メリル・ストリープに訊く、輝きの源——「年を重ねることは、豊かになること」

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『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 メリル・ストリープ photo:Yoshio Kumagai
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アカデミー賞ノミネート最多17回。うち『クレイマー、クレイマー』('79)で助演女優賞、『ソフィーの選択』('82)で主演女優賞、新作『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』では3度目のアカデミー賞受賞となる主演女優賞を手にしたメリル・ストリープ。28歳のときに映画『ジュリア』('77)で銀幕デビューを飾ってから34年間、常に世界の映画界のトップを走り続けてきた、誰もが認める名女優だ。

彼女が今回演じるのは、元英国首相マーガレット・サッチャー。西洋史上初めて一国のトップに立った女性であり、20世紀最長の任期をまっとうした首相であり、“鉄の女”のニックネームと共に歴史にその名を刻んだ人物。現在も生きている有名な人物を演じることは、大女優であっても相当荷は重かったはず。メリルは「正確で真実に近い役作り」に徹し、その言葉のとおり、微妙なイギリス英語のアクセントを身につけ、髪型、メイクアップ、仕草、話し方、サッチャーのすべてに自身を近づけた。スクリーンの中にいるのはまさにサッチャーそのもの。そして、サッチャーを知ることで、“鉄の女”というイメージからは想像がつかない一面に驚かされたのだと、ほほ笑んでみせる。

「驚いたこと? 数え切れないほどあるわ! 一番驚いたのは、あれほど多忙で仕事に打ち込んでいたにも関わらず、彼女の家に料理人がいなかったことね。朝食も夕食も彼女自身が作っていたのよ。あまり上手ではなかったらしいけれど(笑)。1日平均4時間の睡眠で、仕事と家事の両方をこなす、そのスタミナとエネルギーは超人的、本当にすごいと思う。面白いエピソードがあるのよ。彼女の仕事場の上が自宅になっているんだけれど、2階で内閣の会議をしていると上の階から夫・デニスが降りてきて、『彼らはお腹が空いているんじゃないのか?』って官僚たちに料理をふるまうよう指示するの。すると『あら、そうだったわね!』って彼女、3階の自宅に行って料理を作るのよ。しかも、一国の首相の家なのに彼女の家のキッチンは質素でね、大きさは、そう、このくらいね…」と椅子から立ちあがり、身振り手振りでキッチンの大きさを伝えるメリル。なんともチャーミングだ。

今年63歳を迎えるメリルの顔には、もちろん年齢を感じさせるいくつものシワが刻まれている。けれど、そのシワの1本1本すら美しく見えてしまう。そう表現すれば、彼女の魅力がどれほどのものか伝わるだろうか。この日は、シックな紺色のワンピースに黒いブーツ、黒縁めがねという飾らないスタイリング。唯一、鮮やかだったのは指先のまっ赤なネイル。そのさりげない女性らしさは、ますますメリルの知的さを際立たせる。そして、話は女性としてのサッチャーの人間力へ。

「政治家として男社会で男と対等に生きていくために、彼女は、泣くことや笑うことといった女の弱々しさを決して表に出さなかった。だから“鉄の女”と呼ばれたのね。それでも彼女が女性として魅力的だと思うのは、たとえ首相になっても女らしさを失わなかったこと。ハンドバッグやキラキラしたブラウスを着ることで、彼女は女らしさを保っていたの」。親しみを込めてサッチャーの想いを代弁する。政治家としての栄光と挫折を経験し、そのために犠牲にしたのかもしれない家族の愛に戸惑い、妻として、母として、ひとりの女性として必死で生きたサッチャーの人生に、観客は自然と自分自身を重ね合わせることだろう。特にセリフのないシーンで深く共感してもらえるのではないかと、メリルは期待を寄せる。
「映画のセリフのない部分は、観客一人ひとりがセリフに惑わされることなく、自分のイマジネーションを膨らませて観ることができると思うの。もちろん、そういう自由な演技の場を監督から与えてもらったことも幸せだったわ」。『マンマ・ミーア!』('08)に続くタッグとなるフィリダ・ロイド監督を始め、脚本のアビー・モーガン、編集のジャスティン・ライトなど、女性スタッフに囲まれた環境もメリルにとっては大きな支えとなった。

また、ロイド監督は「この映画は老いについての映画でもある」と言葉を残している。強く、厳しい“鉄の女”だったリーダーが、認知症に苦しんでいると娘の回顧録で発表されたのは2008年のこと。この映画でも晩年のサッチャーが幻想の夫に「あなたは幸せだった?」と問いかけるシーンがある。サッチャーの40年という人生を演じたメリル自身は、62歳のいまをどう生きているのだろうか。どんなことに幸せを感じているのだろうか。

「そうね…、若き日のサッチャーのセリフに、『お皿を洗うだけで一生を終えたくないわ! お母さんみたいになりたくないのよ!』というセリフがあるけれど、そんなことが言えるのは23歳の女の子だけよ(笑)。若さゆえの傲慢な発言ね。年を重ねることは、経験を積むこと、豊かになること。それって素晴らしいことでしょう。年をとるからこそ、鳥の声や子供の遊び声、お皿を洗うことでさえも美しいこととして捉えられるんですもの。映画のラストシーンはそんな(老いの)ステージの美しさを描いているのよ。ただ映画界においては、老いたあなたは見たくないわって、仕事が減ってしまう。それは残念なことよね」。

老いを心の豊かさと受け止め生きているからこそ、メリル・ストリープという女優は60歳を過ぎてもなお求められ、第一線で活躍し続けるのだろう。そして、彼女のシワの一つ一つが美しく知的に見えるのは、彼女自身もまたシワの向こう側にある人生を見つめているから。「意外かもしれないけれど、私もロイド監督もよく地下鉄やバスに乗るのよ。そこには幸せも不幸せも含めていろいろな人たちがいる。一つのシワの背景に、その人のどんな人生があったんだろうって考えさせられるの。その人たちの人生を見ることが好きなのよ」。

どう年を重ねていくのか、どう生きていきたいのか──。メリル・ストリープが全身全霊で演じたマーガレット・サッチャーには、自分らしく生きるためのヒントがぎゅっと詰まっている。決断する勇気、信念を貫く強さ、何よりも人生は愛おしいもの、人生は美しいものだと気づかせてくれる。

《photo:Yoshio Kumagai / text:Rie Shintani》

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