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「椿の花咲く頃」ラブコメ×サスペンスに隠された心に沁みるメッセージ

今年5月に授賞式が行われた“韓国のゴールデン・グローブ賞”と呼ばれる第56回百想芸術大賞で、日本でも大ヒット中の「愛の不時着」や「梨泰院クラス」を抑えTV部門の最高賞・大賞を受賞した「椿の花咲く頃」。

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「椿の花咲く頃」Netflixにて配信中
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今年5月に授賞式が行われた“韓国のゴールデン・グローブ賞”と呼ばれる第56回百想芸術大賞で、日本でも大ヒット中の「愛の不時着」や「梨泰院クラス」を抑えTV部門の最高賞・大賞を受賞した「椿の花咲く頃」。

Netflixで配信中の今作は、韓流の“ラブコメ女王”といわれるコン・ヒョジンと映画『ミッドナイト・ランナー』でパク・ソジュンのバディを演じたカン・ハヌルが共演。本国では20%超えの高視聴率を記録し、視聴者から「愛の不時着」「梨泰院クラス」以上の支持を集めたという。

財閥企業は登場せず、海外ロケもなく、今作はまさに真冬に色鮮やかな花を咲かせる「椿」のごとく控えめではあるものの、コロナ禍の日本においても疲弊した心を癒やす温かなドラマとしてハマる人が続出している。

ラブコメ×サスペンス、さらに心に沁みるヒューマンドラマ



元祖K-POPスター、RAIN(ピ)の2003年の初主演ドラマ「サンドゥ、学校へ行こう!」で相手役を務めて一大ブームを巻き起こし、その後も「パスタ~恋が出来るまで~」「最高の愛~恋はドゥグンドゥグン~」「大丈夫、愛だ」などを通じて“ラブコメ女王”と呼ばれるコン・ヒョジン。現在、映画『最も普通の恋愛』が日本公開中の彼女が演じるのは、ある架空の海辺の町<オンサン>に暮らす30代のシングルマザー、ドンベク

この<オンサン>はカンジャンケジャン(カニの醤油漬け)で有名な小さな町で、住民全員が知り合いという横=地域の繋がりも、縦=親子の繋がりもとりわけ濃いコミュニティ。その片隅で「カメリア」(椿の英名)という飲食店を営みながら、未婚のまま8歳の息子ピルグ(キム・ガンフン)を育てるドンベクは、町に来て数年がたってもどこか浮いた存在だ。

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#동백꽃필무렵 “엄마는 용식 아저씨가 나보다 좋아? “

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そんなドンベクに、カン・ハヌル演じる、オンサン育ち、商店街の組合会長トクスン(コ・ドゥシム)の三男坊で警察官のヨンシクがひと目ぼれ。愛情たっぷりに育てられた彼は、超ポジティブ思考で愚直ともいえるほどに思い立ったら一直線、誠実で情に厚く、何度フラれてもドンベクに想いを伝えることをやめない。

「好きなタイプを言ってください、合わせますから」と食い下がるヨンシクに、あきれ気味のドンベクが答えたタイプは “「トッケビ」のコン・ユ”。田舎の朴訥青年がコン・ユに勝てるわけがない…と思いきや、ヨンシクの大らかな優しさと前向きさに、7歳のとき母親に捨てられて以来ずっと孤独で、心を閉ざして生きてきたドンベクは惹かれていくことになる。


そんな2人の可愛らしいほどの素直なラブストーリーに、オンサンの地主だが小心者のギュテ(オ・ジョンセ)や、その妻でソウル大卒の離婚弁護士ジャヨン(ヨム・ヘラン)、ピルグの父親で有名野球選手のジョンリョル(キム・ジソク)、その妻でインフルエンサー気取りのジェシカ(チ・イス)、「カメリア」のアルバイト店員ヒャンミ(ソン・ダムビ)らが関わり、さらに、ドンベクをかつて捨てた母ジョンスク(イ・ジョンウン)までも約30年ぶりに娘の前に現れ、それぞれの物語を織りなしていく。


加えてストーリーのフックとなるのが、“ジョーカー”と呼ばれる謎の連続猟奇殺人犯の存在。5年間沈黙してきた“ジョーカー”が再び動き始めた兆候を見つけたヨンシクは、事件の被害者であり唯一の目撃者でもあったドンベクのことがいっそう心配になる。

毎日身を粉にして働き、自分の店を守りながらピルグを育てるドンベクの日常を、徐々に脅かしていくジョーカー。ヨンシクたち警察が捜査を進める中、やがてジョーカーはドンベクの身近にいる人物であることが分かってくる…。

いったい誰がジョーカーなのか、なぜドンベクを執拗に狙うのか。今作はこうしたサスペンス要素の効かせ方が見事で、悲運に抗いながら真実の愛に出会う女性を主人公にした “韓流あるある”な味付けのラブコメ、だけではないことが大きな特徴。上にあげた登場人物のうち誰がジョーカーでもおかしくないような描き方がなされ、彼らが織りなすサイドストーリーとキャスト陣のアンサンブルが相まって最終話まで飽きさせることなくドラマを牽引する。

ドンベクが自分らしく咲き誇れるようになるまでの物語


脚本を手がけたのは、パク・ソジュン主演「サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~」のイム・サンチュン。同作がラブコメの中に “自分の人生を自分らしく生きる”というテーマをしのばせていたように、ラブコメ、サスペンス、そしてヒューマンドラマとジャンルを行き来する「椿の花咲く頃」には、一人一人、毎日を必死で生きている誰もが愛されるべき特別な存在であり、いとも簡単に奪われてしまう何気ない日常にこそ奇跡が詰まっている、というメッセージが込められている。

「椿の花咲く頃」Netflixにて配信中
ちなみに、「椿」という字には「不意の出来事」という意味があり、ドンベクにとっては不意に訪れたヨンシクとの出会いがまさに奇跡の始まり。今作は、韓国語で「椿」という名前を持つドンベクが心の拠りどころとなる人たちと関係を深めながら、安心して(これが大事)自分らしく咲き誇れるようになるまでの物語でもあるのだ。

主人公を取り巻く母娘関係と女性たちの連帯にも注目


「血は水より濃い」ということわざもあるように、血縁を何よりも大切にするのが韓国の社会。未婚のシングルマザーで身寄りのない今作のドンベクは、オンサンのような田舎町ではやはり目立ってしまう。転居の挨拶で近所をひとりで回れば、必ず「旦那は何をしている人?」と尋ねられる。また、家で気軽に飲めない夫たちが「カメリア」に入り浸ることも商店街の妻たちは面白くないらしく、あらぬ噂話も立つ。

「椿の花咲く頃」Netflixにて配信中
そんな中でドンベクの唯一の味方となったのは、夫に先立たれて以来ひとりでヨンシクを育てた組合会長だったが、大事な息子の交際相手となると話は別。“テルマ&ルイーズ”のようだったドンベク&会長の友情はこじれてしまい、小さな町ゆえドンベク&ヨンシクの交際状況も周囲に筒抜けとなる。

そしてもうひとり、ドンベクにとってキーパーソンとなるのが「カメリア」のアルバイト、ヒャンミだ。彼女は店のビールを勝手に飲むし、誰かの忘れ物や落とし物はもれなく自分の懐へ。常にお金に困っている様子で、彼女にちょっかいを出そうとしたギュテや“隠し子”スキャンダルを盾にジョンリョルをゆすろうともする。しかし、飄々としながらその言葉は鋭く的を射ており、ハッとさせられることもしばしば。ドンベクはそんな彼女にどこかシンパシーを感じ、店に置き続ける。

特に印象的なのは、ドンベク&ピルグ親子にヨンシク、突然現れたドンベクの母ジョンスク、そしてヒャンミが、血縁の有無や離れていた時間を全く感じさせないほどひとつの家族のように見える瞬間があること。「何なんだろう、この子」と不思議で仕方のなかったヒャンミの背景は中盤以降になって明らかにされるのだが…。

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사랑하는 효진언니 생일축하해

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「愛するヒョジン姉さん」の誕生日をお祝いするソン・ダムビ
謎多きヒャンミを好演したK-POPシンガーでもあるソン・ダムビは、今作で女優としての評価が爆上がり。“親友”コン・ヒョジンの大賞を含む計12冠を獲得した2019年「KBS演技大賞」では新人賞に選ばれている。

さらに、ドンベクを捨てた母ジョンスク役を演じた『パラサイト 半地下の家族』の“家政婦さん”イ・ジョンウンの熱演も見逃せない。ジョンスクもまた不可解な言動をとり、急に姿を消してしまうことも。彼女がどこへ出かけているのか、そもそもなぜ、我が子を捨てたのか、なぜ、いまになって戻ってきたのかも、ある意味サスペンスとなって観る者を引きつける。

窮地に陥ったドンベクに手を差し伸べる“ヒーロー”たち


連続猟奇殺人犯ジョーカーの存在が暗い影を落とし、ひとクセもふたクセもある町民たちの介入で日常は決して穏やかとはいえないドンベク。だが、ついに決定的な出来事が起きてしまったとき、“ヒーロー”として立ち上がるのはこの町の少々厄介だが世話好きな女性たちだ。


何だかんだ言いながらも、キムチを漬けたらドンベクにももれなく配り分ける。私たちは元来“おせっかいが過ぎる民族”だからと、「愛の不時着」でも北朝鮮の舎宅村にいたキム・ソニョン演じるチャンスクが笑い飛ばす。小さなコミュニティの窮屈な部分は裏を返せば、いざというときに心強い連帯の旗印となり、人の善意を信じる希望となる。これに母が子を思う心、子が母を思う心が加われば、国境など軽々超えて涙腺を刺激してくるのだ。

身近にいてほしい!? 親しみ溢れるカン・ハヌルの魅力


現実にスーパーヒーローはいないからこそ、誰もが誰かにとってのヒーローになり得る。ドンベクにとってそれはオンサンの“姉”=オンニたち、“母”=オンマたちであり、ヨンシクだった。自尊感情が著しく低かったドンベクに笑顔と誇りを取り戻させたヒーロー、ウザ可愛いほど真っ直ぐで、アツ苦しいほどのおせっかいに溢れた男。

「椿の花咲く頃」Netflixにて配信中
この愛すべき青年ヨンシクを見事に演じきったカン・ハヌルは「愛の不時着」のヒョンビンや「梨泰院クラス」のパク・ソジュンらを抑え、大混戦の百想芸術大賞・TV部門男性最優秀演技賞を獲得、日本のSNSでも「カン・ハヌル本格的に気になり始めた」「惚れた」「沼にずぶずぶ」といった声が相次ぎ、注目度急上昇中だ。

2006年、ミュージカル「天上の時計」でデビューした彼は「ミュージカル界のアイドル」と呼ばれながら舞台とテレビを行き来し、2014年のtvN「ミセン-未生-」で主人公チャン・グレ(イム・シワン)の優秀なインテリ同期チャン・ベッキ役でブレイク。「2PM」ジュノやキム・ウビンと共演した映画『二十歳』では等身大の若者に、実在の音楽喫茶を舞台にした『セシボン』ではミュージカル仕込みの伸びやかで力強くも優しい歌声を披露して評価を集めた。

現在放送中の日本のドラマ「未満警察 ミッドナイトランナー」の原作『ミッドナイト・ランナー』では理論派のカン・ヒヨルを好演、時代劇「麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~」ではIUをめぐってイ・ジュンギと三角関係になる文武両道のプリンスを演じた。

クールなメガネの知性派から生真面目な優男まで巧みに演じ分けてきたが、兵役後の復帰作となった初主演ドラマ「椿の花咲く頃」のヨンシクは、インタビュー映像などから覗く彼の素顔に最も近しく感じられ、オンサンのような港町でひょっとしたら出会えるんじゃないかと思えるくらい、リアルな人間味に溢れた役柄で、間違いなく彼の代表作となった。

「椿の花咲く頃」Netflixにて配信中

そのひと言がずっと欲しかった…世知辛い時代に響くヨンシクの言葉


ドンベクはピルグの父親ジョンリョルと別れて以来、もう二度と恋愛するつもりはなかったはず。最初から頑なだった彼女の心を溶かしていったのは、ヨンシクが語りかける愛情に満ちた励ましの言葉の数々。「愛しています」という甘ったるさはなくとも、駅のベンチに並んで腰掛ける2人の姿に象徴されるような、受容し寄り添う言葉だった。


例えば第4話では、カッコよく生きたいのに自分はムリだと卑下するドンベクに、あなたは「誰よりも真面目で一生懸命」「誰よりも強くてすばらしい」「誰よりも立派です」と言うヨンシク。生まれて初めて褒められたドンベクは思わず涙が溢れ出るが、「忘れないように毎日でも言います」と涙をこらえながら付け加えるヨンシクと、「本気で好きになってしまったらどうしてくれるの」となおも強がるドンベクのシーンはこれ以上ないほどに愛おしい。

また、第6話では、仮にもし自分が恋をするなら、“愛されて育ったフリ”をしながら過去を知らない人と爽やかな恋をしたいとドンベクがうそぶき、「だからあなたじゃダメなんです」とヨンシクを突き放す。

その日はドンベクの“誕生日”(実際に生まれた日ではなく、母に捨てられた日)。こっそり仕掛けられたヨンシクからの粋なプレゼントには「僕が毎日あなたを祝福してあげます」との手紙が…。ヨンシクがいつも“きれいだ”“立派だ”と褒めてくれるから、自分はこのまま、ありのままでいてよいのだとドンベクがついに思えるようになった日でもあった。

「椿の花咲く頃」Netflixにて配信中
お互いを慈しみ合うドンベク&ヨンシクのカップルが時に涙ながらに交わす会話は、観る者の心をも浄化させる作用がある。奇しくもいま、オーディション番組「Nizi Project」のJ.Y. Park氏の名言が話題を呼んでいるが、現代を生きる私たちが本能的に求めていた言葉を今作ではカン・ハヌルのヨンシクが語りかける。今作のメッセージが、「笑ってほしい」と歌う「NiziU」の楽曲とも重なるのは決して偶然ではないだろう。

「椿の花咲く頃」はNetflixにて独占配信中。
《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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