1939年11月8日、ミュンヘンのビアホールで恒例の記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く切り上げた。その直後、ホールに仕掛けられていた時限爆弾が爆発、ヒトラーが退席して13分後のことだった。その日のヒトラーの予定を徹底的に調べあげた計画は緻密かつ大胆、時限装置付の爆弾は精密かつ確実だった。ゲシュタポ(秘密警察)の推理は単独犯はありえない、イギリスの諜報員の仕業だと睨んだが、逮捕されたのは、36歳の平凡な家具職人、ゲオルク・エルザー。スパイどころか、所属政党もなく、たった一人で実行したと主張する。 にわかには信じられない供述の数々―それを知ったヒトラーは、決行日までの彼の人生を徹底的に調べるよう命じる…。
オリバー・ヒルシュビーゲル