懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。月舟アパートメントに住んでいる雨降り先生の「私」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋の青年、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さんは、毎夜そこに集う常連客だった。風変わりな人々といたって普通の「私」。なじめるはずもなかった「私」だったが、桜田さんに“二重空間移動装置”という名の万歩計を売りつけられ、デニーロの親方には“唐辛子千夜一夜奇譚”という本を売ってもらう。そして、果物屋の青年と“宇宙の果て”について考え、タブラさんの息子と“エスプレッソマシーン”について懐かしみつつ、売れない女優の奈々津さんにお芝居を書いてほしいと頼まれる。そんな何でもないような、でもちょっとした出来事を積み重ねていくうちに「私」は過去の自分、そして未来の自分と次第に対峙していく――。
篠原哲雄
吉田篤弘のロングセラー小説を、舞台、TVと幅広い活躍を見せる八嶋智人と元宝塚の男役トップスター、月船さららを主演に迎えて映画化した『つむじ風食堂の夜』が11月21日(土)に公開初日を迎え、第1回目の上映前に八嶋さん、月船さん、篠原哲雄監督による舞台挨拶が渋谷のユーロスペースで行われた。八嶋さんらはマイクを使わずに直接、観客に向かって語りかけ、会場は初めての上映を前に大きな盛り上がりを見せた。
舞台から映画、TVドラマ、バラエティ番組まで、その流暢な語り草とスパイスの効いたキャラクターで、独特の存在感を示す八嶋智人。昨年公開された『秋深き』で映画初主演を飾った彼が今回、ノスタルジーあふれる篠原哲雄監督の最新作『つむじ風食堂の夜』で二度目の主演を果たした。名前のない、「私」という役を通して見えてくる、役者・八嶋智人のこだわりとは——。