「第34回 日本映画批評家大賞」授賞式典が6月9日(月)に都内で開催され、吉沢亮が主演男優賞(『ぼくが生きてる、ふたつの世界』)、河合優実(『あんのこと』)が主演女優賞、綾野剛(『まる』)と森優作(『ミッシング』)が助演男優賞、忍足亜希子(『ぼくが生きてる、ふたつの世界』)が助演女優賞を受賞し、喜びを語った。
水野晴郎が発起人となり、淀川長治、小森和子ら映画評論家の提唱で設立され、今年で34回目を迎える同賞。アニメーション作品賞では『ルックバック』(押山清高監督)が受賞となり、この日登壇した河合の主演映画となった山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』が新人監督賞に選出された。なお、ゴールデン・グローリー賞(水野晴郎賞)が根岸季衣(『サユリ』)、ダイヤモンド大賞(淀川長治賞)が草笛光子(『九十歳。何がめでたい』)に贈られた。

『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で主演男優賞を受賞した吉沢は、「いつかご一緒できる機会があればうれしいな」と憧れていた呉美保監督の作品に出演できたこと、さらにその作品で受賞できたことに「この上ない喜びを感じています」と笑顔を見せた。本作で2か月にわたり手話をみっちり練習し、コーダの人からも絶賛されたという吉沢は「この作品に関わらせていただくにあたって、ただ(手話を)覚えるわけでなく、使いながらコミュニケーション、芝居構築をすることが難しいなと思っていました。手話指導の方々に温かく支えてくださって、どうにか形にすることができました」と感謝を伝えていた。

同作で吉沢の母親役を演じ、助演女優賞を受賞した忍足は「本当に光栄です。監督や吉沢さんと、丁寧にこの映画を最後まで作り続けてきました」と感無量のスピーチ。さらに「吉沢さんの手話は、現場で会ったときにコーダならではの手話表現が見られたので、本当に素晴らしいと思いました。ここまで身に着けられたなんて、今でも鳥肌が立っています」とその努力を讃えた。

そして作品賞を受賞した呉監督は「実は10年前に監督賞をいただいたんですが、陣痛で入院したときで。それからもう映画を作ることはできないだろうと思っていましたが、まさか復帰できた喜び、その作品で4つの賞でこの場に立てていることがうれしくて感謝しています」と出演者らとともに喜びをわかちあった。

『あんのこと』で主演女優賞を受賞した河合は、「今思い返すと、面白い映画にしようとか、素敵な映画にしようというより、まず自分が一つ一つのシーン、カットに臨むときにどれだけ心と体を捧げられているかを大切にしていた気がします。まずは真摯に毎日現場で映画を作ることに務めていました。これからも自分が誰かを演じること、映画を作ることが世界にとってちゃんといい働きかけになっていたらすごくうれしいので、頑張って続けていきたいです」とスピーチした。

同作で監督賞を受賞した入江悠監督は、「演出らしい演出を全然していなくて。脚本を書いて準備はしたんですけど、現場ではほぼ何も言っていないに等しいんです」と謙遜しながらも、劇中で描かれていることについて「あっという間に個人が孤立することが起こり得るのが2020年からわかって、誰にでも起こり得るのではと。どうしたらそうならないんだろうと考え続けるプロセスで、まだ答えが出ていないけど、観客と話し合いながら感想も聞いて探す旅をずっと続けている感じもします」と滔々と語った。

また、助演男優賞は今回『まる』の綾野と『ミッシング』の森の2名におくられた。綾野からのビデオメッセージでは「監督の荻上さんと堂本剛さんとともに作り上げた大切なキャラクターです。横山という彼にいくばくかの光を与えていただいてとても感謝申し上げます」と思いを寄せた。

一方、森は自身の演じた役について「いろいろな思いを抱えたままそれをうまく外に出せないタイプの人間で。少し何を考えているかわからなかったりどこか変わった部分があるような人に思われますが、でも自分は毎日今日もどこかですれ違っている人の背中に彼の背中が重なる部分があるのではと感じていて。それはときに自分自身の背中。なので、光を当ててもらえることが一つの希望でとてもうれしいです」と思いのたけを語っていた。

受賞結果は以下の通り。
【第33回 日本映画批評家大賞】
作品賞:『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(呉美保監督)
監督賞:入江悠監督『あんのこと』
主演男優賞:吉沢亮『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
主演女優賞:河合優実『あんのこと』
助演男優賞:綾野剛『まる』
森優作『ミッシング』
助演女優賞:忍足亜希子『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
ドキュメンタリー賞:『大きな家』(竹林亮監督)
アニメーション作品賞:『ルックバック』(押山清高監督)
新人監督賞:山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』
新人男優賞(南俊子賞):齋藤潤『カラオケ行こ!』
本山力『十一人の賊軍』
新人女優賞(小森和子賞):長澤樹『愛のゆくえ』
脚本賞:甲斐さやか『徒花-ADABANA-』
編集賞(浦岡敬一賞):田端華子『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
松永文庫賞(特別賞):東映剣会
ゴールデン・グローリー賞(水野晴郎賞):根岸季衣『サユリ』
ダイヤモンド大賞(淀川長治賞):草笛光子『九十歳。何がめでたい』
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