スマホの地図アプリを起動して指差しながら、「ここに行って、ここにも行って…」と一生懸命教えてくれる姿がキュート。その明るさに、こちらまで楽しくなってしまう。そんな彼が誘拐犯を演じ、しかも名演の域に達しているのだから俳優はやはりすごい。「僕はカメラの前まで芝居を取っておくタイプだから。カメラの前以外で役を引きずることはまずないね。撮影以外でも仕事のことを考えてしまうときは、役柄よりも実は作品の質が関係している。そんなときは何とかポジティブになろうとするけど、どうにもならない。でも、それは役者に限らず誰にでもあることだよね。嫌な上司や同僚はどこにでもいるし、仕事が上手くいかないときもある。その点、『スプリット』の場合は脚本も監督も撮影環境も素晴らしかったから、撮影期間中も自分でいられたし、カメラの前では健康的に他人になれた。お金をもらわない限り、わざわざ他人になるのも変な話だしね(笑)」。俳優である自分を潔いほど客観的に捉える彼は、演じることを「特殊で、変わった仕事」と言い表す。「人を形作るものは何か?」の問いと常に向き合うのも、「特殊で、変わった仕事」の一環だ。「『スプリット』を観て、なぜ彼はいくつもの人格から成り立っているのかを考える人は多いと思う。でも、僕は作品に関わる前から、『人を形作るものは何なのか?』『どんな動機や理由が、その人の行動や態度を決めたのか?』を毎日考えてきた。出会う相手や目に留まった人を観察しながらね。いまもすっごく観察している(笑)。それが僕の仕事でもあるから。もちろん一番の役目は物語を伝えることだけど、そういった探求なくして人間を演じることはできない。普通はそんなことばかり考えている時間なんてないだろうに、それが仕事なのだからやっぱり特殊だし、変わってるよ」。人を見透かすような青い瞳で、「すっごく観察している」と言われると照れるやら、『スプリット』の“あの男”の影がちらついて恐ろしくなるやら。でも、仕方がない。探求あってこその俳優ジェームズ・マカヴォイなのだから。
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