近年、韓国の名優たちの訃報が相次いでいる。
なかでも、2023年12月にこの世を去ったイ・ソンギュンさんは、カンヌ国際映画祭批評家週間に出品された『スリープ』、同・ミッドナイトスクリーニング部門に出品された『プロジェクト・サイレンス』と日本公開されてきたが、8月22日(金)公開の『大統領暗殺裁判 16日間の真実』(原題:幸福の国)がついに最後の出演作品となる。
『KCIA 南山の部長』の朴正熙大統領暗殺事件と『ソウルの春』の軍事クーデターという2つの歴史的事件をつなぐ政治裁判を、フィクションを交えて描き出した本作で、イ・ソンギュンさんは窮地に追い込まれても愚直なまでに信念を貫いたパク・テジュ大佐を演じ切った。

名門・韓国芸術総合学校演劇院を卒業後、2001年にミュージカル「ロッキーホラーショー」でデビュー。山崎豊子の名作小説をドラマ化した「白い巨塔」で“里見医師”に相当するチェ・ドヨン役と、「コーヒープリンス1号店」でコン・ユ演じるチェ・ハンギョルの従兄ハンソンを演じて大ブレイク。

「ヴィンチェンツォ」でも物まねされた魅力的な低音ボイス、インテリでスマート、柔和なイメージがありながら、ときには軽妙な演技、ときには激情を放つ演技でファンを魅了してきた。
追悼の特集上映が組まれ、韓国映画功労賞を受賞した昨年の第29回釜山国際映画祭では、パク・チャヌク監督の『坡州 パジュ』、ホン・サンス監督の『ソニはご機嫌ななめ』、日本リメイクも記憶に新しい『最後まで行く』、アカデミー賞作品賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』、コロナ禍の日本を癒やしたドラマ「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」とともに、遺作となった『大統領暗殺裁判 16日間の真実』が紹介された。

ホン・サンス映画の常連でもあり『教授とわたし、そして映画』や『ソニはご機嫌ななめ』で共演したチョン・ユミと、『スリープ』(U-NEXTほかにてレンタル配信中)では夫婦役で再共演が実現、眠っている間に異常行動を起こす夫ヒョンスを怪演した。

一転、チュ・ジフン、キム・ヒウォンらと共演した『プロジェクト・サイレンス』(U-NEXTほかにてレンタル配信中)では国家安保室のジョンウォン役に。陰謀うずまくディザスターパニックの中で、娘ギョンミン(キム・スアン)との絆が再生していくドラマも観る者の胸を打った。

第9回大阪韓国映画祭で紹介された『キリング・ロマンス』(原題)では、新興財閥のジョナサンとしてコメディに振り切った姿も忘れられない。
そして『大統領暗殺裁判 16日間の真実』で演じたパク・テジュの姿は、“法廷は善悪でなく勝ち負けを決める場所”と信じてきた弁護士チョン・インフ(チョ・ジョンソク)に影響を与えながら、頑なに清廉で、正しくあろうとした信念の人が彼自身に重なって見えてくる。

彼のような俳優はもう二度と現れない――。そんなことを実感する、まさに魂の遺作。
なお、同作には8月初めに亡くなったソン・ヨンギュさんも出演している。
魅力的な低音ボイスと変幻自在の演技力は永遠
☆イ・ソンギュン プロフィール
生年月日:1975年3月2日(ー2023年12月27日)
出身地:韓国・ソウル特別市
☆主な出演作
「恋人たち」(ドラマ、2001)
「蜘蛛女の愛し方」(SPドラマ、2005)
「白い巨塔」(ドラマ、2007)
「コーヒープリンス1号店」(ドラマ、2007)
『坡州 パジュ』(映画、2009)
「パスタ~恋が出来るまで~」(ドラマ、2010)
『火車 HELPLESS』(映画、2012)
『僕の妻のすべて』(映画、2012)
「ミス・コリア」(ドラマ、2013)
「嫉妬の化身」声だけの特別出演(ドラマ、2016)
『最後まで行く』(映画、2014)
『王様の事件手帖』(映画、2017)
『修羅の華』(映画、2017)
「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」(ドラマ、2018)
『PMC:ザ・バンカー』(映画、2018)
『パラサイト 半地下の家族』(映画、2019)
Apple TV+「Dr.ブレイン」(ドラマ、2021)
『キングメーカー 大統領を作った男』(映画、2022)
「ペイバック~金と権力~」(ドラマ、2023)


