしながらスタッフと『何だろうね、この顔』『すごいですね、この表情!』って言い合ってます(笑)」。

物語の最後、富士の山頂で朝日は彼女のどのような表情を照らし出すのか? ぜひとも見届けてほしい。
《シネマカフェ編集部》

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