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【映画と仕事 vol.25 後編】なぜいま『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』を一挙上映? スクリーンで観ることの素晴らしさ

配信プラットフォームの普及もあって、新作・旧作を問わず、スマホで映画を鑑賞することがごく当たり前の日常となった。それでも「絶対に映画館のスクリーンで観なくてはいけない映画がある――」。映画宣伝プロデューサーの岡村尚人さんは、そう言葉に力を込める。

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『荒野の用心棒』ⓒ1964 Unidis, S.A.R.L. All Rights Reserved.
『荒野の用心棒』ⓒ1964 Unidis, S.A.R.L. All Rights Reserved.
  • 『荒野の用心棒』ⓒ1964 Unidis, S.A.R.L. All Rights Reserved.
  • 岡村尚人 氏/photo:Naoki Kurozu
  • 『夕陽のガンマン』 ⓒ1965 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved
  • ドル3部作4Kポスター
  • 『荒野の用心棒』ⓒ1964 Unidis, S.A.R.L. All Rights Reserved.
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  • 『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』© 1966 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved.
  • 『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』© 1966 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved.

配信プラットフォームの普及もあって、新作・旧作を問わず、スマホで映画を鑑賞することがごく当たり前の日常となった。それは善し悪しの問題ではなく、もはやスタイルである。それでも「絶対に映画館のスクリーンで観なくてはいけない映画がある――」。映画宣伝プロデューサーの岡村尚人さんは、そう言葉に力を込める。

このたび、日本で初となる一挙上映が実現したセルジオ・レオーネ監督×クリント・イーストウッド主演「ドル3部作【4K】」(『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』)。その企画者であり、宣伝プロデューサーを務める岡村さんのインタビュー【後編】をお届け。36年におよぶ宣伝マンとしての歩みと共に、レオーネの映画をスクリーンで観ることの素晴らしさについて熱く語ってくれた(インタビュー【前編】はこちら)。

「今重要なのは、昔の優れた作品を映画館のスクリーンで観ること」


――『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』という社会現象にまでなったメガヒット作品の宣伝に携わってきた岡村さん。所属していたメイジャーの宣伝部解散に伴い、映画会社ムービーアイに移籍し、ここでもさまざまな作品の宣伝を担当するが、映画業界をとりまく厳しい現実を目の当たりにすることになる。

2005年にムービーアイに入社し、そこでも多くのいい作品に関わらせてもらいましたが、2009年に残念ながら倒産してしまいました。以前『ラストエンペラー』や『アマデウス』といった名作を配給した松竹富士がなくなってしまった時、映画ファンとして「映画会社ってなくなるものなんだ…」と驚き、悲しくなりましたが、それを我が身で痛感したのが2009年でした。

会社がなくなって、どうしようかと思っていたら、ちょうど2010年から「午前十時の映画祭」という企画が始まることになって、その事務局を立ち上げようとしていたのが、以前『もののけ姫』の宣伝プロデューサーだった矢部勝さんで、矢部さんから「午前十時の映画祭」の事務局に誘っていただいたんです。

いまでこそ昔の映画を映画館で観ることが自然になりましたけど、「午前十時の映画祭」が始まった当時は「え? だってこのラインナップ、全部DVDで見られるじゃん。何で映画館でやるの?」という反応が多かったんです。でも、映画祭の企画プロデューサーで、かつて東宝の宣伝部長もされていた中川敬さんが「今重要なのは、昔の優れた作品を映画館のスクリーンで観ることだ」とおっしゃって、それは本当に素晴らしいことだと思いました。

私は「午前十時の映画祭」の10回目まで事務局でお世話になったんですが、それと並行して宣伝プロデューサーとして他の企画にも関わっていました。

最初はウィリアム・フリードキン監督の『恐怖の報酬』【オリジナル完全版】の日本初公開です。『恐怖の報酬』が1978年に日本公開された時、「これはすごい映画だ」と思ったんですが、この超大作の上映時間がたった90分なのはどう考えてもおかしいと感じていたんです。その後、フリードキンがインタビューで「本当は2時間あったけど、北米以外では90分に切られた」と話しているのを読んで、以来ずっとこの作品のことが頭の隅にありました。

『恐怖の報酬』【オリジナル完全版】(C) MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

業界で働き始めてからもずっと気になっていて、2009年に知り合ったキングレコードの長谷川英行さんとも「『恐怖の報酬』の完全版、何とかできないか?」と話をしていたんです。そして遂に2013年にヴェネツィア国際映画祭で4Kリマスター版が上映されて、その後も長谷川さんにずっと動きを追ってもらっていたんですが、キングの国際部の方がスペインのシッチェス映画祭に行った時、そこで知り合いと話しをしていて、個人的にフリードキンを紹介してもらえることになったんです。確かそんな流れでした。

ウィリアム・フリードキンPhoto by Stephane Cardinale - Corbis/Corbis via Getty Images

そうしたら、フリードキンからメールが来て「この作品はすごく大事なので、よほどのことがないと権利は出さない」と言ってきたそうなんですが、長谷川さんが腹を決めて「我々は本気だ。ちゃんと劇場公開するし、パッケージも出す」と伝えたら、フリードキンは「わかった。それなら出そう」と納得してくれたそうです。

この作品をなんとかしたい、と言い出したのは私でしたが、長谷川さんとキングレコードの皆さん、そして配給のコピアポア・フィルムのおかげでオリジナル版を初公開することができ、興行的にもヒット、作品の名誉回復に繋がったことが何よりうれしかったですね。

TVやスマホではなく、スクリーンで観るべき作品


――続いて、岡村さんが手がけたのが、セルジオ・レオーネ監督作で、原案にはダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチが名を連ねる西部劇『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』の完全版の上映だった。

『恐怖の報酬』の成功で調子に乗りました(笑)。この作品も日本で最初に公開された1969年当時は『ウエスタン』というタイトルで短縮版での上映だったんです。2時間45分の完全版をどうにかしてやりたいと思って、あちこちに声をかけて実現することができました。初日の丸の内ピカデリーはかなりの盛況で、上映後に拍手が起こりました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(C) 1968 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

――岡村さん自身、その機会に同作のリマスター版をスクリーンで観たが、劇場のスクリーンで観るからこそのさまざまな発見があったという

家のテレビやスマホで見ても面白い映画はたくさんあります。例えば『ローマの休日』は名作ですし、もちろん映画館で観るのが一番だと思いますけど、じゃあTVのサイズで見たらその魅力が大きく損なわれるかというと、実はそうでもないと思います。なぜならあの映画の魅力の中心はオードリーとグレゴリー・ペックで、撮影ではないから。

でもレオーネの映画はスクリーンで見ないとダメなんです。なぜかというと、画面のレイアウトがスコープサイズ仕様になっているから。レオーネの映画ほど考え抜かれた構図やフレーミングの映画って滅多にないんですよ。60年代だと市川崑監督の『雪之丞変化』のスコープ撮影も素晴らしかったですけどね。ベルトルッチの『ラストエンペラー』もそうですけど、“空間”をカッコよく表現する映画監督っているんですよ。レオーネはその筆頭だと思います。

『夕陽のガンマン』 (C) 1965 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved

――その後、コロナ禍が世界を覆い、さらには円安も相まって海外作品の買い付け自体が非常に難しい状況になる。そんな中、岡村さんはレオーネ監督×イーストウッド主演の『夕陽のガンマン』を何とかできないかと考えていたが…。

『夕陽のガンマン』は「午前十時の映画祭」でもやっていなかったので、権利だけでも押さえておけないかと考えました。ところが円安がさらに進んで「これはもう高くてちょっと手が出せないな」と思っていたんです。そうしたら、ムービーアイの元同僚で『ワンス~イン・ザ・ウェスト』も配給してくれたアーク・フィルムズの上野廣幸さんが、「どうせなら『夕陽のガンマン』だけでなく、3部作全部やろう」と言ってくれたんです。資金調達には上野さんのお知り合いの方々が協力してくれて、今回非常に感謝しています。

ただ『荒野の用心棒』に関しては、日本での上映権を有しているのが「黒澤プロダクション」なので、私たちの企画意図をご説明し、上映権をお借りすることが出来ました。他の2作品に関しては、旧作上映の窓口になっているイギリスの代理店を通じて権利元MGMと交渉し、日本での上映権を取得。今回、日本で初めて“ドル三部作”の一挙上映を行なうことになったわけです。

「ポスターとチラシと予告篇は本気で作れ」本気の宣伝は人の心を打つ


――岡村さんにとっては、映画の世界への引き込まれるきっかけとなった作品であり、宣伝にかける思いも並々ならぬものがある。

今回のチラシやポスターの文言は、全て自分で考えました。チラシに「面白くてカッコいい映画の原点にして頂点、それが《ドル3部作》だ」と書きましたけど、この言葉が全てですね。売り文句、宣伝文句というよりも、私の本心です。

世の中には面白い映画、立派な映画、すごい映画はたくさんありますけど、「面白くてカッコいい」映画、しかも3部作全てが面白くてカッコいい映画があるかと言ったら、実はこの“ドル3部作”以外に思い付かないんですよ。いいやそうじゃない、という人がいても構わないんですが、自分にはやはりこの3本しかないんです。

今回の宣伝は、いま見て「カッコいい」と思ってもらえなきゃダメだという意識でやっています。ポスターの写真やロゴも、往年のマカロニ・ウエスタンのファンが「懐かしい」と思うようなものじゃなく、今の若い人たちにも響くようなデザインにしたつもりです。

その一方でチラシの宣伝のコピーに関しては

いつ観ても傑作   『荒野の用心棒』

誰が観ても傑作   『夕陽のガンマン』

どこから観ても傑作 『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』

バカみたいでしょ(笑)。宣伝としては禁じ手です。その映画が傑作かどうかを決めるのはお客さんですから。それでも言い切ったのは、自分自身が本当にそう思っているからです。こいつバカかと笑われても、今回はいいやと思いました。自分に嘘はついていません。

いま、若い宣伝プロデューサーにアドバイスするとしたら、「ポスターとチラシと予告篇は本気で作れ」ということですね。私自身、考え方がヌルい時もあったから分かるんですけど、本気で考え抜いて作ったビジュアルやキャッチは、やはり人の心を打つんですよ。必ずお客さんに伝わると思います。

――最後に、これから映画業界を志す人たちに向けて、岡村さんはこんなメッセージを残してくれました。

自分の経験を振り返ると、仕事って人と人とのつながりの中から生まれてくるんです。それはどの業界でも同じだと思います。相性の悪い人もいれば、相性ピッタリの人もいるけれど、まずは人間関係を大切にしてほしいですね。そして出会った人たちの中から、仲のいい友人や同僚、尊敬できる先輩を見つけてほしいと思います。年下の人でも面白い考え方を持つ人はたくさんいます。いろんな人から学び、吸収することを、仕事をする喜びにしたいですね。

岡村尚人 氏

人とのつながりを大切にしていれば、何かあった時に「あぁ、あいつがいたよ」という感じで思い出されて仕事が回ってきますよ。自分もずっとそうやって周りの人たちに助けられてやってきました。

世の中、本当に想像もつかないことが起こりますからね(笑)。

『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』は3月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開。

《photo / text:Naoki Kurozu》

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