韓国発スリラー映画『侵蝕』より制作秘話とメイキングカットが解禁された。
危険な行動を引き起こす娘とその恐怖と責任の重さに苛まれる母親の物語と、20年後、幼少期の記憶を無くした女性と天真爛漫な侵入者による物語の、時を隔てた過去と現在が地獄のように交錯していく様が描かれる本作。20年という時間の隔たりを、物語構造と空間の対比によって明確に描き出すことで、ジャンル特有の魅力をより一層引き立てているという。

娘の異常行動に悩み苦しむ母親ヨンウンと、制御不能の娘ソヒョンの物語の大部分が展開される「プール」は、ヨンウンにとっては職場であると同時に、娘との関係から一時的に逃れられる唯一の場所でもある。
一方で、水を怖がるソヒョンにとっては、母親から厳しい躾を受ける“強制”の空間でもある。そのような空気感を可視化するために、制作チームは温かみや日常感を排した、大規模な屋内プールを選択。水の存在感を際立たせ、全体のカラーパレットもブルー系を基調に、彩度を抑えたライティングで統一することで、ヨンウンの内面にある恐れや重苦しい心理状態を視覚的に表現している。

さらに、ヨンウンとソヒョンの間にある緊張や抑圧された感情を強調するために、ファンタジー・スリラー的な要素も備えた「飛び込み用の深いプール」を使用。セットデザインや小道具も必要最低限に抑え、観客の意識が常に2人の心理的な揺れ動きに集中するよう設計されている。
ヨンウンとソヒョンが暮らす家もまた、そのプール空間の延長のように、一般的な“家庭”にあるはずの温かさをあえて排し、モノトーンで構成。唯一の例外はソヒョンの部屋で、ここだけが鮮やかな色合いと私物にあふれており、この空間的コントラストが母と娘の張り詰めた関係性をさらに浮き彫りにしている。
そして20年後、記憶を無くし心を閉ざしたミンと、突然現れた隣人ヘヨンの物語が展開する家は、空間の構造そのものが登場人物の関係性と心理状態を反映するよう、細やかに設計されている。
家主であり、ミンとヘヨンが働く特殊清掃業の上司でもあるヒョンギョンの部屋は家の最奥に位置し、その隣にヘヨンの部屋、そしてミンの部屋は玄関に最も近い場所に配置されている。この空間配置が、ヘヨンの登場によって少しずつ変化していく三者の関係性を視覚的に象徴している。

また、各部屋はそれぞれのキャラクターを象徴する色彩で構成されており、ミンの部屋は無機質で個性を排した“中立”な空間。睡眠のためだけに存在しているような印象だ。一方、ヘヨンの部屋は雑多な物にあふれた散らかった空間で、その混沌とした様子が彼女の予測不能な一面を強調している。
照明もまた、シーンの緊張や感情のぶつかり合いを強調するために、彩度やコントラストをダイナミックに調整。登場人物たちの変化していく心理状態に呼応するように、空間や光が変化していくことで、本作は“心理の崩壊”をテーマにしたジャンルスリラーとしての没入感と説得力を最大限に高めている。

併せて公開となったメイキングカットでは、待機中にプールでバタ足をして遊ぶクァク・ソニョンとキ・ソユの仲睦まじい様子や、絵コンテや映像を確認するクォン・ユリにイ・ソル。またウサギの人形を抱きしめて、本作では見られない心からの笑顔を見せるキ・ソユに、ハグして写真を撮るクァク・ソニョンとキ・ソユなど、温かく、和気あいあいとした撮影風景が捉えられている。
『侵蝕』は新宿ピカデリーほか全国にて公開中。


